より少ないもので、より豊かにする方法【SDGsの進め方】
SDGs(持続可能な開発目標)を達成するために、私たちに必要なことは何でしょうか?
資源やエネルギーを使う量を減らして、少ない資源やエネルギーだけで我慢し忍耐することでしょうか?
我慢や忍耐だけで頑張るのはチョット辛いですよね。やはり豊かさを求めることは人の自然な感情だと思います。
でも「省資源や省エネルギー」と「豊かさの追求」を両立させることは難しいといえます。これらは対立するからです。
「省資源や省エネルギー」とは、使うものを「少なくする」ことを意味します。それに対して「豊かさの追求」は、一般的には使うものを「多くする」ことを意味します。
そのため「省資源や省エネルギー」と「豊かさの追求」では、「少なくする」対「多くする」という真逆の対立が生じることになります。
私たちは、この対立を解決し、「省資源や省エネルギー」と「豊かさの追求」を両立させることができるでしょうか?
この記事では、上記の対立を解決することで、より少ないもので、より豊かにする方法を提案します。
希望の技術法則
「省資源や省エネルギー」と「豊かさの追求」の対立は、「少なくする」対「多くする」という真逆の対立です。
どうすればよいでしょうか?
希望となる技術の法則があります。次の法則です。
技術システムの発展法則
この法則では、「技術システムは、より少ない資源やエネルギーで、より多くの機能を提供する方向に発展する」ことが示されています。
TRIZ(発明問題を解決する理論)の開発者たちが、世界中の特許の分析や、さまざまな分野(技術、ビジネス、芸術など)の研究を行うことによって発見した法則です。(TRIZについては、記事の最後の「TRIZとは」をご覧ください)
この法則をうまく使えば、「省資源や省エネルギー」対「豊かさの追求」の対立を解決することができそうです。
そのためには、この法則を正しく理解することが必要です。まずは「システムとは何か」から考えましょう。
システムとは
ここでは、システムを次のように定義します。
システム:ある目的を持った集まり
それで技術システムは次のようになります。
技術システム:ある目的を持った技術的なものの集まり
技術システムの具体的な例として、次のようなものがあります。
・製品(電気製品、電子機器、家具など)
・乗り物(自動車、電車など)
・その他の機械
・建物
・設備、など
システムの考え方については以上です。
システムの主要機能
システムを「ある目的を持った集まり」と定義しましたが、もう少し具体的にいうと「〇〇するという目的を持った集まり」といえます。
この「〇〇する」を主要機能と呼びます。
システムの主要機能:システムの目的となる機能
自動車を例にして説明します。自動車をひとつのシステムとして見た場合、その主要機能を次のように定義することができます。
人を移動する
荷物を移動する(運ぶ)

説明を簡単にするために、上記1だけを取り上げて説明します。上記の「1」を図で表すと、次の図のようになります。このような図をシステム図と呼びます。

自動車には多くの部品があります。これら多くの部品が集まって自動車システムができています。自動車システムを次のように定義することができます。
自動車システム:「人を移動する」という目的を持った多くの部品の集まり
このように自動車などの「乗り物」や、また「製品・機械・建物・設備」といったさまざまなものを、1つのシステム(ある目的を持った集まり)として見ることができます。
システムの考え方や、システムの主要機能など、「技術システムの発展法則」の理解に必要な予備知識を説明しました。
技術システムの発展法則
では本題の発展法則をご紹介します。次のようにシンプルな法則です。
技術システムの発展法則:技術システムは、理想性が向上する方向に発展する
技術システムの発展の度合い(レベル)を表すものとして、TRIZには理想性という考え方があります。理想性の定義はいくつかありますが、この記事では次の式を用いて説明します。(参考文献1)

(この式は概念を示すものです。それぞれの項目には単位はありません。)
理想性の向上
理想性の式によると、式の分子(主要機能)を大きくし、分母(重量+サイズ+消費エネルギー)を小さくすれば、理想性が向上します。

「技術システムの発展法則」では、上の図が示す方向に技術システムが発展していくことが示されています。
理想性の向上を、顧客の観点から考えてみましょう。顧客とは「購入の意思とその能力がある人」のことです。つまり「製品(技術システム)を買おうと思っている人」のことです。
顧客には既存顧客も含まれます。既存顧客とは「既に購入した人」のことです。製品(技術システム)のユーザーともいえます。
次の2つの観点から「理想性の向上」を見ていきます。
顧客:製品(技術システム)を買おうと思っている人
ユーザー:製品(技術システム)を買って使っている人
1.顧客のニーズは機能にある
ドラッカーの書籍『テクノロジストの条件-ものづくりが文明をつくる』では次のように述べられています。(概要です)
顧客の関心は常に、その製品が自分に何をしてくれるかである(参考文献2)
顧客の関心は「製品そのもの(物)」ではなく、「その製品が自分に何をしてくれるか」です。つまり顧客のニーズは「その製品が提供する機能」にあるといえます。
この点を理想性の式で考えましょう。「製品そのもの」(製品の本体)は分母(重量+サイズ+消費エネルギー)に相当します。そのため顧客のニーズは分母ではないといえます。
一方で顧客が求めるものは製品の機能(主要機能)であり、これは式の分子に当たります。そのため顧客のニーズは分子を大きくする方向に働くといえます。
次はユーザーの観点から考えましょう。
2.ユーザーは小さな分母(重量+サイズ+消費エネルギー)を望む
ユーザー、つまりシステムの使用者は、主要機能を得るためにシステムを使用します。しかし、システムには重さがあり、場所を取り、エネルギーを消費します。それらは、主要機能を得るための代償となります。
理想性の式では、式の分母(重量+サイズ+消費エネルギー)は、式の分子(主要機能)を得るための代償といえます。
また分子の主要機能は、システムを使うことで得られるメリット(利点)になります。また分母の「重量+サイズ+消費エネルギー」は、システムを使うことによるデメリット(損失)になります。「分子/分母」の比率は、「メリット/デメリット」の比率になります。(参考文献3)

ユーザーの観点では、上の「メリット/デメリット」の比率が大きいシステムが、より理想的なシステムといえるでしょう。
次に実際の例から「理想性の向上」を見てみましょう。
自動車
自動車のシステム図を、もう一度表記します。

自動車システムの主要機能を、人を「移動する」と定義しました。
自動車システムは、人を「移動する」という主要機能を、「より速く、より多く、より安全に、より快適に」といった形で向上させてきました。その結果、理想性の式の分子は大きくなってきました。

次に、式の分母の「重量+サイズ+消費エネルギー」を考えます。
自動車では、そのシステム自体に対して、「軽量化・小型化・低燃費化・環境への負荷(負担)の軽減」といった対応が行われてきました。
これらの対応により、システムの重量やサイズが小さくなってきました。さらに消費エネルギーも小さくなりました。その結果、理想性の式の分母(重量+サイズ+消費エネルギー)は小さくなってきました。

このようにして自動車システムでは、理想性の式の分子は大きくなっていき、逆に分母は小さくなっていくことで、理想性が向上してきました。
家電製品
同じ傾向は家電製品にも見られます。テレビ、ビデオ、エアコン、掃除機といった家電製品では、「高機能化・軽量化・省電力化」が進められてきました。
その結果、理想性の式の分子は大きくなり、逆に分母は小さくなることで、理想性が向上してきました。
スマホ
スマホでも、高機能化だけでなく、薄型化や省電力化も進められてきました。そのようにして、理想性が向上した製品が多くあります。
理想の技術システム
自動車・家電製品・スマホといったさまざまな技術システムに、技術システムの発展法則(技術システムは、理想性が向上する方向に発展する)が当てはまります。
この発展法則から次のような理想の技術システムを考えることができます。
理想の技術システム:より少ないもので、より優れた主要機能を提供するシステム
この理想の技術システムは、「省資源や省エネルギー」対「豊かさの追求」の対立を解決してくれます。そして「より少ないもので、より豊かにする」ことを可能にしてくれるでしょう。
そのような意味で、技術システムの発展法則は希望の法則といえます。この法則に従って製品やサービスの開発を進めれば、「省資源や省エネルギー」を進めながら、より豊かに生活することができるでしょう。
といった形で、ハッピーエンドにしたいところですが…
残念ながら、現実はそれほど甘くはありません。
技術システムの発展法則は、世界中の特許の分析や、さまざまな分野(技術、ビジネス、芸術など)の研究により発見された法則です。
その法則は、実際に自動車・家電製品・スマホなど、さまざまな技術システムに当てはまります。
ではなぜ、これほど「省資源や省エネルギー」が必要とされているのでしょうか?
この疑問に答えるために、技術システムの発展について現実の状況を見てみましょう。
現実の状況
顧客やユーザーのニーズは、技術システム(製品)の理想性を向上させます。そして技術システムは理想性が向上する方向に発展し、理想の技術システムへと向かいます。
このような「技術システムの発展法則」は確かに存在します。
では私たちは「発展法則に従って技術システムが発展する」のを待っていればよいでしょうか?
実は、この「待っている」という点に問題が含まれています。「待っている時間」が問題なのです。
「省資源や省エネルギー」は急を要します。時間の余裕はありません。これからは「理想の技術システムが実現できるまでの時間」が重要になってきます。
できる限り早く「理想の技術システム」を実現することが必要ですが、実際には次のような問題があります。
問題:理想の技術システムへの発展には時間がかかる
発展には時間がかかる
理想性が向上するためには、式の「分子(主要機能)」が大きくなり(①)、「分母(重量+サイズ+消費エネルギー)」が小さくなる(②)必要があります。

理想性の向上では、上図の①と②が同時に進行することが理想的ですが、現実には大きくズレてしまうのです。
このタイミングのズレが「理想の技術システム」の実現に時間がかかることの要因です。
TRIZでは、この点に関する発展法則も発見されています。
第2の発展法則
技術システムの発展法則の2番目は次のようになります。(参考文献4)
技術システムは、次の拡張段階と集約段階を通して発展する
拡張段階:構成要素が増加し、複雑化が進む
集約段階:構成要素が減少し、簡略化が進む

1番目の発展法則と区別するために、2番目の発展法則を「発展法則B(システムの拡張と集約)」と呼ぶことにします。
この拡張段階と集約段階という2つの段階を、理想性の式の観点で考えてみましょう。

拡張段階(構成要素が増加し、複雑化が進む)では、システムの主要機能が向上することで発展していきます。
集約段階(構成要素が減少し、簡略化が進む)では、システムの「重量+サイズ+消費エネルギー」が減少することで発展していきます。
発展法則Bを、理想性の観点で言いかえると次のようになります。
技術システムは、次の拡張段階と集約段階を通して発展する
拡張段階:システムの主要機能が向上することで発展する
集約段階:主要機能を維持しながら、システムを簡略化することで発展する
1.技術システムの拡張段階
拡張段階では、システムの主要機能を向上させるために構成要素が増加していきます。
例えばヒゲソリでは、剃り心地を改善するために、刃の枚数を「1枚刃→2枚刃→3枚刃→4枚刃」と増加させていきました。このことにより、肌への負担を減らすことができます。

このように構成要素が増加し複雑化することで、システムの主要機能が向上していきます。これがシステムの拡張段階です。
しかし、そのような拡張にも限界があります。
2.拡張の限界点
ヒゲソリの刃の枚数が、無制限に増加することはないでしょう。
技術システムの構成要素の増加には、その限界点が存在します。その点を越えて構成要素が増加しても効果は大きくならず、逆に効果が落ちてしまいます。技術システムには、そのような拡張の限界点が存在します。

拡張の限界点は、主に次の2つによって決まると考えられます。
顧客のニーズ
システムへの制約
顧客が求めるものは、製品(技術システム)が提供する機能(主要機能)です。そのため技術システムに要求される主要機能のレベルは、顧客のニーズによって決まってきます。
従って、要求される主要機能のレベルには上限がでてきます。それ以上に主要機能を向上させても、顧客に対する効果は期待できません。そのため、システムをそれ以上に拡張する必要もなくなります。
またシステムへの制約については、次のようなものがあります。(参考文献5)
物理的な制約(サイズ上の制約、重量上の制約など)
経済的な制約(価格、コストなど)
環境上の制約
技術システムの拡張は、いつまでも続くことはありません。顧客のニーズ・システムへの制約などにより、やがて限界点を迎えることになります。
その後の技術システムは、次の集約段階へと進んでいきます。
3.技術システムの集約段階
限界点を越えた後、技術システムは集約段階に入ります。

上の図に示すように、技術システムは、拡張段階と集約段階という一連のプロセス(過程)により発展していきます。その「一連のプロセス」を次のように表現することができます。
技術システムは、構成要素が増加した後に集約化される
技術システムは、複雑化した後に単純化する
主要機能の向上が市場(顧客)の要求するレベルに達した、または、システムへの制約により、それ以上の拡張ができなくなった後は、主要機能を維持したままで構成要素が減少し簡略化していきます。
集約段階では、このような形で理想性が向上します。そのイメージを表したものが次の図です。

技術システムの発展プロセス
技術システムの発展プロセスは次の順で進みます。
技術システムの拡張段階
拡張の限界点
技術システムの集約段階
この「1→2→3」のプロセスを通じて、技術システムの理想性は向上していきます。
この発展プロセスを、次のモデルを使って説明します。このようなモデルをコンセプトモデルと呼びます。

このモデルでは次のことが示されています。
システムが対象物に主要機能(〇〇する)を働かせることで、効用が生まれる
拡張段階でのコンセプトモデルは次のようになります。

上図のように、拡張段階では主要機能を向上させるためにシステムが大きくなります。その結果、効用も大きくなります。
そして拡張の限界点を越えた後は集約段階に入ります。そのコンセプトモデルは次のようになります。

上図のように、集約段階では主要機能を維持した状態で、システムが小さくなります。その結果、小さなシステムで大きな効用が提供されます。
技術システムの発展法則B(システムの拡張と集約)を図で示すと次のようになります。

上図が、解決すべき問題(理想の技術システムへの発展には時間がかかる)の本質を表しています。
次の図の赤枠で囲んだコンセプトモデルで示されている「小さなシステムで、大きな効用を提供できるシステム」が、理想の技術システムといえます。

理想の技術システムに到達するためには(発展法則Bが示すように)「一度大きなシステム(拡張システム)を経る」必要があります。
しかし「省資源や省エネルギー」の要求は差し迫っています。そのため理想の技術システムを早く実現する必要があります。上図の「拡張→限界→集約」のプロセスをじっと待っているわけにはいきません。
記事の後半では、「拡張→限界→集約」プロセスの時間を短縮して、理想の技術システムの実現を早める方法を考えます。
原因の分析
「拡張→限界→集約」プロセスの時間を短縮するためには、そのようなプロセスが生じる原因を分析する必要があります。
主な原因として、次の2つが考えられます。
集約段階では経験や理解力が必要となる
心理的惰性が生じる
集約段階では経験や理解力が必要
技術システムの発展は、次のプロセスをたどることがわかりました。
技術システムの拡張段階
拡張の限界点
技術システムの集約段階
なぜ一度、拡張してから集約へと向かうのか、その理由を考えましょう。
技術システムは人が発展させます。発展プロセスの初期段階では、技術システムに対する理解度は、一般的にはそれほど高くないでしょう。
新しい技術システムをつくる場合は、最初から最小限の構成要素だけで、無駄なく(要求される)主要機能を働かせるようにすることは難しいといえます。
初期段階で主要機能を向上させるためには、どうしても構成要素を増やしていく必要があります。その結果、システムは複雑化していきます。
やがて拡張の限界点を迎えるころには、それまでの研究開発・製造・販売などの経験を通して、技術システムに対する理解力も高くなります。
その後は、このような経験や理解力を用いて集約化を進めていくことができるようになります。
結局は、「まずは(拡張された)システムを一度つくり上げ、形にしてみなければわからない」ということになります。そのため、技術システムの発展プロセスには、拡張段階と集約段階という2つの段階が生じると考えられます。
心理的惰性
何かを考えるときは、いつもと同じように考える方が楽です。そのため、以前から行っている考え方や見方を、そのまま当てはめてしまうといった傾向が生まれます。(参考文献6)
このように習慣的な方法で考えたり、それまでの惰性で考えてしまう傾向を心理的惰性と呼びます。
拡張段階でシステムを発展させてきた経験が、次のような心理的惰性を生み出してしまう可能性があります。
「この部品(=システムの構成要素)は、この製品(=システム)に必要不可欠だ」と思い込む
拡張段階でシステムに追加した要素の効果が大きいと、心理的惰性も大きくなります。
その後の集約段階で、その要素をなくすことに対して大きな抵抗が生まれます。その要素を簡略化することさえ慎重になるかもしれません。このような心理的惰性は、集約を進めるうえでの障害となります。
2つの原因
技術システムの発展プロセスが「拡張→集約」をたどる原因をまとめると次のようになります。
集約段階では、拡張段階を通して得られる経験や理解力が必要になる
「この部品(=システムの構成要素)は、この製品(=システム)に必要不可欠だ」という心理的惰性が働く
次は、これらの原因を克服する方法を考えます。
知識を使う
集約段階を前倒しするためには、その前の拡張段階を短くしなければなりません。
しかし後の集約段階では、拡張段階を通して得られる経験や理解力が必要になります。拡張段階を短くすると、経験や理解力を得るための時間が不足してしまいます。
つまり「拡張段階を短くしたいが、短くできない」といった状況が生じてしまいます。
どうすればよいでしょうか?
(拡張段階を通して得られる)「経験や理解力」を補える知識を使うことができます。
そのような知識はどこにあるでしょうか?
発展法則B(システムの拡張と集約)に、そのような知識が用意されています。発展法則Bには、次の2つに関する知識があります。(参考文献4)
技術システムの拡張のしかた
技術システムの集約の進み方
集約段階を前倒しするために上記2の「集約の進み方」の知識を使うことができます。その知識は、経験や理解力の不足を補う助けとなるでしょう。
発展法則Bでは、次のような集約化に関する知識があります。(参考文献4)
集約化の3タイプ
「集約の進み方」として次の3タイプがあります。
システムの一部の機能を、他のシステムに移す
機能を肩代わりする
システムの対象物が自ら機能を働かせる
(上記の3タイプは、技術システムの集約の進み方を網羅的に示したものではありません。技術システムの内容や、周囲の環境に応じて、異なる集約の進み方も考えられます。)
集約の進み方のタイプを知ることは、「この部品は必要不可欠だ」という心理的惰性を取り除くうえでも効果があります。
集約化(簡略化)の成功例を知ることは、拡張段階での成功体験から生じる「システムの簡略化への抵抗」を減らしてくれます。
人の心理として、成功例を見る(知る)と「自分にもできる!」という意欲がわいてきます。3タイプの実例を知ることで、そのような意欲を高め、心理的惰性に打ち勝つことができます。
では、3タイプの例をご紹介していきます。
1.システムの一部の機能を、他のシステムに移す
第1の集約タイプは「システムの一部の機能を、関連する他のシステムに移すことで、構成要素が減少しシステムが簡略化される」というものです。(参考文献7)
このタイプでは、「関連する他のシステムも含めて、自分のシステムの主要機能を働かせる」といった大胆な考え方が必要になります。
【例】クライアント・サーバ形式
クライアント・サーバ形式では、次の2つのコンピューターに、それぞれの役割を分担した形で運用されます。
クライアント・コンピューター:利用者の操作するコンピューター
サーバ・コンピューター:特定の処理を集中的に行うコンピューター

この形式は、多くの利用者が作業を行う場合に適しているといわれています。
例えば高い処理能力が必要な作業を行うときに、クライアント・コンピューターに単独で処理させると、それぞれのコンピューターに高い性能が要求されます。
そのような処理をサーバ・コンピューターが集中的に行う仕組みにしておけば、クライアント・コンピューターの負荷が小さくなり効率的な運用ができます。(その分、サーバ・コンピューターの性能や信頼性を向上させる必要があります。)
この仕組みを、集約化の観点から次のように考えることができます。
クライアント・コンピューター をシステムとする
サーバ・コンピューター を他のシステムとする
そうすると、クライアント・コンピューター(システム)の「処理する」機能を、サーバ・コンピューター(他のシステム)に移していることになります。
システムの一部の機能(処理する)を、他のシステムに移すことで、システムであるクライアント・コンピュータを簡略化することができます。
2.機能を肩代わりする
第2の集約タイプは「機能を肩代わりすることで、構成要素が減少しシステムが簡略化される」というものです。(参考文献8)
システムの主要機能を維持するためには、現状の構成要素が全て必要です。簡略化のために、安易に構成要素を減らすと、主要機能が低下してしまうからです。
では主要機能を低下させずに、構成要素を減らすことはできないでしょうか?
次のような方法があります。
構成要素はなくなるが、その機能は残る
何かマジックのようですね。でもマジックにはタネがあります。タネあかしをすると次のようになります。
システム内の別の構成要素が、その機能を肩代わりすることで、構成要素をなくすことができる
次のような例があります。
【例】インホイールモーターによる駆動方式
電気自動車の駆動方式のひとつに、インホイールモーターによる駆動方式があります。この方式では、タイヤ・ホイールの内部や、その近くにモーターを配置して、タイヤ・ホイールを直接駆動する(回転する)仕組みがとられます。
一般的な電気自動車では、モーターからの出力は、ドライブシャフト(回転軸)を通してタイヤ・ホイールに伝えられる方式が多いと思います。簡単な機能図で描くと次のようになります。(参考文献4)

インホイールモーターによる駆動方式では、ホイールの内部やその近くに配置されたモーターがタイヤ・ホイールを直接駆動します。この結果、ドライブシャフトが不要になります。図で示すと次のようになります。

上の図には次のことが示されています。
ドライブシャフトの機能である、ホイールを「回す」機能を、モーターが肩代わりする
その結果、ドライブシャフトが不要となる
このように、システム内の別の構成要素(モーター)が、その機能を肩代わりすることで、構成要素(ドライブシャフト)をなくすことができます。
3.システムの対象物が自ら機能を働かせる
第3の集約タイプは「システムの対象物が自ら機能を働かせる」というものです。
第3の集約タイプについては、次の「究極の理想システム」で説明します。
究極の理想システム
理想の技術システムとは、次の図の赤枠で囲んだコンセプトモデルで示されている「より少ないもので、より優れた主要機能を提供する」システムです。

集約化のタイプ1(システムの一部の機能を、他のシステムに移す)とタイプ2(機能を肩代わりする)の知識を使うことで、理想の技術システムに向けて発展していくことができます。
集約化のタイプ3(システムの対象物が自ら機能を働かせる)は、理想の技術システムの究極版といえます。
タイプ3の集約化
集約段階のコンセプトモデルの図をもう一度示します。

上のシステムの理想性をさらに向上させていくと、どうなるでしょうか?
主要機能を維持したまま、システム自体がさらに小さくなり、最終的には存在しない状態に近づいていきます。

上の図は、システムが存在しなくなりつつある状況を示していますが、システムが完全に存在しなくなった後は次のようになります。

上の図が、第3の集約タイプ「システムの対象物が自ら機能を働かせる」を表します。
具体的な例で考えてみましょう。
自動車の究極の理想システム
自動車システムは、人を「移動する」という主要機能を、「より速く、より多く、より安全に、より快適に」といった形で向上させてきました。

またシステムを構成する要素である車体やエンジンなどを軽量化・小型化し、燃料や電気などの使用エネルギーを低減する方向に発展してきました。この結果、理想性の式の分母「重量+サイズ+消費エネルギー」は減少してきました。
この減少を極限まで進め、「重量+サイズ+消費エネルギー」を0に近づけていくと、システム自体が存在しない状態に近づいていきます。このようにシステムが存在しなくなりつつある状況を表したものが、次の図です。

そして、システムが完全に存在しなくなった後は次のようになります。

上の図が、第3の集約タイプ「システムの対象物が自ら機能を働かせる」を表しています。
上の図は、単に「人が自分で移動する」という意味ではありません。主要機能は「より速く、より多く、より安全に、より快適に移動する」です。
主要機能の中の「より速く、より多く」移動するためにはエネルギーが必要です。また「より安全に、より快適に」移動するためには一定の空間も必要になるでしょう。
そのため現実的には、対象物は「人を乗せるキャビン」になると考えられます。(参考文献3)

キャビンとは人が乗るところで、運転手や乗客が乗る空間です。それで上図の「究極の理想システム」は次のようになります。
「人(運転手や乗客)が乗る空間」だけで、より速く、より多く、より安全に、より快適に移動できるシステム
このような「究極の理想システム」は、自動車のエンジンが内燃機関(ガソリンエンジンなど)が主流の時には考えにくかったかもしれません。
しかしエンジンがモーターになり、エネルギーが電力になれば、レイアウトの自由度が高くなります。そうすると「人(運転手や乗客)が乗る空間」だけで自由に移動できるシステムも不可能ではないと考えられます。
掃除機の究極の理想システム
掃除機のシステム図を次のように定義することができます。

システムの対象物は「部屋のごみ」で、主要機能は「集める」です。
この場合の究極の理想システムは次のようになります。

自動車の場合は、対象物が人でしたので、「安全に、快適に」移動するためには(人を含む)一定の空間が必要になりました。
掃除機の場合は、対象物が物(部屋のごみ)なので、そのような空間が必要ないかもしれません。ただし「自ら集まる」ためのエネルギーは必要です。
「部屋のごみ」が「自ら集まる」ためのエネルギーを何にするかで、究極の理想システムの形(仕組み)が決まってきます。
究極の理想システムを考えるときには、その主要機能を働かせるためのエネルギーとして何を選ぶかが重要になります。(参考文献9)
究極の理想システムでは、対象物の「部屋のごみ」が自ら集まることで「部屋がきれいになる」という効用が得られます。
ミクロサイズのごみでも、ごみ自体が自ら集まることである程度の大きさのかたまりにして集めることができます。
「従来より小さなサイズのごみを集める」ことができれば、「部屋がきれいになる」という効用が大きくなります。
「部屋のごみ」を集めるために大きなシステムやエネルギーを使わなくてすむようになれば、「省資源や省エネルギー」に貢献できます。
究極の理想システムを考えるメリット
集約化のタイプ3(システムの対象物が自ら機能を働かせる)による「究極の理想システム」が実現できれば、「省資源や省エネルギー」に大きな効果が期待できます。
しかし究極の理想システムは、その言葉の通り、最終到達点のシステムです。集約化のタイプ1やタイプ2に比べて、実現は難しいといえるでしょう。
またタイプ3では「システム自体が存在しなくなる」ことを考えます。そのようなことは、システムの「研究開発・製造・販売などの関係者の方々」にとっては、考えにくい、または、考えたくないことかもしれません。
では、集約化のタイプ3を考える理由は何でしょうか?
タイプ3による「究極の理想システム」を考えることには、次のようなメリットがあります。(参考文献10)
安易な解決策を避けることができる
既存の概念を打ち壊すことにつながる
1.安易な解決策を避ける
課題の解決策を考えるときには、解決の目標を設定することが大切です。しかし目標を設定することは予想以上に難しい場合があります。例えば、目標となる方向が見えていないと、目標を設定することは難しくなるでしょう。
そのような場合に、目標の指針(向かうべき方向を示すもの)として「究極の理想システム」を使うことができます。
そうすると「理想的な解決策を得る」という解決の方向が明確になり、安易で改善効果が低くなるような解決策をとってしまうことを避けることができます。
2.既存の概念を打ち壊す
「究極の理想システム」を目標に設定すると、それはとても高い目標になります。実現することは、とても不可能のように思えるかもしれません。
しかし、それをなんとか実現しようとすると、「既存の概念を打ち壊す」必要に迫られるでしょう。この点で「究極の理想システム」を目標に設定することは、既存の概念を打ち壊すうえでの助けになります。
おわりに
この記事では、「省資源や省エネルギー」と「豊かさの追求」の対立を解決する方法を提案してきました。
最初に、次の技術システムの発展法則をご紹介しました。
技術システムの発展法則:技術システムは、理想性が向上する方向に発展する
そして、この法則から得られる理想の技術システムを考えました。
理想の技術システム:より少ないもので、より優れた主要機能を提供するシステム
この理想の技術システムは、「より少ないもので、より豊かにする」ことを可能にしてくれます。
しかし現実には「理想の技術システムを実現するためには時間がかかる」という問題があります。そのことを示す「第2の発展法則」が、次の技術システムの発展法則Bです。
技術システムは、次の拡張段階と集約段階を通して発展する
拡張段階:構成要素が増加し、複雑化が進む
集約段階:構成要素が減少し、簡略化が進む
「省資源や省エネルギー」が急がれる現在では、後の集約段階をいかに前倒しできるかが重要になります。
そのためには拡張段階を短くする必要があります。しかし拡張段階を短くすると、(拡張段階を通して得られるはずの)経験や理解力が不足するという状況が生じます。
それらを補ってくれる知識があります。そのような知識として、次の3タイプの「集約の進み方」を説明しました。
システムの一部の機能を、他のシステムに移す
機能を肩代わりする
システムの対象物が自ら機能を働かせる
タイプ1とタイプ2は、技術システムの集約化を進め、理想のシステムに発展させることを助けてくれます。そしてタイプ3は、究極の理想システムへの指針(向かうべき方向を示すもの)となります。
これらの知識が「技術システムの集約段階を前倒しすることで、理想の技術システムの実現を早める」ことに役立てば幸いです。
TRIZとは
TRIZとは「発明問題を解決する理論」のことです。
世界中の特許の分析や、さまざまな分野(技術、ビジネス、芸術など)の研究により、つくり上げられてきた問題解決の理論です。
TRIZは、ゲンリック・アルトシューラ-によって創始されました。その後、長い時間をかけて研究開発が続けられ確立されてきた理論です。
関連書籍
※Kindle Unlimited 会員の方は、追加料金なし(¥0)で読み放題です。
参考文献
Yuri Salamatov 『超発明術TRIZ シリーズ5 思想編「創造的問題解決の極意』の「5.4.高度な思考の基礎」
P.F.ドラッカー 『テクノロジストの条件 - ものづくりが文明をつくる』の「9章 方法論としての起業家精神」の「顧客の観点からのマーケティング」
ゲンリック・アルトシューラー『超発明術TRIZ シリーズ1 入門編「原理と概念に見る全体像」』の「第4章 理想機械」
青戸けい『TRIZの世界観【秩序と変化】 Kindle版』の「5章.技術システムの発展法則」
Yuri Salamatov 『超発明術TRIZ シリーズ5 思想編「創造的問題解決の極意』の「3.4.技術的解決策の連鎖反応:「物質-場」システムの進化」
ゲンリック・アルトシューラー『超発明術TRIZ シリーズ1 入門編「原理と概念に見る全体像」』の「第14章 第二の心理的障壁」
Yuri Salamatov 『超発明術TRIZ シリーズ5 思想編「創造的問題解決の極意』の「7.1.進化のうねり」
Darrell Mann『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』の「17.1 トリミングツール」
青戸けい『TRIZの世界観【秩序と変化】 Kindle版』の「6章.技術システムの発展パターン」の「(e)ミクロレベルへの移行」
Yuri Salamatov 『超発明術TRIZ シリーズ5 思想編「創造的問題解決の極意』の「7.2.究極の理想解:変化する世界のベンチマーク」
