第5話前半「時を駆ける者、真名の影」
──耳が、また淡く揺らいだ。
リィナはすぐに手を伸ばし、震える指先でレオの耳を包み込む。
ほんの一瞬、温もりは戻るが、それもすぐに光に溶けるように消えそうになる。
「……やっぱり、あのときと同じ」
リィナは小さく息を吐いた。
「言おうとしただけで、こんなふうに……。だから気をつけなきゃ。でも……早く言えるようにならなきゃいけないんだよね」

「焦らなくていい」
レオは微笑み、彼女の手をそっと握った。
「君がそう決めるときまで待つさ。たとえ俺に見えなくても……リィナが会わなきゃって言ったから、俺は信じる」
その言葉に、リィナの瞳にかすかな光が宿る。
巻物の中に現れた青年の影──彼に会うことが、真名と耳を守る唯一の道。
それはもう“説明された理由”ではなく、リィナ自身の意志に変わりつつあった。

そのとき、粒の光が揺れ、記録者が姿を現した。
白衣を揺らし、淡い声が森に響く。
「……君たちが彼に会わねばならぬ理由は、すでに知っているはずだ。
では、なぜ“会わなければならない”時が来たのか――それを伝えよう」
彼女の指先が空をなぞると、灰色の裂け目が広がる。
過去の街並みと未来の荒野が同時に映し出され、崩れ合う光景。

「時の輪は“全ての時代をつなぐ鎖”だった。
だが、誰かが未来を変えようとした。
本来起こらぬはずの出来事を望み、そのために時を書き換えた。
その代償で、輪は砕け……世界は腐食を始めた」
レオは耳を押さえながら、その裂け目を見上げた。
「だから……俺たちが直さなきゃいけないんだな」
「勇者だから、ではない」
記録者の声が低く響く。
「君が“いま”を選ぶために」

レオは深く息を吸い、剣を握り直した。
「俺が俺であるために。リィナと一緒に“今”を守るために」
リィナは小さくうなずき、その手を重ねる。
記録者の姿は再び淡く溶け、光の粒だけが残った。
けれど二人には分かる――彼女はまだ近くで見守っている。
「進め。答えは時の先に」
声だけが風に溶け、道を照らした。
揺らぐ耳はまだ不安定。
だがその足取りには、確かな意志があった。
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勇気づけられます‼️ありがとうございます😭