『時の輪のネコ勇者レオ』 第4話・後編 封じられた名と、耳の守り
夜の森を抜けると、空の星を映したみたいな光をこぼす一本の大樹が立っていた。幹は内側から淡く脈打ち、枝先から降る粒の光が、雪のように地面へ溶けていく。
リィナは巻物を胸に抱いたまま立ち止まり、そっと息をついた。頬には、さっきの涙の跡がまだ残っている。
「……どうして泣いてた?」とレオ。
「巻物を開いたとき――私にはひとりの人が見えたの。レオには見えなかったけれど」
砂時計を背負い、いくつもの針を踏み越えて進む影。彼は、時の向こうからこちらを見ていた。

リィナはレオの横顔を見上げて、静かに決めたように口を開いた。
「だから――進むために、言わなきゃ。わたしの真名は──」
その瞬間、レオの猫耳がふっと薄れた。輪郭が光に溶け、指先で触れようとしても空を切る。
「っ……!」レオは反射的に耳へ手を上げ、息を呑む。
リィナははっとして唇を噛み、言葉を飲み込んだ。

大樹の影から、白い衣の記録者が歩み出る。声は低く、落ち着いていた。
「真名は時を動かす鍵。いまここで開けば、耳(いま)を繋ぐ錨が外れてしまう」
「……外れたら?」とレオ。
「時の外へ落ちる。過去でも未来でもない、帰れぬ場所。耳は君を現代に繋ぐ唯一の錨だ。失えば、旅はそこで終わる」

記録者は巻物を開いた。レオの目には古紙の空白しか映らない。だが、リィナには見える――あの影の青年が、淡い光の向こうでこちらを振り返るのが。
「この人に会いに行かなきゃ」リィナは手を胸に当てる。
「名前は?」
「いまは言わないほうがいい」と記録者は首を振る。「彼は時を駆ける者。時の輪の欠片と、真名を扱う術を知っている。彼に辿り着けば、耳を守ったまま鍵を回す道が開ける」

レオは半透明の耳にそっと触れて、苦笑した。
「じゃあ今は――言わない。耳は残ってる。辿り着いてからでいい」
リィナは「うん」と答え、涙の跡を指で拭った。大樹の鈴のような音が、二人の背を押す。
「目的ははっきりしたわ。時を駆ける者に会いに行く。そして、時の輪を直す」
記録者は黙って頷き、道の方角を示した。粒の光が小道に並び、遠くへ続いている。
レオとリィナは並んで歩き出す。片耳はまだ揺らいでいる――だが、そこに確かな温かさがあった。**守るべき“今”**の温度だ。

――名はまだ言わない。
だが、その一歩は、必ず未来で答えになる。
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勇気づけられます‼️ありがとうございます😭