『時の輪のネコ勇者レオ』第4話 前半「封じられた名と、涙の理由」
──時間がねじれ、歪んでいる。
王の城を離れてから、空の色がほんの少し変わった気がした。
夕焼けでもない、夜明けでもない、淡い灰色の空。
そこには、何もないはずの場所に、静かに回る歯車がいくつも浮かんでいた。
「……ここ、本当に進んでいいのかな」
リィナが呟いた。耳がかすかに震えている。
レオは黙ってうなずいた。迷いはあるが、それでも前に進むしかないと、そういう顔だった。
⸻

そこは「記憶の地図」──
そう記録者は言った。
前に出会った少女。白い服を着た、年齢不詳の記録者。
彼女はふいに現れ、レオたちに小さな巻物を差し出した。
「ここから先は、心の奥にしまった名前が現れる場所。
でもそれは、覚えてるつもりで覚えてない、忘れたふりをした記憶なの」
「名前……?」
リィナがつぶやく。
「誰かの名を、あなたは封じている。気づかぬまま、ずっと」
その言葉を聞いた瞬間、
リィナの頬に、スッとひとすじの涙が落ちた。
自分でも理由がわからない涙。
でも、胸の奥にひどく強く、何かが刺さっていた。
⸻

「ぼく……には、何も見えないよ」
レオが少し申し訳なさそうに言った。
巻物を開いても、ただの白紙にしか見えなかった。
けれど、リィナには見えていた。
そこに――おそらく、自分しか知らないはずの風景が浮かび上がっていた。
森、雨、夕暮れ。
そして、少年の背中。
誰?
誰なの?
なんで、こんなに苦しいの?
リィナの胸が、ぎゅっと締めつけられる。
⸻

「リィナ……?」
レオの声が優しく響く。
彼女は顔をあげ、にっこりと笑った。
けれど、その笑みは少しだけ震えていた。
「大丈夫。進もう、レオ」
レオはそれ以上何も聞かず、ただ歩き出した。
記録者は静かに見送るように、少しだけ微笑んだ。
そして、その視線の先には――
──かつて“選ばれなかった者”の記憶が、静かに眠っていた。
⸻

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