「時の輪のネコ勇者レオ」第5話後半 「時を駆ける者、真名の影」
崩れゆく時の回廊を進むたび、空気は冷たく、胸の奥を締め付けるような重さを増していった。
耳を澄ませば、羽根が燃え尽きるような“ぱさり”という音が聞こえる。
それは灰の羽根が宙を舞い、ひとひら、またひとひらと落ちていく音だった。
レオは剣を握り直し、前を見据える。
「リィナ……感じるか?」
「うん。すぐ近くに、誰かが……」
やがて、闇を割るようにひとりの影が立っていた。
灰色の翼を背にした青年。
かつては純白だったであろうその羽根は、いまや焼け焦げ、黒く染まっている。

かつては純白だったであろうその羽根は、いまや焼け焦げ、黒く染まっている。
「……誰だ?」レオが問いかける。
青年はゆっくりと顔を上げ、かすかに口元を歪めた。
「ルーク。お前が“選ばなかった未来”だ。」
その声は乾いていたが、不思議と懐かしさを伴っていた。
レオは息をのむ。どこか自分と似た響きがあるのを直感で感じていた。
「未来……? 冗談だろ。」
「冗談じゃない。俺は仲間を信じることも、誰の真名も受け入れることもできなかった。
だから全部、ひとりで背負い込んで……灰になった。」
ルークは片手を差し出し、もう一方の手には鎖付きの羽根飾りを握りしめていた。
「お前はまだ綺麗だな。俺が折れる前の、あの目をしている。」
「折れる……?」レオが眉をひそめる。
ルークの声が一瞬、苛立ちを帯びた。
「仲間を守るだの、真名を抱きしめるだの――そうやって縛られているうちは、必ず折れる!」
リィナは耐えきれずに声をあげた。
「それでも……それがレオなんだよ!」

二人の間に、灰と光が渦を巻く。
ルークの金色の瞳が鋭く光る。
「俺は拒んだ。その代償に未来から消えた。……だから言っているんだ。逃げるか、立ち向かうか――選べ。」
「……お前は、後悔してるのか?」
レオの問いに、ルークは苦笑する。
「後悔? そんな言葉で済むなら、俺はここにいない。」
リィナが震える声で言った。
「……どうして、そんなに……ひとりで背負おうとするの?」

ルークはリィナを見下ろし、目を伏せた。
その表情は皮肉でも挑発でもなく、ただ痛みに満ちていた。
「俺は……選べなかった。それだけだ。
仲間を信じることも、自分を守ることも、゛仲間゛の真名を受け入れることも。
どれも選べず、結局ひとりで背負い込んで……灰になった。」
リィナの頬を涙が伝う。
レオは剣を握る手に力を込めた。
「俺は……まだ何も知らない。
けど、仲間を拒んだりはしない。
一緒に進むって決めたんだ!」
その言葉に、ルークはかすかに笑った。
「ならいい。その答えを、最後まで握りしめてみろ。」

その先には、わずかな光が差し込んでいる。
ルークは背を向け、崩れゆく時の回廊の奥へと消えていった。
羽根の灰が風に舞い、淡い光に溶けていく。
静寂の中、記録者の声が響いた。
「……見たか。あれが“真名を拒んだ未来”。」
レオは唇を噛みしめ、胸の奥に灼けつく痛みを刻んだ。
だがその痛みは、次の一歩を踏み出すための炎となる。
「俺は……仲間と進む。」
その小さな呟きに、リィナは涙の中でうなずいた。
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