第3話後半「最後の扉、そして時の外へ」
──キィィ……
重厚な歯車の意匠が施された扉が、静かに音を立てて開いていく。
まるで何百年も前から、誰かがこの時を待っていたかのように。
中は、意外なほど静かだった。
「……図書館……?」
レオが小さくつぶやく。
扉の先に広がっていたのは、見覚えのある、けれどどこか違う図書館だった。
古びた書棚、光の届かぬ奥、そして――天井に浮かぶ、無数の歯車。
「ここ……時の始まりと終わりが記される場所だと思う」
リィナの声が、静寂に染み込む。
2人はゆっくりと、奥へと進む。
足元に散らばる“記録の頁”が、まるで過去の影のように、彼らの歩みに揺れていた。

中央の円卓に、ひとつだけ開かれた魔導書があった。
それは、「時の記録者」が最後に記した書。
「これ……レオ、君の物語が書かれてる」
リィナが指差すページには、今までの旅、戦い、出会い、そして王との対峙までが、正確に描かれていた。
「……でも、ここから先が……白紙だ」
そこにあったのは、何も書かれていない“未来”。
「記録者も……この先を、知らなかったんだね」
リィナはそっとページをなでた。
レオは剣を静かに床に置き、手を伸ばして書の上に触れる。
──その瞬間、視界が淡く、光に包まれた。

光の中に立っていたのは、ひとりの少女だった。
狐耳も、杖も持たず、ただ白い服をまとった少女。
「……あなたは……?」
レオが問いかけると、少女は笑った。
「私は“記録者”。でも、君が思っているような“神”じゃない。
私は、ただ物語を見守り、書き残してきた存在。
でもこの先は、君自身が“物語を描く”時なの」

すべてを記録してきた少女が、静かに語りかける──「この先は、君たちが描く未来」。
レオは目を見開く。
「君は、たしかに“時”を壊した。
でもそれは、過去を否定するためじゃない。
大切なものを守るためだった。
だからこそ、この“外の世界”へ進む扉が開かれた」
少女の指が、最後のページへ触れる。
そこには、淡く光る文字が浮かび上がる。
『未来は、まだ白紙である』

もう誰の記録にも書かれていない未来へ。2人の目に、決意の光が宿る。
「じゃあ……俺たちは、ここで終わりじゃないってことか」
「ええ」
少女はうなずく。
「物語はまだ終わらない。
その先には、新しい“世界”が待っている。
時の輪を越えた、君たちだけの旅が──」

もう誰の記録にも書かれていない未来へ。2人の目に、決意の光が宿る。
光が消え、気づけば再び図書館の中。
レオとリィナは見つめ合い、無言でうなずいた。
「……いこう、リィナ。
この先に、“新しい物語”がある」
「うん」
歯車の天井が回転し始める。
中央に、今まで見たことのない“扉”が出現する。
そこには、文字も、印も、何もなかった。
でも、レオは知っていた。
これは、“時の輪の外”へと続く扉だと。
2人は、剣と杖を手に取り、ゆっくりと歩を進める。
──“新たな章”へ。
時は、再び動き出す。
次回、第4話へ
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