🌫️ 『時の輪のネコ勇者レオ』第2話・前編
「記憶の扉と、偽りの真実」
ぼくは、図書館の奥へと歩いていた。
手には、あの本を抱えて。
表紙に名も記されていない、“ぼくの物語”を。
リィナの足音が、すぐ後ろにある。
この静まり返った空間で、その音がやけに大きく響いた。
円環状の通路を抜けると、そこはさらに深い階層だった。
壁に沿ってびっしりと積まれた本の山。
天井を支えるアーチには、見たこともない文字が刻まれていた。
「……これ、読めるの?」
「昔の記録文字。“時の民”が使っていたものだと思う。
いまでは誰も、完全には読めないけど」
リィナの声は、どこか遠くを見つめているようだった。
“時の民”——
それが誰なのか、ぼくは知らない。
でも、その言葉に触れた瞬間、胸の奥がふっと熱くなった。
まるで、忘れていた景色を、言葉が呼び覚ましたみたいに。
⸻
やがて、通路の突き当たりに、“もうひとつの扉”が現れた。

今度の扉は、先ほどのものよりも、ずっと古く、ずっと静かだった。
けれど、そこに近づくたびに、ぼくの鼓動は速くなっていった。
胸の内側で何かが騒いでいた。
「この先に、何があるの?」
ぼくはリィナに尋ねた。
彼女は少し考えるように目を伏せて、こう答えた。
「……わからないの。私にも。
この扉は、“記憶の本”に触れた者しか、開けないって言われてる。
でも、奥に進んだ者の記録は、どこにも残っていないの」
「残ってない……って?」
「帰ってこなかった、ということかもしれないわ」
リィナの声が、少しだけ震えていた。
でも、ぼくはもう、引き返そうとは思わなかった。
なぜだろう。
怖いはずなのに、胸の奥が、むしろ何かを求めるように熱くなっていた。
それは「知りたい」という思いだった。
自分がなぜ“勇者”と呼ばれたのか。
なぜ記憶を失ったのか。
なぜ、ここにいるのか。
そのすべてが、この先にある気がした。
「リィナ……」
「ええ、わかってる。行こう、レオ」
彼女が杖を掲げた。
すると、ぼくが手にしていた本が淡く光りはじめた。

その光が、扉の文様に触れた瞬間——
カチリ、と音が鳴った。
時間が止まったような静けさの中で、扉がゆっくりと、開いていった。
⸻
中は、まるで異空間だった。
天井が見えないほど高く、周囲は一面、白い霧に包まれていた。
けれど、それは自然の霧ではなかった。
記憶の粒が、空中を漂っていた。

光のように、音のように、声のように。
そのすべてが、静かにぼくの周りを巡っていく。
「ここは……?」
「“記憶の回廊”。過去と未来の境界。
この空間では、記憶そのものが存在として漂ってるの。
誰かの記憶、何かの記憶……すべてが、この霧に溶けてる」
リィナの言葉が、霧の中に吸い込まれていく。
そして、ぼくの前に、ひとつの記憶が浮かび上がった。
それは、“ぼくの声”だった。
けれど、それは“今のぼく”じゃなかった。
——「これでいい。これが、俺の選んだ道だ」
——「嘘でも……守れればいい。ほんの一時でも……」
「……これ、ぼく……?」
言葉にならなかった。
でも、その声はたしかに、自分のものだった。
過去の、どこかで、本当に“覚悟”していた声。
「それが……あなたの“選択”の記憶」
リィナが静かに言った。
「でも、これは……“嘘”を選んだ声じゃないか」
「うん。だからこそ、“扉の奥”でそれを問い直すの」
⸻
すると、空間の中心が輝きはじめた。
そこに浮かび上がったのは、一枚の鏡だった。
しかし、その鏡は、“姿”を映すものではなかった。
そこに映っていたのは——
“もうひとりのぼく”だった。
いや、そう思いたくない。
けれど、その瞳も、その手も、その剣も——まぎれもなく、ぼくだった。
けれど、そいつは、冷たい目をしていた。
ぼくとは逆の手に剣を持ち、無言でこちらを見据えていた。
「これは……?」
「あなた自身が創った、“もうひとつの可能性”。
記憶の扉は、問いかけてくる。
“本当に思い出す覚悟があるのか”って」
ぼくの胸の中が、ざわついていた。
「じゃあ……あれは、敵なのか?」
「……いいえ。あなた自身よ。
でも、それに勝てなければ、記憶の扉は開かない」
そう言った瞬間、鏡の中の“ぼく”が、ゆっくりと歩き出した。
一歩、また一歩。
やがて、鏡からその姿が抜け出し——
目の前に、“もうひとりの勇者レオ”が立っていた。

「これは試練……なのか?」
剣を抜こうとしたぼくの手に、何かが宿った。
光だ。
“本の記憶”が、剣となって形を成した。
冷たくも、どこか懐かしい感触。
まるで、ずっとこの手にあったような——
「戦わなければならないの?」
ぼくの問いに、リィナは答えなかった。
ただ、そっと、見守っていた。

もうひとりの“ぼく”が、剣を構えた。
無言のまま、一歩、踏み込んでくる。
その剣が振り下ろされた瞬間、ぼくは——
⸻
(▶ 続く:第2話・後編「鏡の勇者、記憶の戦い」)
📘 最後までお読みいただきありがとうございます!
この物語は、猫のレオと少女リィナの旅を描いたファンタジーファンタジー連載です。
もし続きを楽しみにしてくださる方がいれば、ぜひnoteのサポート機能で応援していただけると、とても励みになります。
続きは下部リンクより
▶ サポートボタンは記事の下にあります
▶ XやInstagramでも感想など大歓迎です
Instagram https://www.instagram.com/kei.douga?igsh=cWd2ZnMycXJubXBp&utm_source=qr
いいなと思ったら応援しよう!
勇気づけられます‼️ありがとうございます😭