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看護師さんの保健室|やりがいだとか、なんだとか

訪問看護ステーションには、ときどき学生さんが実習に来る。

狭い軽自動車の助手席。
お互い少しだけ気を遣いながら、天気の話なんかして。

少し空気がほぐれた頃、学生さんが聞いた。

「言ノ葉さんは、ずっと看護師を続けているんですか?」

「やりがいって、どんな時に感じますか?」

あぁ。
そうか。

この子は、
「やりがい」っていうものを、
ちゃんと見つけなきゃいけないって、
そう思っているんだな。


そんなことを思った。


もちろん。
その質問が悪いわけじゃない。

わたしも学生だった頃、
同じことを聞いていたかもしれない。

でも。

毎日課題に追いかけられて。
覚えることだらけで。
今日を無事に終えるだけで精一杯。

そんな時期に。

「やりがい」探し。
しなくてもいいのにな。

わたしは、その質問には答えなかった。

「やりがいは、ちょっと置いておいてさ。」
「今日一日、一緒に回ってみよう。」
「帰る時に、感じたことを教えて。」

そう言った。


看護の難しい話じゃなくていい。
利用者さんのことでも。
わたしのことでも。

「楽しそうだった。」
でもいい。
「困ってた。」
でもいい。
「言ノ葉 さん、お腹空いてそうだった。」
でもいい。

今日一日、わたしと一緒に過ごしてみて、
あなたの心が動いたことを教えて。

そうお願いした。

夕方。
すべての訪問を終えて、車の中で聞いてみた。

「どうだった?」

学生さんは少し考えてから。
ぽつりぽつりと話し始めた。

利用者さんが笑っていたこと。
話を聴かせてくれて、嬉しかったこと。
そんな中、言葉にできないような、間があったように感じたこと。

そんな話をしてくれた。

この学生さんは今日、ちゃんと心を動かして、
いろんなものを感じたんだな。

それで、十分なんじゃないかなって思った。


「やりがいって何ですか?」
遠慮がちに、もう一度。

この質問。

わたしは笑って言った。

「何十年も看護師やってるけどね、わたしも、まだよくわかんない。」

学生さんは少し驚いた顔をした。

「でもね。」
わたしは続けた。

嬉しかったり。
悔しかったり。
腹が立ったり。
思わず笑っちゃったり。

そんな毎日を重ねて。

仕事が終わって。
ふと、その日を思い出して。

『ふふふ。』
って笑える夜がある。

もし。

それに名前をつけるなら、やりがいって言うのかもしれない。

でも。
急いで見つけなくていい。

見つからなくても、
焦らなくていい。

まずは。
今日一日。

心が動いたことを、
ひとつだけ。

大事に持って帰って。


学生さんは、
「はい。」
と、小さく笑った。

あの日のあの子は。
今頃、どこかで看護師をしているのかな。
それとも、違う道を歩いているのかな。

どっちでもいい。

でも。

あの日、
ちゃんと心を動かしていたことだけは、

忘れないでいてくれたら、嬉しい。


それで十分、じゃない?


🌿初めて遊びにきてくれた方へ🌿

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