42 はじめてのパブ 1/7 ジョブインタビュー
「苦情というか方向音痴、道が覚えられないっていうのはあがっていたけれど、それも解決したみたいだし、その他には特にない」ばれてた。
てか、なんでこの人知ってるの?
そういえば製造の木の撤去の時こーじょーちょーのジョイスといたし、そういう立ち位置の人なのか。
「道は最近何とかわかってきました」
「課長を怒らせてる自覚はあるんだ」
「は?」
「倉庫の課長を怒らせてるって言う自覚は持ってるんだ」
「…まあ、いろいろやってきましたから」
「どんなことって聞いていい?」
私はどういう意図でその質問をしてるか聞きたいんですけど、とは言い返さなかった。様子見させてもらいましょか。テーブルから肘を離した。
「例えば車の中に赤ん坊を放置して怒られるような類」
「どこかで聞いたような事例だね。けれど僕は怒っちゃいない。注意しただけだ」
「そういうレベルのことです」
「彼、もう少しというか、かなりきつい言い方を君にかけたりしないか。怒鳴りつけたり」
多少の確信が湧いてきた。ドミニックはさっきから手元のビールに手を付けてない。
“怒り”に話を持っていきたそうやん。
確かにロイックが私に怒鳴ることはある。外聞を気にしない人だ。直情径行、思うがままを口にする。
あの人今の役職について何年だろう。
「昨日、課長が怒ったのは紛れもなく私が原因です。課長からの再三の警告に従いませんでした。あれは私に100%非があります」口に出すとトラックが迫ってきた。心拍数があがってきた。思い出すな、自分の中で叫ぶ声がする。落ち着け。深呼吸だ。
私はドリンクのグラスを握りしてめて下を向いてしまう。
「昨日は落ち着いていられる者なんてひとりも」
ドミニックの声が遠くなる。
深呼吸だ大きく息を吐いて、吸って。あれはもう過ぎたこと。それより次のムーブを考えろ。
工場が企業としてどう動いているかは分からない。でもここで悪評たてて課長の足引っ張って、現課長つぶしにつながって、可もなく不可もない新課長が据えられた日には毎日の楽しみが台無しだ。ロイックだって不本意だろう。今は逃避している時ではない。何かいわないと。
私はグラスの赤い飲み物を一口含んだ。上手く呑み込めずに咳きこむ。けれど落ち着いてから切り出した。
「私、ああいう怒る人のほうが楽なんです」
ドミニックは不意をつかれたという顔になった。いつの間にか私の肩を抱いていたクローディアが、理解不能という表情を私に向けた。
私の発音が悪かったのかもしれない。もう一度深呼吸をする。同じことを少し表現を変えて繰り返して、それからちょっと付け足した。
「ああいう風に全エネルギー賭けて怒鳴る力は私にはありません。だから、逆に思いっきり怒りをぶつけられる人って、見ててすごいなと思うんです」
いえばいうほど生意気だ。でも、
「話の内容がシンプルで、裏のない正直な意見だから、私にとっては楽なんです」
わかる?
「怒鳴られるのが快感って被虐性欲持ち? えっと、マゾヒズムとか」カクテルを前にする美人のお嬢様の口から、そういう言葉がでるとは夢にも思わなかったよ。
「声が大きい人ほど裏がないっていう理論。怒鳴られる時発動するかめはめ波はこうひょいっと避ければスルーできます」
首をひょいっと横に傾げた。
バカにしているのか、ちょっといかれているのか、そんな判断しかされかねない。
ほらふたりとも呆然としてる。
この営業男の采配で、私はやっぱり本採用とりやめになるかも。
でもできるんだもん。
「呪文が、“ああ、またはじまった”。で、秘訣が“ペースを合わさない”」
ハルヒ、そろそろ口を閉じろ。自分を抑える。
ぶぶ漬け京都で育って培われ、やっと習得した奥義だとは、いっても通じない異文化の国なんだから。
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