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【詩集】華

花の詩 7篇(再掲6篇 新作1篇)


落下水仙

あの年の暮れ お正月用の花束を 抱えて 帰る途中 一輪の水仙が 花束から落ちて 慌てて拾った 水仙の花だけが 地に落ちたのは 私の自己愛が 切り刻まれる 前触れだった

花束を抱えたまま 開けた郵便受けには 会合を知らせる 葉書があった 昔々 私が狂っていたことを 知っている仲間たちには もう 会いたくないのに 葉書が 過去を連れてきて 記憶が 蘇って 暮れに どのように   水仙を活けたのか 年が明けて 庭に 水仙が 咲いていたのか 覚えていないほど 時を 彷徨ううちに 桜が 咲いて 桜の花が 昔の私を 赦してくれた 気がした

それから 文面も読まずに 引き出しに しまっていた 葉書を 取り出して 暗い部屋で その葉書を 切り刻んだ後 あの日 落とした 水仙の花が ようやく 再び 咲いた

桜並木

桜が咲く頃 桜並木の 道を通る 路線バスに 乗って 窓際の席に 座ると そこからしか見えない 景色が見えた

走るバスの ガラス越しに 桜の 花々が 次々に 目の前に 迫ってきて  むせるような 桜の花の 攻勢に 負けそうになって 背景に 目を向けると 堤防の 向こうの 対岸に 並び建つ タワーマンションが 霞んで見えた

桜並木の 中を通る そのバス路線も 去年 廃線になった


紫蘭

道端に咲く 白い紫蘭を みつけた
白い紫蘭 は 名前にこだわる 人間からすると 矛盾を 纏っている花だ 白い紫蘭は かの人の 面影を 呼び起こすから 白い紫蘭には カノヒトという 名前が 相応しい 


アサガオ奇談

去年の夏 踏切の近くに アサガオや昼顔が たくさん 咲いていた 今年も 賑やかに 咲いているだろうと 思って 見ると 咲いているのは 孤高の アサガオだけだ いや 花や蕾は アサガオなのに 葉のかたちや厚みが アサガオではないような そのアサガオモドキは 無謀にも 踏切の鉄塔に絡み 上へ 上って行きながら
「ここに 毎年同じ花が 咲くと思ったら 大間違いだよ」とつぶやいた


薔薇 

バラの花が 咲いて 時が経つにつれて 一枚一枚の 花弁が 反って 反り返って その色も 次第に 深みを 増して 表情を 変えていく

バラは 咲いてからも 動きを 止めることなく 常に 薔薇の名に より相応しい 自らを 力尽きるまで 追い求めていく

薔薇


コスモス

オレンジ色の コスモスは 黒に映える 花だから 見掛けると 一瞬 辺りが 暗く見える くさむらに咲く オレンジの コスモスは 流れ者で どこからか 渡来した花と 間違えられて 駆除されることを 怖れて ふるえて 咲いている コスモスに 一瞬 オレンジ色の タテハチョウが 止まった 網膜の シャッターチャンス 蝶と花 が 黒に映えて 確かに 焼き付いた


冬のアサガオ

もう十二月なのに 線路脇に アサガオが 咲いている 夏に見た時より 小さな アサガオの色は 子供の頃 観察した アサガオに似ている

理科の教材の アサガオを育てていた 小一の頃から 現在に至るまで 他の人には できて当たり前の 多くのことが 私にはできない それでも 歳を重ねてから 私なりに 小さな花を ひとつ 咲かせたつもりだ 

冬のアサガオ 少し 虚勢を張っているような 面持ちで 線路脇に 咲いている

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