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返品のカステラを買わせる会社に納得ができませんでした。 【理不尽】

理不尽な会社の理不尽な涙

私(岩田淳也)は、26歳のサラリーマンだ。

5年前に転職して、今は新しい職場で充実した日々を送っている。
しかし、毎年この季節、夏の盛りになると、かつて勤めていた会社の
「お中元」の悪夢が蘇る。

私の前職は、菓子メーカーの営業だった。
カステラ、クッキー、チョコレート菓子など、最盛期では種類を増やして40種類ほどになっていると聞く。駅の売店でもよく見かけるので、あの特徴的な包装紙を見るたびに、胸の奥がざわつく。

その会社では、お中元の季節が来ると、社内全員に
「自社商品を何個購入するか」という先行予約のプリントが回ってくるのだ。

当然、社内の全員が注文せざるを得ない状況で、皆、渋々購入していた。

中には「ギフトなんかより、売店で売ってるB品のクッキーが欲しいのに…」と本音を漏らす者もいたが、社長と専務(社長の奥さん)は、そんな社員の不満には全く気づいていないようだった。

さらにたちが悪いのは、ボーナス査定時期にそのプリントが回ってくることだ。

「たくさん買えばボーナスが上がるのでは?」と、根拠のない噂まで飛び交っていた。

私はまだ新人だったので、「片手」、つまり5個の注文で済んだ。

この会社では、5個注文することを「片手」と呼んでいたのだ。
少し役職がつくと「両手」、すなわち10個は注文しなければならない。

そして、役職のある上司たちは、単価が高いカステラを注文することになっていた。いくら役職のついている上司も小遣い制で「今月の小遣いは全部中元で無くなった」と冗談にもならない愚痴を漏らしていた。

カステラは賞味期限が短い。

すぐにさばかないと、自腹を切った意味がなくなる。営業マンたちは、こぞって自腹で購入した商品を、得意先に渡して回る。

私のような担当が少ない者にとっては、これがまた厄介だった。

先に上司が挨拶に回ってしまっているので、同じ会社に2つもお中元が届くことがざらだった。「いつもお世話になっています!」と私が差し出すと、「あれ?鈴木部長からももらったよ」と返される。

差し出したお中元を引っ込めるわけにもいかず、結局1社に2つも届くという、なんとも無駄で滑稽な状況が常態化していた。

お中元の意味とは何なのだろうか・・・。本来は、日頃お世話になっている人に感謝の気持ちを込めて、夏の時期に贈る贈り物であり、お盆の時期の挨拶として、夏の暑さを乗り切るための健康を願う意味も込められているはずだ。

しかし、うちの会社のお中元は、ただのノルマであり、社員の財布を圧迫する理不尽な慣習でしかなかった。

さらに、この会社には、仕入先に対する「お中元 強要システム」まで存在した。

「肉」「魚」「フルーツ」「酒」とカテゴリー分けされ、社長の自宅に直接お中元が届くように手配されていたのだ。

半ば強制で、仕入れ先が「今年はどんなものが宜しいですか?」と尋ねるのが風習になっていた。

肉や魚は、社長の食卓にちょうどいい時期に届くよう、カレンダーで細かく振り分けられていたという。社内に届いては社長が持ち帰るのが格好悪いという理由で、仕入先には「ご自宅へ」と連絡が入る徹底ぶりだった。

私はいつも、実家の母にも自社のお中元を送っていたが、母からは「もういいよ。安月給で親に気を遣わなくても…」と、心配される始末だった。(もちろん、会社に買わされているとは言えなかったが)。

そんなある日、社内で創業以来の大事件が起こった。

出荷したカステラにカビが生え、全国の土産物店から返品される事態となったのだ。

営業マンは必死に回収に走り、謝罪に駆け回る毎日が1ヶ月も続いた。幸い、食べた人はいなかったため、被害は最小限に食い止められた。

そして、ようやく一息ついた頃、社内に一枚のプリントが回ってきた。

そこには『アウトレット カステラ』という商品名が記されていた。

そして、その賞味期限を見れば、返品になった商品であることは一目瞭然だった。包装紙は破かれていて、中身だけでの販売だった。直射日光に当たれば当然品質も悪くなる・・・。

社員食堂や朝礼前の喫煙所では、
「おい、あんな商品誰が買うんだよ」「カビ生えたやつだろ?」と、社員たちの不満が積もっていった。

私は、そのカステラの注文プリントに、力強く「0」(ゼロ)と書き込んだ。上司からすぐに呼び出された。


「お前、何を考えてるんだ!1個でもいいから書いておけ!君のためだぞ!」

と、半ば脅すように言われた。


しかし、なんで食べたくもないものを、ましてやカビが生えたかもしれない商品を注文するということが、どうしても許せなかった。会社の考えも、全く納得できなかった。

「要らないです」

私はきっぱりと断った。

翌日、社長にまで呼び出された。

「なぜ、自社の商品が愛せないんだ?」


社長は、まるで私が会社の裏切り者であるかのように、冷たい目で私を見つめた。

「カビが生えて回収になったカステラなんて、食べようと思えません」

私は、抑えきれない怒りを込めて震える声で言い返した。

社長は、私の言葉を聞くと、表情一つ変えずに言った。

「…まあ、明日から会社に来なくていいよ」


あまりにも簡単に、私はクビになった。

どうしても許せなかった。

まだ勤務時間中だったが、私は自分の荷物をまとめ始めた。

フロアで上司が「おいっ!どうした!」と声をかけてきたが、

私はただ「社長から会社に来なくていいと言われました」とだけ報告した。

「なんでこんな思いをしないといけないんだ」

悔しくて、悔しくて、涙を堪えるのに必死だった。

しかし、会社の出口に差し掛かった時、自然と涙が溢れ出てきた。

私は「お世話になりました」と、誰にともなく呟き、目の前にあったゴミ箱を思い切り蹴っ飛ばした。

その日以来、私はその会社に二度と足を踏み入れることはなかった。


会社の末路

会社を辞めた後、私はすぐに転職活動を始めた。あの理不尽な経験は、私を精神的に追い詰めたが、同時に「もっとまともな会社で働きたい」という強い原動力にもなった。幸い、数週間後には新しい職場を見つけることができた。

今の会社は、社員の意見に耳を傾け、健全な経営をしている。あの時の涙は、新しい人生への門出の涙だったのだと、今では思える。

一方、あの菓子メーカーは、私が辞めてからも変わらなかったようだ。

まず、あの「アウトレットカステラ」の件は、社内だけでなく、取引先の間でも悪い噂として広まっていた。

幸いにも健康被害は出なかったものの、消費者の信頼は確実に失われていった。特に、カビが生えたカステラを社員に買わせようとしたという話は、業界内で「あの会社の社長と専務は何を考えているのか!」という悪評として定着した。

社長と専務のワンマン経営はさらにエスカレートした。

社員へのノルマは増え続け、不必要な経費削減(夏は午前中は冷房が禁止されていた)と、社長夫妻の私腹を肥やすための「仕入れ先からの贈答品」システムは健在だった。

優秀な社員たちは次々と会社を辞めていった。

残ったのは、会社の理不尽さに慣れてしまった者か、転職する気力もない者ばかりだった。

製品の品質管理も疎かになった。

一度カビ騒動を起こしたにもかかわらず、根本的な改善は行われず、コストカットばかりが優先された。

その結果、賞味期限の短い生菓子を中心に、クレームが頻発するようになった。SNSの普及も相まって、消費者の不満は瞬く間に拡散された。「あの会社の菓子は危ない」「二度と買わない」「カステラがパサパサだった」という声が、ネット上に溢れるようになったのだ。

仕入れ先も、社長夫妻への贈答品強要に辟易していた。

特に、品質の良い食材を扱う業者は、そんな理不尽な要求に応えるよりも、健全な取引を望んだ。結果として、本当に良い仕入れ先は離れていき、品質の劣る材料を使わざるを得ない状況に陥っていった。

売上は右肩下がりで、資金繰りも悪化の一途を辿った。
大事にはならなかったが、返品は増えていった。

銀行からの融資も厳しくなり、ついに会社は倒産の危機に瀕した。

社長夫妻は、最後まで自分たちの非を認めず、「社員の努力が足りない」「業者が悪い!機械メーカーが悪い!」と、責任を外部に転嫁し続けたという。

そして、私が会社を辞めてから3年が経った頃、あるニュースが私の耳に飛び込んできた。あの菓子メーカーが、経営破綻し、事業停止に追い込まれたというのだ。ニュース記事には、かつて私が蹴飛ばしたゴミ箱のあった建物の写真が小さく載っていた。

私は、そのニュースを読んでも、特に感慨はなかった。ただ、あの時の理不尽な涙と、ゴミ箱を蹴飛ばした時の感情が、ようやく昇華されたような気がした。

数週間後、私はたまたま駅の売店を通りかかった。かつてあの会社のカステラが並んでいた棚には、新しい、見たこともないお菓子のブランドが並んでいた。もう、あの特徴的な包装紙を見ることもないだろう・・・。気持ちもスッキリした。

理不尽な会社は、自らの手でその幕を閉じた。

あの時の私の涙は、決して無駄ではなかった。

むしろ、私をより良い未来へと導くための、必要な「出来事」だった






【有料解説】

理不尽な涙が教えてくれた「企業風土の闇」

~それでも、私たちは未来を変えられる~


1. なぜこの物語が心を打つのか

この物語が多くの読者の胸を打つのは、「理不尽に耐えることが美徳」とされた昭和的企業文化の名残が、今なお各地で息づいているからです。

「カビの生えたカステラを社員に買わせる」
この一文は、読者にとって衝撃的だったかもしれませんが、それは決して特殊な業界だけの出来事ではありません。実際の企業現場では、似たような
“見て見ぬふりの理不尽”が今なお蔓延しています。


2. 「理不尽」とは何か?

現代における3つの視点

  • ①心理的負担の強制(黙って従え)
    上司に逆らうこと=協調性がないとされる空気

  • ②経済的搾取の黙認(自腹が美徳)
    自社商品購入や業績カバーを“個人の善意”に依存

  • ③倫理の崩壊(バレなければOK)
    品質不良品を“アウトレット”と称して再販売

こうした理不尽は、社員のやる気や忠誠心を奪い、最終的には顧客にも悪影響を及ぼします。


3. 経営者向けチェックリスト

あなたの会社は大丈夫ですか?

☐ 社員に自社商品を買わせる“暗黙の圧力”はありませんか?
☐ 「お中元・お歳暮」などで社員や取引先に“ノルマ”を課していませんか?
☐ 商品やサービスのトラブルを、社員に尻ぬぐいさせていませんか?
☐ 仕入れ先・取引先に、私的な贈答品を強要していませんか?
☐ 社員の異議や疑問に「会社愛が足りない」と切り捨てていませんか?
☐ 賞味期限切れ・不良品の再販売を“黙認”していませんか?
☐ 夏の冷房、冬の暖房など、健康に関わるコスト削減を強制していませんか?
☐ 若手社員の声を「甘え」「未熟」として聞き流していませんか?
☐ 社長や役員が「経営努力より自分達が優先」になっていませんか?
☐ 社内に「違和感を伝える勇気」がある文化をつくれていますか?


4. 若者たちへ伝えたいこと

「理不尽な風習」を見つけたら、まず“聞く勇気”を

新人や若手の皆さんが「ん?」と感じることには、大抵理由があります。
以下のような点が見られたら、信頼できる先輩に聞いてみてください。

  • 自腹で自社商品を買わされる

  • 取引先に個人的な贈り物を要求する

  • 「これはウチの伝統だから」と根拠なく押し付けられる

  • 不良品を「大丈夫」と再利用している

  • 上司への忖度で物事が決まる

  • 体調を崩しても「根性」で片付けられる

  • 契約書を無視した慣習が横行している

  • 社内恋愛・上下関係で昇進が左右される

  • 成果より“長時間残業”が評価される

  • SNSでの会社批判が処分対象になる


5. 企業風土と末路:変わらなかった代償

この会社は、最終的に「信頼」を失い、倒産しました
その根底には「社長(専務も)変わろうとしなかった体質」「社員の声を無視し続けた姿勢」があります。

つまり、企業の“体質”は、いずれ「業績」「人材流出」「取引先離脱」という“数字”として跳ね返ってくるのです。


6. 最後に伝えたいこと

「変な風習に慣れてしまうと、感覚が麻痺する」

あなたの“違和感”は未来を変える力です。
ただの愚痴ではなく、「まだ人間らしい感覚を持っている」という証です。

理不尽は、放置すれば文化になります。
けれど、気づいて、言葉にすれば、文化は変えられます。

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