災害の教訓が命を守る――イオンモール爆発事故から考える「戻らない勇気」の大切さ
熊本県で発生した大規模地震では、多くの建物や道路が被害を受け、人々の暮らしにも大きな影響が及んでいます。時間の経過とともに被害の全容が少しずつ明らかになっていますが、その中でも私が特に考えさせられた出来事があります。それが、地震発生から約1時間30分後に起きたイオンモールでの爆発事故です。
この出来事について報道を見ながら、私は「災害の経験が確実に命を守ったのではないか」と感じました。もちろん、事故の詳しい原因や地震との因果関係については、今後の調査を待たなければなりません。しかし、今回の対応には、防災の観点から多くの学ぶべき点があるように思います。
イオンモールでは、従業員だけでも約2,700人が働いていたと報じられています。さらに、地震が発生した時間帯は日暮れ前であり、多くの買い物客が店内にいたと考えられます。そのような状況を考えると、非常に多くの人が建物内にいたことは容易に想像できます。
その一方で、爆発事故による犠牲者は、7月30日時点の報道では6人とされています。もちろん、お亡くなりになられた方やご家族のことを思えば、この数字を「少ない」と軽々しく表現することはできません。しかし、施設の規模や当時の利用者数を考えると、さらに大きな被害となっていても不思議ではなかった状況だったとも考えられます。
では、なぜ被害を抑えることができたのでしょうか。
報道によると、イオン株式会社の吉田昭夫社長は記者会見で、「一度避難したら、戻らないことを徹底している」と説明されました。そして、亡くなられた方はいずれも出店していた専門店の従業員であったことも明らかにされています。
この「一度逃げたら戻らない」という方針は、防災の基本でありながら、実際にはなかなか徹底することが難しい行動です。
人は避難した後でも、「財布を取りに戻りたい」「スマートフォンが気になる」「店の商品を確認したい」「仕事の後片付けをしたい」と考えてしまうものです。しかし、大きな災害では、最も危険なのは「戻る」という行動です。余震による建物の倒壊や火災、ガス漏れ、さらには今回のような二次災害が発生する可能性があるからです。従業員は、客を適切に避難させ、 多くが戻らなかったことが、大きく影響しています。
災害時には、「もう大丈夫だろう」という思い込みが命取りになることがあります。そのため、「一度避難したら絶対に戻らない」というルールを日頃から徹底し、訓練によって身に付けておくことが重要なのです。
私は、この方針が今回の被害を最小限に抑えた大きな要因の一つだったのではないかと感じています。
熊本県は、2016年の熊本地震という未曾有の災害を経験しました。その経験は、行政だけではなく、企業や地域住民の防災意識にも大きな影響を与えてきたはずです。避難訓練の見直しや危機管理体制の強化、災害時の行動マニュアルの整備など、多くの努力が積み重ねられてきました。
今回も、罹災証明書の発行が早い段階から始まるなど、行政の対応にも過去の経験が生かされているように感じます。大きな災害を経験した地域だからこそ、その教訓が次の災害への備えとなり、多くの人命を守る力になっているのではないでしょうか。
災害報道では、どうしても被害の大きさや悲惨さが中心になります。それは大切なことですが、一方で「どのような備えが被害を減らしたのか」「どのような判断が命を守ったのか」という視点にも、もっと光を当ててほしいと思います。
防災の目的は、災害そのものをなくすことではありません。自然災害は避けることができませんが、人々の知恵や経験、日頃の備えによって被害を減らすことはできます。その成功事例を広く伝えることは、多くの地域や企業、防災担当者にとって貴重な学びとなるでしょう。
今回のイオンモールでの対応は、「避難したら戻らない」という、ごく基本的な原則の重要性を改めて私たちに教えてくれました。災害時には、財産よりも命が何よりも大切です。そして、その命を守るためには、平常時から正しい知識を学び、繰り返し訓練を行い、いざという時に迷わず行動できるようにしておくことが欠かせません。
今回の災害から、私たちは悲しみだけではなく、多くの教訓も受け取ることができます。これからは、被害の状況を伝えるだけでなく、人々の努力や適切な判断によって被害を軽減できた事例についても積極的に調査・報道していただきたいと思います。その積み重ねが、防災文化を育て、次の災害でさらに多くの命を守ることにつながると私は信じています。
