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京都の和紙リサーチ (レジデンス Day 09)

7月1日(火)の振り返りです。この日に決まっていた予定は、京都建仁寺塔頭両足院にて半夏生とお庭、そして、BUAISOUの作品展示を鑑賞すること。それ以外は、以前から行ってみたかった京都の丹後和紙と黒谷和紙の工房を訪れること。

両足院はNohga Hotel Kiyomizu Kyotoから徒歩で10分ほどのところにありますが、前回、京都に来た際、近隣を歩いたものの、両足院には伺えなかったので、場所をはっきり把握していませんでした。なので、午前10時の鑑賞会の受付時間に余裕を持って外出し、両足院の場所を確認してから、その近隣を少し歩いて時間調節をしました。

受付にはすでに数名の来客の方も来られていました。少しの間、他の方々が集まるのを待ち、注意事項や説明を聞いてから、建物を通ってお庭に通していただきました。

街の喧騒から一線を画す日本の寺院ならではのお堂やお庭。自然光の差し込、そこに出来上がる陰影、静かなお堂に残るお香の香り、お庭に配置された景石と池を囲むように見ごろを迎えた半夏生。そして、室内にさりげなく調和するように展示された現代アート作品やBUAISOUの藍染の作品の数々。とても心地よい調和の世界を堪能できました。

京都建仁寺塔頭両足院のお庭 池周辺の半夏生が見頃

ちなみに建仁寺の境内には、臨済宗の開祖である栄西がお茶の文化や作法、茶の種子を持ち帰り植樹したとされる茶畑もありました。近くには中は見ることができませんでしたが、浴室と示された建物があり、湯気で体を温める蒸し風呂との説明もありました。ただ、ここも修行の一つとされていたようで、禅堂、食堂とともに三黙堂の一つとして厳しい作法があるようです。

日本へのお茶の伝搬が書かれている石碑

さて、両足院を後にし、次は丹後和紙が生産されている京都府福知山市大江町という町へ。京都市街地からは高速道路を利用して1時間半ほどのところにあります。平日の午後ということで、大江町和紙伝承館はお休みでしたが、隣にある丹後和紙 田中製紙工業所の方には、職人さんのご家族がいらっしゃったので、少しお話を聞くことができました。

丹後和紙 田中製紙工業所

和紙の原料となる楮(こうぞ)の育成から、紙漉きまでを一つの家族で行われているとのことでした。紙を漉く際に楮の繊維を結びつけるネバネバした成分は、オクラに似たトロロアオイという植物を使われるそうです。この地域には元伊勢内宮皇大神社、元伊勢外宮豊受大神社、天岩戸神社という「元伊勢三社」があり、三重県の伊勢神宮が現在の地に鎮座する以前に、天照大神や豊受大神が一時的に祀られていたとされる地域でもあるそうでした。何度か大火にみまわれて、文献が損失して丹後和紙のもともとの始まりは定かでないといってらっしゃいましたが、この元伊勢三社の存在とも合わせて推察する限り、かなり重要な役割を果たしてきた京都の和紙産地だと感じました。建物の一角では、和紙の販売や作品の展示、関連書籍などが置かれていましたが、その中には皇族の彬子女王と田中製紙工業所のご家族の集合写真が飾られ、さらに彬子女王が執筆された書籍や記事が掲載された雑誌もありました。和紙、神社、皇族の関係を物凄く伝わってきたひと時でした。

それと同時に伝統工芸にまつわる苦労話も交わすことができました。作業工程が多く、経験や熟練の技が必要な高品質な伝統工芸ならではの課題の一つには、やはり維持継続をしていくこと。山口県の萩市で皇族や寺院へ高品質な簾(すだれ)を納めていた職人さんから、地域おこし協力隊を受け入れて、その伝統工芸や事業を引き継いでもらえるようにと試みたそうですが、高品質が故に高価で耐久性もあり、買い替えのサイクルが長く、日々の生活のために継続的に収入を得るのが難しいという点から、若い人に受け継いでもらうには心苦しく引き継いでもらうことを諦めたと聞いたことがありました。このお話をしたところ、ご主人の田中さんも共感されるようにうなづいていらっしゃいました。当事者の職人さんは辞めてもいいと考える一方、若い世代は途絶えさせてはいけないという考えが、見えないところで拮抗している様子を思い出しました。ものの存続の瀬戸際。日々の営みや生死が象徴的に感じられます。

さて、田中さんの工房を後にして、元伊勢内宮皇大神社へ行ってみることに。山間に田んぼが広がる中を通って、昔は賑わいの多かったであろう参道を横目に、登って木が茂る森の中へ。少しいくと参拝に来た子供連れの家族とすれ違いました。階段を登ったところで、大きな杉の木が立ちそびえていました。すぐその先には残された切り株の真ん中から新たな木が育っていたり、傍には地下水が湧き出る泉がありました。本殿への参道から少し脇に入ったところには「カネのなる石」というものもあり、実際に石で叩いてみると金属音のように高い音が響きました。

カネのなる石

それから本殿の方へ進むと、確かになんだか格の違う神社の存在感。森の中の本殿を取り巻くようにたくさんの小さな社がありました。そして、本殿の両脇には大きな杉の木がありましたが、本殿の上は遮るものがなく青い空が見えていました。本殿を参拝後、境内をぐるっと周り、次は天岩戸神社へ。徒歩7~8分の道中には、日室ヶ嶽(岩戸山)遥拝所というところもあり、天照大神や太陽に対する信仰の場という感じが伝わってきました。さらに足を進め、天岩戸神社まで来ることができました

元伊勢内宮皇大神社の御本殿

とても神妙な場所で、社も傾斜のある岩場の上に建てられ、こじんまりとしていましたが、とても特別な存在に見えました。ひっそりとしたところで、たまたま私一人だけでもあったので、社の背面の方が気になったので、川に転がってきた岩を飛び乗り、社の後ろに回っていくと、沢のところに丸い大きな巨石が谷に挟まったかのように水を堰き止めているようでした。当然、人為的ではないと思われますので、その神秘的な様子に少しだけ見入ってしまいました。帰り際に説明があったので読んでみたところ、この巨石は、神が座して天降ったところといわれ「御座石」と名付けられているとのことでした。予想を超えてなんだかすごいところに来たなという感じです。

天岩戸神社の御座石

それからまだ時間に余裕があったので、元伊勢外宮豊受大神社の方へも行ってみました。駐車場について、早速、近畿五芒星という単語が目に入ってきました。以前からも聞いたことがありましたが、京都で陰陽師のことに触れ、神社をつないでできるこの巨大な地上絵的五芒星の一つに実際に来てみるとなんだかとても不思議かつ神秘的な感覚です。さらに出雲から霊峰富士へつながる御来光のレイラインという説明書きもあり、神秘のロマンが広がります。

近畿五芒星と御来光のレイラインについて

午前中は仏の世界に触れ、午後は神の神秘的な世界に触れた感じ。心象世界と宇宙の摂理の重層感に浸った気がします。

そんな心地良さを感じながら、本日最後の目的地である黒谷和紙のある地域へ行きました。黒谷和紙会館というところに伺うことができました。ここでもご多忙の中、運営されている方から直接お話を聞くことができました。ここは組合として和紙の生産をしているとのことで、京都市内で美術工芸を大学で学んだ若い方々が近隣に移住されて、和紙の生産やそれらを活用した作品や商品などを製造されているそうです。この和紙会館の一階には、ここで作られた和紙や工夫を凝らした作品が展示販売されていて、それぞれの制作秘話も教えていただくことができました。中でも興味深かったのは、繭の形に成形された和紙の箱。この辺りでも蚕をかっていた歴史があるそうで、そんな歴史も垣間見られるストーリーと素材のコラボ商品は、見た目も優しく、造形的にも興味深いものでした。成形には3Dプリンターで型を作って、製作したとのことも手仕事とデジタルのお仕事の組み合わせで、感心しました。

繭の形に成形された和紙の箱

この会館の2階は資料館になっていて、製造過程の紹介、道具の陳列、地図、黒谷和紙を活用した特殊な生地や織物などがありました。どれも和紙の活用方法としてとても参考になるものばかりでしたが、片隅に少しだけ異彩を放つ作品が。グラデーションのあるカラフルな幾何学模様の作品が額装されて展示されていました。現代美術に携わってきた私にとって、なんとなく親しみがある作品だなと作品の近くにあった付属品らしき包み紙というか冊子というかに目をやると「Jasper Johns」と書いてありました。展示ケース越しで小さな文字までははっきり読めませんでしたが、日本のギャラリストが仲介し、黒谷和紙を使ってスクリーン・プリントのエディションを製作したもののようでした。日本の和紙工房のある集落に来て、戦後のアメリカで重要な活躍をしたアーティストの作品が見られるとは思っていませんでしたので、ここでも予期せぬ喜びが生まれました!

黒谷和紙を使ったジャスパー・ジョーンズのスクリーンプリント

和紙会館の見学後、最後に共同工房を見てもいいと言われましたので、建物の外から窓越しに内部の様子を見させていただきました。今日は職人さんがいらっしゃらなっかたですが、定期的に稼働しているそうで、来客の手漉き和紙体験の要望がある時にも稼働するようでした。一通り、見終えて帰り際にこの共同工房の隣で畑にお水を上げているおばあちゃんがいたので、少し立ち話をさせていただきました。やっぱり、このおばあちゃんも昔は和紙の職人さんとして働いていたそうです。組合から要望が来るので、期日までに納品をする日々に追われて大変だったと思い出話を話してくれました。

黒谷和紙共同工房

それなりに長文になってしまいました。この日は京都ホテル・レジデンスの第二弾として、目的地に掲げていたところに行くことができ、とても学びの多い充実した1日になりました!ありがとうございました!


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