臨床ピラティスの教科書 -変形性膝関節症-
① 概要
変形性膝関節症(OA)は、加齢や力学的ストレスにより膝関節軟骨が変性・摩耗し、疼痛や可動域制限、機能低下を呈する疾患である。内側型が多く、下肢アライメント異常や筋機能低下が進行に関与する。単なる「軟骨のすり減り」ではなく、滑膜炎、骨棘形成、筋・神経系の適応不全を含む全身的・運動制御の問題として捉えることが重要である。
② 割合
日本における変形性膝関節症の潜在患者数は約2500万人、有病者は約800万人とされ、特に40歳以降で増加する。女性に多く、閉経後に発症率が上昇する傾向がある。高齢化に伴い今後さらに増加が予測され、理学療法・運動指導の果たす役割は、疼痛管理のみならず要介護予防の観点からも極めて大きい。
③ 原因
主因は加齢変化だが、肥満、O脚、過去の外傷、筋力低下、関節運動の偏りが複合的に関与する。特に股関節・足部機能低下による膝への代償負荷が重要である。局所的な膝問題としてではなく、体幹・股関節・足部を含めた運動連鎖の破綻として評価することで、根本的介入が可能となる。
④ 現在の治療法
保存療法が第一選択で、運動療法、体重管理、薬物療法(NSAIDs、ヒアルロン酸注射)が中心となる。進行例では手術療法(骨切り術、人工膝関節置換術)が検討される。近年は「運動による疼痛改善」のエビデンスが強調され、安静よりも適切な負荷調整と動作再教育が重要視されている。
⑤ 変形性膝関節症のリハビリ方法
変形性膝関節症のリハビリでは、運動療法が第一選択であることが国内外のガイドラインで強く推奨されている。重要なのは、痛みのある膝だけを見るのではなく、動作全体を再構築する視点である。
リハビリの基本方針
炎症・疼痛期は過剰な圧縮・剪断ストレスを回避
可動域維持と軽負荷運動で「動かせる状態」を保つ
痛みが落ち着いたら筋力強化と動作再教育を並行
実践で重視すべきポイント
立ち上がり・歩行・階段など日常生活動作に直結した練習
膝主導ではなく股関節主導の運動戦略への修正
荷重位での下肢アライメント評価とフィードバック
近年の研究では、単純な筋力トレーニングよりも運動パターンの修正が疼痛改善と機能向上に寄与するとされている。呼吸と体幹安定性を伴ったエクササイズは、動作の再現性を高め、セルフエクササイズの継続にも有効である。
⑥ 使うべき筋肉
変形性膝関節症では「大腿四頭筋」が注目されがちだが、実際には股関節・足部・体幹を含めた協調的筋活動が膝関節負荷を左右する。
特に重要な筋群
中殿筋・大殿筋
骨盤安定性を高め、歩行時の膝内反モーメントを軽減
深層外旋筋群
股関節の求心位保持を通じて下肢アライメントを安定
ハムストリングス
膝屈曲だけでなく衝撃吸収・脛骨前方移動制御に関与
見落とされやすいポイント
足部内在筋・下腿筋群
荷重時の衝撃吸収と荷重分散に重要
体幹筋群(腹横筋・多裂筋)
近位安定性が下肢筋活動の効率を左右する
エビデンスでは、股関節筋群の筋力低下が疼痛や機能低下と関連することが示されており、「膝を守るために股関節を使う」視点が不可欠である。
⑦ おすすめの運動
運動療法では「強さ」よりも段階性と動作の質が重要であり、低〜中強度の運動でも十分な効果が得られることが報告されている。
非荷重位での運動
クラムシェル
サイドライイングヒップアブダクション
→ 股関節外転筋を代償なく活性化
股関節主導パターンの獲得
ブリッジ
ヒップヒンジ
→ 膝依存の動作戦略からの脱却
荷重位・機能的運動
シットトゥスタンド
軽度スクワット
ステップ動作・片脚立位
これらは疼痛軽減と機能改善の両面で有効とされ、歩行や階段動作への汎化が期待できる。ピラティスのフットワークやペルビックスタビリティ系エクササイズは、関節位置覚と体幹制御を高め、疼痛が強い症例にも導入しやすい。
ここまでは変形性膝関節症の基本的なまとめです。
ピラティスエクササイズを交えて説明します。
変形性膝関節症はO脚だけでなはく、X脚や関節軟骨の摩耗により膝関節ROMの低下、痛みがでてしまう。
そのため、膝関節へ着目しやすいが膝関節への影響は股関節や足関節の可動性、体重、体幹からの繋がりなども考慮する必要がある。
特に、膝関節の変性が進んでいくと見られる特徴を下記に挙げてみる。
ここでは、割合として多いO脚の際の歩行に着目します。
膝関節内反し、距骨下関節の回内が起こる。
足関節の足関節底背屈制限につながり、立脚中期から後期にかけての股関節伸展制限にもつながってきます。
O脚が進行した方は股関節伸展制限により大臀筋、内外転筋の筋力低下につながってきます。
また、股関節伸展制限、足関節底背屈制限により、歩行時の回旋動作が減少し、腹斜筋群の筋力低下にもつながります。
ここでは変形性膝関節症の方に使いやすいピラティスエクササイズをいくつか挙げてご説明します。
臨床ピラティスコースで実際に使用する教科書から内容を抜粋しています。
Swimming
目的:
・POSとDLSを活動的にする
・臀筋の活性化を再教育する
・身体中心から膝屈曲と股関節伸展コントロールを分
離する
・股関節伸展における臀筋とハムストリングスが活性
化する
タイミングを再教育する
スタートポジション
うつ伏せになりおでこを手背の上に置く。首は長く保つ。肩甲骨をウエストに向かって滑らせる。
背骨はニュートラルを保ち、脚は平行に置く。

Level 1
・息を吸って準備、ゆっくりと坐骨同士を近づけて臀
筋を活動させる。
・息を吐いて、左脚を体の中心から遠くへ伸ばし、準
備ができたら2.5cm脚をマットより浮かせる。
・息を吸いながら、左脚をマットへ下ろす
・6-8回交互に繰り返す

Level 2
・おでこを折りたたんだタオルや小さいクッションの
上に乗せる。両腕を頭の向こうに伸ばし、肩幅より
少し広くする。手のひらは床に向ける。
・息を吸って準備、息を吐きながら左腕を体の中心か
ら遠くへ伸ばし、準備ができたら2.5cm腕をマットよ
り浮かせる。
・息を吸いながら、左腕をマットへ下ろす
・6-8回交互に繰り返す

Level 3
・息を吸って準備、息を吐きながら左腕と右脚を体の
中心から遠くへ伸ばし、準備ができたら2.5cm脚と対
側の腕をマットより浮かせる。
・息を吸いながら、左腕と右脚をマットへ下ろす
・6-8回、対角の腕と脚を交互に繰り返す

注意点:
・股関節/肩関節伸展時の腰椎伸展
・肩関節伸展時の胸椎伸展
・脊柱起立筋の過活動
・ハムストリングスの過活動
・僧帽筋上部繊維と胸鎖乳突筋の過活動
Clam
目的:
・中臀筋後部繊維のみを動かす。
・中臀筋後部繊維とその他の股関節周囲筋の活動タイミングを再トレーニングする。
・骨盤回旋動作のコントロールを行う。
・AOS とLSを活性化する。
Level 1
スタートポジション
・横向きになり、下側の腕は頭の向こうに伸ばす。伸ばした腕の上に枕を置き、その上に頭を乗せる。
・股関節45°、膝関節90°屈曲する。
・左右の肩関節と股関節を結んだ線が床から垂直になり、上側の手は床に置く。
・上側の股関節を足先に引き下ろし、下側のウエストに小さなスペースを作る。
・息を吸って、ゆっくりと坐骨同士を近づけ臀筋の収縮を入れる。
・息を吐きながら踵をくっつけたまま上側の膝を開く。
・息を吸いながら上げた膝を下ろし、膝を揃える。
・8-10回繰り返す。

Level 2
スタートポジション
・level1のポジションから両足を揃えたまま床から20cmほど持ち上げる。
・息を吸って、ゆっくりと坐骨同士を近づけ臀筋の収縮を入れる。
・息を吐きながら踵をくっつけたまま上側の膝を開く。両足は浮かせたまま。
・息を吸いながら上げた膝を下ろし、膝を揃える。両足は浮かせたまま。
・8-10回繰り返す。

Level 3
スタートポジション
・level2のポジション下側の足を伸ばす。上側の足先が下側の膝裏につく。
・下側の足を伸ばしたままlevel2の動きを繰り返す。床についている手で支えすぎないように注意。

注意点:
・中臀筋後部繊維よりも股関節屈筋が先に働く。
・中臀筋後部繊維よりも大腿筋膜張筋が先に働く。
・股関節屈筋と大腿筋膜張筋の過活動
・梨状筋の過活動
・ハムストリングの過活動
・床についている腕で支えすぎる
・胸椎伸展(肋骨が浮く)
Hip twist
目的:
・中臀筋後部繊維と体側の内転筋を活性化する。
(level1)
・骨盤回旋動作に対するコントロールを強化する。
・AOS とLSを活性化する。
・腰椎、胸椎、頚椎を動かす。(level2)
スタートポジション
・休息位
Level 1
・息を吸って準備、息を吐きながら左膝を体の中心か
ら外側へ倒す。
・息を吸いながら、左膝を最初の位置まで戻す。
・交互に6回繰り返す。

Level 2
スタートポジション
・両腕を肩の高さに広げ、掌は天井へ向けておく。肩甲骨が正しい位置にあるか確認。両脚を揃える。
・息を吸って準備、息を吐きながら両膝を体の中心から右側へ倒し、つられて骨盤、腰椎、ウエストまでも右側へ向く。同時に頭と首を反体側の肩へ向ける。首は長く保つ。
・息を吸って、自分が心地よいと感じる範囲でさらに右側へ倒す。
・息を吐きながら頭と首を中心に戻す。同時にウエスト、腰椎、骨盤、両脚も中心に戻す。
・交互に6-8回繰り返す。

注意点:
・反対側の骨盤の回旋動作
・股関節屈筋の過活動
・動きが少なすぎる
・胸椎伸展(肋骨が浮く)level2
・頭部前方変位 level2
臨床ピラティスコースでは、これに加えて、バリエーションや適応、禁忌についての説明を行なっています。
この教科書の写真をみていただいて分かる通り、かなり細かくエクササイズを噛み砕いてご説明しています。
コースについての詳細はこちら↓
コースについての説明はこちら↓
お問い合わせはこちら↓
