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テンポをぶっ壊す

音楽発表会で、バスマスターに選ばれた。

鍵盤ハーモニカのメンバーを引率するような役割で、全体の輪郭を縁取る役目だった。

幼い頃は、その子の技術とか経験なんて、雛鳥の背比べみたいなもので、元気に口をあけてパクパクしていたら、チャンスがあった。

つまり、バスマスターの適正なんて測られずに決まった。



私は、リズムがおかしかった。

皆んなの音を聞いて、安心してから、鍵盤を押す。

ほんの一瞬のズレが毎音だから、もうノイズでしかない。

裏拍子なのか?新しいアレンジ?



牽引する役割なのに。

来客が来訪し、玄関で迎えた私が、「あ、お先にどうぞ」と言う。

相手は、応接室が何階のどこにあるかなんて、知らない。

「そこ、右です」
「どうぞ、どうぞお先にお進みくださいませ」

相手も勝手が分からず、右の扉を開けては、「あ、失礼。ここじゃありませんでした」なんて言っている。

私も真剣な顔をしながら、後ろをついていく。



どうなったか。

恐らく、若い先生は悩んだだろう。
こんなに幼い頃に、「クビ」の選択肢はない。

どうしたか。

当時は、知らなかった。



だけど大人になって、ビデオを見て知った。

私のペースに皆んなが合わせていて、本来の曲が、0.8倍速になっていた。



軸が合わないとき。

合わせにいくのではなく、軸そのものを変えるという、最後の手段もあるらしい。

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