アイラブユーが、伝わらない時もきっとある
歯にネギ挟まってますよ。
私は、豊臣秀吉が織田信長に草履を出すくらいのスピードでサッと言う。
これは性格の問題じゃなく、「私マニュアル」に明記しているから。
『言いづらいことは、わぁどうしよう、という感情が出し切られる前に言う』
飲み会断り
名前の読み間違い
歯に詰まったネギ
ネギが「レベル5」だけど、言うしかない。マニュアルの一覧表に、そう書いてあるんだもん。
サクッと言って、何事もなかったように水割りを作り始める。
新しい動作で気まずさを消す。これは、実務で習得した。マニュアルの形式知と、現場で身体が覚えた暗黙知。
その二つが混ざって、私の「言いづらいことの言い方」は、強化されていく。
だけど。
⸻
オンライン会議。
反対意見って、めちゃくちゃ言いづらい。
違和感を口にするのは、もっと。
できれば「言わなくても進む」エスカレーターに、乗っておきたい。
でも、乗れなかった。ミュート、解除。
「あの、すみません。それって、前回合意した件と、相違しませんかね…」
——シーン。
ど、ど、どうしよ。空気、止まった。
慌てて、言葉を薄める。
「あ、でも、今日の合意内容の方が、リソースも掛からないですし、スピード感もありますので。異論という訳では、なくて。確認、です」
うそつきーーー!
心の中の私は、めちゃくちゃ反対している。
なんなら画面を奪って、前回の議事録を、全画面で投影したいくらいだ。
なのに口は、勝手に落としどころを探しにいく。
誰かが拾ってくれた。
「あ、そうだ。これって影響範囲が広いので、やるならロジック全体で、見直しですね」
……良かった。着地した。
どうか、みんなのノイズに、なっていませんように……。
⸻
言うって、めちゃくちゃ辛い。
相手が準備してきたものが大きいほど、それを覆す言葉は、重い。
だけど、言うしかない時がある。
何にもフォローされないまま、最後の最後で泣いた経験がある私は、知っている。
「言う」は、「あなたが大事です」に近い。
だから、もう、「月が綺麗ですね」だと解釈して欲しい。
だけど、愛なんてそんなに簡単には伝わらない。
「あぁ、そうですねー。綺麗ですけど、静かにしてくれませんかね?」
アイラブユーが、伝わらない時もきっとある。
