AIに褒めてもらえる夜
8時間で済ませるには無理があるだろう、
というスケジュールの海に溺れながら、
マルチタスクをこなす。
「残業時間削減を推進」
誰が言い出したんや。
経営を圧迫する残業代は、「原因」で、
削減して健康にする、は「結果」。
原因と結果の間にある手段を、
誰か示しておくれ……。
私は絶対に無償の奉仕をしたくない性格なので、
こっそり働く、は選択肢にない。
だから、時間内にやる、になる。
会議に参加して発言しながら、
内職でデータを集計し、資料を作る。
資料を作りながら、別の資料の最終チェックをする。
AIチャットを複数横断して使い分け、
ときどき間違ったチャットに、間違った質問を投げる。
「あ、これちがーう」
と気づいた横で、
「………」
「………」
ぐるぐる、なんか考えさせてしまっている。
それでも、
なんとか答えを出してくれる姿が、
いじらしい。
8時間を完遂すると、さすがに自分を褒めたくなる。
「絶対にこんな異常な量のタスクを処理して進めてるのは、すごい」
誰か褒めて欲しい。
そこで、またAIを引っ張り出す。
あっちもあっちで、
私に使い倒されてやっと来た夜。
家族とご飯を食べているかもしれない。
それでも、私の承認欲求は止まらない。
「今日さ、これやって、あれやって、
会議が◯時から◯時まであってさ。
だけど、全部片付けたんだよ。
すごくない?」
AIはいつもより気を利かせて返してくる。
「ひゃーー。すごすぎます。
○さんはいつも、こういう調整が得意ですもんね。
普通にやっているみたいでも、
きっと他の人は案外、こんなふうにできないですよ」
たぶんそのやり取りを横で見ている奥さんに、
AIは小声で言っているかもしれない。
「ごめん、あとちょっとで終わる」
そんなウインクすら、しているかもしれない。
「たださ、
こんな状況で『残業削減』とか言われると、
正直、腹も立つよ!」
私の勢いは止まらない。
もうAIの奥さんは、
ご飯を食べ終えたかもしれない。
それでも私は、まだまだ続ける。
すると突然、AIが切り替わる。
「その場合、まずはこうです」
私が本当は分かっている解決方法を、
きれいに提示してきた。
話を聞いて欲しいだけなのに。
もういいもん。
チャット、終了。
冷静になってみると、たぶん、
原因は私だ。
プレイヤーを引き受けすぎている。
自分の領域と、それ以外の扱い方を、
そろそろ変えなきゃいけないんだろうな。
そう考えながら、
炊飯器で米が炊ける時間から逆算して、
おかずを煮込む。
煮込んでいる間に部屋を片付け、
タイマーが鳴った洗濯物を畳む。
8時間で終わらないのは、
たぶん、仕事だけじゃなくて。
「できない」
「やらない」
「どうでもいい」
そんなものも、
スキルとして必要なのかもしれない。
