【試し読み】『独裁と喝采――カール・シュミット 〈民主主義〉論の成立』
2025年9月新刊『独裁と喝采――カール・シュミット 〈民主主義〉論の成立』は、20世紀最大の論争的政治思想家カール・シュミットの民主主義論の形成過程を、1910年代から『憲法論』に至る期間を対象に、一次資料や最新研究から探る画期的研究書です。
今回は、本書の主題をわかりやすく解説した「序章 シュミット 〈民主主義〉論と独裁論の形成」から「(一)民主主義をめぐる問い──本書の問題関心」を公開します。ぜひご覧ください!
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序章 シュミット 〈民主主義〉論と独裁論の形成
(一)民主主義をめぐる問い──本書の問題関心
カール・シュミット(1888-1985)は、ヴァイマル共和政期に「治者と被治者の同一性」と民主主義を定義した。シュミットによると、民主主義とは、「人民の意志」は決して誤らないと想定し、人民の意志を究極の正統性の根拠とする政治体制である。そしてこれは、実質的には、人民の意志という正統性に支えられた政治指導者に対して、人民が喝采し協賛を与えることを意味するのだという。
この「治者と被治者の同一性」という命題は、ジャン= ジャック・ルソーの人民主権論から導き出されたものである。同時代に生きたオーストリアの法学者ハンス・ケルゼンも、この命題を民主主義の定義として受け容れていたように、民主主義についてのこの定義は、当時のドイツ語圏の国法学において一定程度受容されていた。現代政治学においても、この命題は民主主義を表すものとして少なからず認められており、その内容を検討しないまま無批判に使用されることも少なくない。
シュミットの民主主義論は、一方では「ラディカルな民主主義論」として肯定的に引き合いに出されることがある。だが他方で、自由民主主義の立場からは「民主主義」の理論としては誤った議論、あるいは偏った議論であるとして端的に否定されるか、あるいは無視される場合もある。いずれの立場も、シュミットの民主主義論に対する向き合い方としては、問題を含んでいるだろう。なぜなら、シュミットの民主主義論をその形成過程に即して理解するならば、安易にシュミットの民主主義論を受け容れ、あるいは無批判に使用することはできないことがわかるからである。また、シュミット独自の「民主主義」論を克服する努力を怠るならば、民主主義に内在する本質的な問題について理解し、そこから学ぶ機会を逸することになるからである。
本書でこれから論じていくように、「治者と被治者の同一性」という命題に関するシュミットの思想は、独裁論との密接な関連の中で形成されたものであった。革命と内戦の時代状況の中でシュミットが独裁論を形成し、この理論を土台として「民主主義」論を展開していくプロセスは、民主主義の本質がいかに独裁と関わっているかを如実に物語っている。本書ではこのことを、ドイツ第二帝政末期からヴァイマル共和政中期までにシュミットの民主主義論が成立する過程を解明することによって、明らかにしたい。『憲法論』(1928年)において民主主義論が完成するまでの時期に、独裁と民主主義に関する思想が展開される軌跡を辿り、その発展過程を再構成することが、本書の目的である。時代状況の中に位置づけてシュミットの思想の道筋を追体験することで、独自のルソー解釈に基づく主権独裁の論理、および人民の同質性に関する思想についての考察の中から、シュミットの民主主義論が生み出されたことが明らかになる。また、民主主義論を構想する上で「国家の統一」と主権をめぐる問題がシュミットにとって重要な役割を果たしていたことがわかる。「独裁」と「喝采」という契機によって色濃く刻印されたシュミットの民主主義論はどのようにして成立したのか、本書ではその形成過程を統一的に解明したい。
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続きは、ぜひ本書をご覧ください。
目次
序 章 シュミット 〈民主主義〉論と独裁論の形成
第1章 国家・個人・法学方法論
――シュミット民主主義論の諸前提(1910―1919年)
第2章 独裁と民主主義
――シュミット独裁研究とその前提条件(1915―1921年)
第3章 政治神学・人民主権・主権独裁
――シュミットの民主主義的正統性論(1922年)
第4章 主権独裁と民主主義
――民主主義論の展開(1923―1926年)
第5章 人民投票モデル・喝采・カリスマ概念の継承
――民主主義論の新たな展開(1927年)
第6章 『憲法論』における民主主義的同一性原理
――民主主義論の完成(1928年)
終 章 シュミット <民主主義>論の成立
著者略歴
松本彩花(まつもと・あやか)
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院講師。
北海道大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。
日本学術振興会特別研究員PD/CPDを経て現職。
専門分野:政治学、西洋政治思想史、20世紀ドイツ語圏の民主主義論。
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