【創作小説×レシピ】バーチャル居酒屋『酒肴録』第23話: ズッキーニの豚バラ巻串と日本酒
内容紹介
今日の一皿は、噛んだ瞬間に内に秘めた旨みが爆発する「ズッキーニの豚バラ巻串」。
バーチャル居酒屋で繰り広げられる、日本酒と心ほぐれる物語、そしてレシピや材料紹介をお楽しみください。
本編
のれんをくぐると、ちいさなせかいにつつまれる。
ことばは酒にほどけ、肴にかたらう。
こんやは、なにが録されようか。
カウンター席の左端。
飯山拓海は、手帳の切れ端を折りたたんで鞄にしまうと、グラスをゆっくり傾けた。涼しげな泡が舌の奥でほどける。ひと息置いて、ふう、と深く呼吸をした。
「この酒、炭酸じゃないのがいいんです」
そう言って笑った顔は、少しだけ疲れていた。シャツの襟元には、京都から東京に戻ってきたばかりの移動の名残が滲んでいる。
真城一献は、火加減を確認しながら言った。
「お疲れさまです。関西は、もう梅雨明けですか?」
「はい。日中はものすごく暑くて。でも、さっきまでいた店は、冷房を使わないんですよ。蔵の風と簾の影だけ。見習いの子が扇子で風を送ってて、なんか、よかったですね」
炭火の上で、豚バラを巻いたズッキーニがじゅうじゅうと音を立てた。肉の脂が焦げ、甘い香りが立ち上る。拓海はその香りに目を細めた。
「そこの和菓子屋、前からうちの得意先で。海外のバイヤーを連れて行くと、たいてい喜ばれます」
「いい店ですよね。うちにも、その店で修行していた方がいらっしゃいました。若いけど、芯のある目をしてましたよ」
拓海の箸が止まる。
「─あの子、ここに来てたんですか?」
真城は串をひとつ、皿に置くと、微笑んで頷いた。
「はい。黙って食べて、黙って帰るんですが、一度だけ、今日の大葉は少し元気がないねって言われましてね。気づかれてたんですよ、いい大葉が手に入らなかったのを」
拓海は小さく笑った。
「繊細すぎて、いつも怒られてたらしいです。動きが遅い、って」
「でも、遅い動きには、思いがありますから」
串の焦げ目がほどよく色づくと、真城は塩をひとつまみ振った。ズッキーニが熱を溜め込んで、とろりと甘い香りを放つ。
拓海はひと口、串をかじる。カリッと豚が音を立てたかと思うと、そこに青みと水分のあるズッキーニが重なった。ひと呼吸遅れて、舌に残った油を、グラスの酒がさらりと流していく。
「─いいですね。手間がかかってるけど、無理してない」
拓海は、もう一口串を食べてから言った。
「その子も、似たような人でしたよ。派手さはないけど、時間をかけて、相手の声を拾うような味をつくってました。自分は、売る側です。酒も、言葉も。だけど、今日もあの子の仕込みを見てたら、なんか、渡してるだけなのかもって思いました」
「渡して、ちゃんと届いてますよ」
拓海は驚いたように顔を上げる。
「あなたが案内した海外の人たち、その味を持ち帰ってる。誰かと飲んで、語って、また違う誰かに伝える。日本酒って、そういうものだと私は思ってます」
拓海は、ゆっくりとグラスを回す。泡はもう消えていた。
「─さっき、あの子が店で練ってた餡、あれは梅の香りがしたんです。そこの蔵の純米酒を、火入れ前に少しだけ混ぜてるって言ってました」
真城の手が止まる。
「それは、いい使い方だ」
「ええ。うちの酒、あんなふうに使われたの、初めてで。なんだか、ちゃんと返してもらった気がしました」
ズッキーニの豚バラ巻串は、もう残っていなかった。
拓海はグラスの底を見つめて、ぽつりとつぶやいた。
「また来ます。その子が帰ってくる頃に」
「はい。戻ってきますよ。きっと、焦げない程度に、でも火が通るまで、ちゃんと待てる人ですから」
拓海は再びのれんをくぐった。二回目は、夏の濃い水の香りを纏わせて。
真城一献は、拓海の背中を見送ると、再び厨房へ戻った。今夜もまた、ひとつの酒肴が録された。
おまけレシピ

ズッキーニを5ミリほどに輪切りして、格子状に切れ込みを入れて塩胡椒し、キッチンタオルで包んで水分をとる。
薄切りの豚バラ肉に塩胡椒をして、ズッキーニに巻きつける。
ズッキーニを串に刺して、グリル台またはフライパンで弱火で、豚バラに焼き色がつくまで焼く。
材料紹介
一ノ蔵発泡清酒すず音: 野菜の串と、軽やかに爽やかに。
