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HubSpotパートナー14年で学んだ「顧客を向く」のが最も大事ということ

この記事は、株式会社パートナープロップさんが主催する「パートナーマーケティング note リレー」の企画に寄稿したものです。パートナービジネスに携わる各界のリーダーたちが、日替わりで知見を共有するこの企画にお声がけいただき、ありがとうございます。
僕は2012年からHubSpotのパートナーとして活動し、今年で14年目になります。この間、HubSpotというプロダクトの進化、日本市場の立ち上がり、パートナー制度の変遷、そして自分たち自身の成長と失敗を、すべて当事者として経験してきました。
この記事では、パートナービジネスに関わるすべての方に向けて、僕が14年間で学んだことを、ストーリー形式で、できるだけストレートにお伝えしたいと思います。


2012年 ─ 衝撃の出会い

HubSpotに初めて触れたのは2012年。当時は株式会社100ではなく、株式会社24-7というWEB制作会社を経営していました(後に東証グロース市場に上場しているラバブルマーケティンググループに譲渡しています)。
きっかけは、自社の案件獲得でした。WEBサイトのリニューアルを計画する中で、ブログで技術情報を公開して、それに興味のある方からお問い合わせをもらいたいと考えていました。その方法を調べる中で出会ったのが、HubSpotが提唱する「インバウンドマーケティング」という概念でした。そして、それを実現するためのツールとしてHubSpot自身が提供されていたのです。
当時のWEB解析といえば、Google Analyticsの前身であるUrchinなどが主流で、ページ単位のPV数やセッション数を見るのが一般的でした。しかし、HubSpotは違いました。「お問い合わせをした人が、どのページを見て、どんな行動を経て、お問い合わせに至ったのか」を一人ひとり追跡できる。今でこそ当たり前の機能ですが、2012年当時、この「一人ひとりの行動が見える」という体験は、衝撃そのものでした。
これは使ってみるしかない。
すぐに自社利用を決め、実際に使ってみると、その可能性に確信を持ちました。これは日本のお客様にも紹介したい。その想いから24-7でHubSpotパートナーとなり、WEB制作と合わせてインバウンドマーケティング支援の提供を始めました。


アジアトップパートナー、そして次のチャレンジへ

2016年、HubSpotの日本法人が設立されます。日本市場への本格参入が始まったタイミングです。それ以前の日本では、現地法人がなく、数社が販売代理店として活動しているだけの状況でした。
同年、24-7はアジアトップパートナーとなりました。日本でまだHubSpotを知る人が少ない時代に、自ら使い、自ら成果を出し、その知見を顧客に還元する。このサイクルを愚直に回し続けた結果でした。
しかし、2018年に24-7を完全譲渡し、僕は次のチャレンジに向かいます。
株式会社100を設立しました。
ここで意外に思われるかもしれませんが、最初に始めたのはHubSpotのビジネスではなく、コミュニティカフェの経営でした。
なぜコミュニティカフェなのか。HubSpotのエコシステムの中で、僕はユーザーコミュニティやパートナーコミュニティの持つ力を目の当たりにしてきました。オンラインで繋がった人たちが知見を共有し、助け合い、一緒に成長していく。その「コミュニティの力」に強く惹かれ、それをリアルな場で再現してみたいと思ったのです。これもまた、HubSpotが僕に与えた影響のひとつかもしれません。


パートナービジネスの再開 ─ HubSpotの進化に引き戻されて

2019年、株式会社100はHubSpotのパートナービジネスを本格的にスタートさせます。
コミュニティカフェを経営する中で、HubSpotは着実に進化を続けていました。かつてはマーケティングオートメーションツールとしての色が強かったHubSpotが、CRM、Sales Hub、Service Hubと機能を拡張し、企業のDX──特にマーケティングと営業のDX──を支える総合プラットフォームへと変貌していたのです。
その変化に伴い、僕のところに個別に支援の相談が増え始めました。マーケティングだけではなく、経営を支える仕組みを作るサポートをしたい。その想いが、事業化の原動力となりました。


エリートを追い、顧客を見失った日々

ここからが、僕がこの記事で最も伝えたい話です。
パートナービジネスを再開し、事業は順調に拡大していきました。しかし、いつしか会社の目標が「いかにHubSpotライセンスを販売し、パートナーエコシステムのランキングでトップに立つか」にすり替わっていったのです。
HubSpotのパートナーには「ティア」と呼ばれるランク制度があります。最上位がエリート。世界8,000社以上のパートナーの中で約1%しか到達できない、非常に厳しい基準です。
僕たちはエリートティアを目指すという目標設定をしました。20名だった体制を50名にまで一気に拡大し、DX支援市場の熱気に後押しされて、大胆な成長戦略を推し進めました。
エリートには到達しました。
しかし、達成しても会社の経営は良くならなかった。
それどころか、顧客を向かずに無理に受注するケースが出てきて、事故案件が増えた。教育体制が追いつかず、新しいメンバーの持つ可能性を十分に引き出せなかった。チーム間のコミュニケーションに綻びが生じ、大切に育ててきたカルチャーが浸透しなくなった。
原因はそれだけではありませんが、結果として大きな損失を抱える事態に陥りました。
振り返れば、背景にはHubSpotのパートナー制度自体の変化もありました。かつてのパートナー評価は、新規販売と顧客の継続支援が5:5の比率でした。ライセンスを販売するだけでなく、顧客が満足して使い続けてくれること、つまり1社1社の成長を支援することが評価される仕組みで、非常に納得感がありました。
しかし、世界的にパートナーが増え、HubSpot社の評価基準が新規販売に重点を置く形(5:1)に変更されました。パートナー事業にコミットしていた僕たちは、この変更に追従してしまった。本来の目的を見失い、エリートという最上位ティアを追うという「言行不一致」な状態が続いてしまったのです。


顧客中心主義への回帰

痛みを伴う経験を経て、僕たちは明確に意思決定しました。
顧客を向く。
エリートティアを目標にしない。お客様に成果を提供する有益なサービスと、唯一無二のユニークなカルチャーを作り上げる。これを経営方針の軸に据えました。
HubSpot社からの案件供給に頼るスタンスも辞めました。自社での案件作りと、顧客満足度を上げることにフォーカスする。
日本のHubSpotパートナーは300社を超えて増え続けていますが、正直に言えば、その多くはまだHubSpot社からのリード供給に依存しています。パートナービジネスを始めると、HubSpot社には必ず案件があるので、売上や件数を追いかけ、どうしても依存してしまう。簡単なことではないですが、僕たちは2〜3年前にその構造から抜け出す決断をしました。
その結果、国内では唯一と言っていいほど、自社で案件を作れるパートナーになりました。そして2025年、株式会社100は過去最高の売上と利益を達成し、V字回復を果たしました。


それぞれの役割を理解する

パートナービジネスにおいて、僕が最も大事だと考えていることがあります。
HubSpotは企業の成長を促進するプラットフォームとして販売されています。しかし、仕組み上、HubSpot社の営業はどうしてもライセンス販売に集中せざるを得ない構造になっています。一方で僕たちパートナーは、そのライセンスを使ってお客様の成果を出すことが仕事です。
これはどちらが良い悪いという話ではなく、役割の違いです。だからこそ、それぞれの役割を理解し、協調することが顧客のためになる。
HubSpotの日本法人の社員の多くはライセンス販売を担う営業です。コミュニケーションの中で、どうしてもライセンス販売がゴールになっていることも少なくありません。一方、パートナー担当のPDMと呼ばれる方々は、パートナーエコシステム全体の拡大を念頭に置いています。個社ごとの成長を支援してくれる方もいますが、エコシステム全体の拡大が目的であることに変わりはありません。
だからこそ、自社でどのような戦略を立て、成長していくかを自分たちで考える力が必要なのです。
パートナービジネスにおいて、HubSpot社にリード供給を期待するのは自然なことです。しかし、程よい関係性を保ちながら、常に顧客を向くこと。これが最も大事だと、14年の経験を通じて確信しています。


HubSpotパートナーの「3年周期」

興味深いことに、日本のHubSpotパートナーのトップの顔ぶれは、およそ3年で入れ替わります。
初期はインバウンドマーケティング支援が中心でした。その後、CRMやSales Hubが提供されると、営業とマーケティングの統合支援が求められるようになった。最近はカスタマーサービス領域が注目され、CRM導入に強い会社が台頭してきています。
そして今後は、AIを前提としたDX支援──僕たちはこれを「AX(AI Transformation)」と呼んでいますが──が中心になると考えています。
HubSpotは良いプロダクトと文化を持ち、成長し続けている。世の中の動きに合わせて新機能を提供し続けるので、パートナーは常に新たなビジネスの可能性や、顧客へのサービス向上を考えさせられる。パートナー制度も、HubSpotの成長に合わせて数年遅れる形でアップデートされていきます。
つまり、パートナーに求められる能力が常に変化し続ける。変化に対応できなければ、トップから脱落する。この「3年周期」は、プラットフォームパートナーの宿命とも言えるかもしれません。
海外に目を向けると、この変化への対応として、パートナー同士の統合が盛んに行われています。その背景には、HubSpotのクライアント層が中小企業だけでなく大手企業へと急拡大していることがあります。かつてCRMといえばSalesforceを使うのが定番でしたが、HubSpotへ乗り換える企業がここ数年で非常に増えてきています。大手クライアントへの対応力を上げるため、さまざまなリージョンでのHubSpot支援を展開するために、エージェンシーが統合によって拡大していく動きが活発化しているのです。
この流れは海外だけの話ではありません。日本でも同じ方向に動いています。HubSpotのクライアント層はエンタープライズへと確実に広がり、Salesforceからの乗り換え案件も増加しています。日本はまだパートナーになりたての企業も多く、この統合の動きは活発ではありませんが、今後、日本でもパートナーの統合という動きは確実に増えていくと見ています。


受託ビジネスの逆襲 ── AIがもたらす可能性

僕たちのようないわゆる「受託ビジネス」は、これまであまり日の目を浴びることがありませんでした。ビジネスモデルとしてスケールしない、と何度言われてきたかわかりません。
SaaS製品は僕も大好きで、日々の業務でもたくさんのSaaSを活用しています。しかし今、僕たちが取り組んでいるのは、受託ビジネスをAIでいかにスケールさせるか、というチャレンジです。
2005年に起業して20年。今が一番面白い時期だと感じています。
一人ひとりが顧客を向き、お客様にとって必要な存在となり、対価をいただく。そしてそれをスケールさせる。技術の進化によって、それが実現できる時代になりました。
HubSpotパートナーとしての歩みの中で、顧客を見失い、痛みを経験し、原点に立ち返り、そして今、AIの力でその信念をスケールさせようとしている。この14年間は、そのための準備期間だったのかもしれません。


パートナープログラムを作る方々へ

最後に、この記事の読者であるパートナーマーケティングに携わる方々に向けて、僕なりの視点を共有させてください。
SaaS企業がパートナープログラムを設計する際、自社のプロダクトが「基幹システム」として使われるものなのか、「ポイントソリューション」なのかで、プログラムの設計思想は大きく変わるべきだと考えています。
基幹システム型のプロダクトであれば、そのシステムを使って一緒にビジネス成長ができるパートナーが望ましい。パートナーにとって支援領域が大きく、ビジネスインパクトも大きいからです。HubSpotは、まさにこちらのタイプです。
ポイントソリューション型であれば、パートナーにとって業務効率化や顧客への支援価値を容易に付加できることが重要になります。
また、パートナー企業側で扱う部署が営業なのかソリューション提供部署なのかでも、望まれる商材は異なります。すべてを同じパートナープログラムに当てはめるのではなく、自社の商材に合わせた戦略を作ることが不可欠です。
そしてどちらのタイプであっても共通して大切なのは、お客様がプロダクトの価値を存分に認識し、使うことで喜ばれること。そして、製品の機能だけではなく、カルチャーやコミュニティ、哲学から、パートナーに「関わりたい」と思ってもらえるエコシステムであること。
HubSpotは、まさにそのようなエコシステムを持つ稀有なプラットフォームです。だからこそ僕は14年間、このエコシステムの中で歩み続けてきたのだと思います。


さいごに

パートナービジネスは、甘くはありません。
SaaSベンダーにリード供給を期待するのは自然なことだし、ティアを追いかけてしまうのも分かる。僕自身がまさにそうだったから。
でも、大変だけど、その依存から抜け出す覚悟がとっても大事です。
なぜなら、HubSpot社は仕組み上ライセンス販売に集中する構造になっていて、僕らはそのライセンスを使った成果を届けることが仕事だから。それぞれが自分の役割を全うし、協調してこそ、顧客のためになる。顧客のためになってこそ、結果は後からついてくる。
エリートティアを追いかけている間は手に入らなかったものが、顧客に向き合った瞬間に戻ってきた。この体験が、僕の14年間で得た最大の学びです。
20年の起業家人生の中で、今が一番面白い。
パートナービジネスに関わるすべての方にとって、この記事が少しでも何かのヒントになれば嬉しいです。


この記事は、株式会社パートナープロップ主催「パートナーマーケティング note リレー」2月20日掲載分として寄稿しました。
株式会社100(ハンドレッド)は、HubSpot認定パートナーとして、HubSpot×AI×Dataを軸に企業のDX支援を行っています。

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