朝、ふと、自分の足音が、聞こえた朝
# 朝、ふと、自分の足音が、聞こえた朝
朝、駅まで歩いている時に、ふと、自分の足音が、聞こえた朝がありました。
ふだん、朝の通勤路では、自分の足音なんて、まったく、意識しません。
頭の中は、その日の予定や、聞いているラジオの内容や、なにかしらで、いっぱいになっていて、足は、ただ、自動的に、動いているだけ、です。
その日、たまたま、いつも聞いているラジオを、忘れて家を出てしまいました。
イヤホンが、カバンの中に入っているのに、なぜか、その日は、つける気にならなかったんです。
無音のまま、駅まで歩き始めました。
最初の数十メートルは、頭の中で、いろんなことを考えていました。
でも、信号待ちで、ふと立ち止まった瞬間、自分の靴の、コツン、という足音が、最後にひとつ、耳に届きました。
信号が青に変わって、また歩き始めた時、その日は、自分の足音が、ずっと、耳に届いていました。
コツン、コツン、コツン。
リズムが、いつもより、すこしだけ、遅い気がしました。
意識して、ゆっくり歩いているわけでは、ありません。
でも、自分の足音を、ちゃんと聞きながら歩いていると、なんだか、心の中も、ゆっくりした、リズムに、なっていきました。
イヤホンが、もう必需品になってしまっている朝でも、たまには、無音のまま、歩いてみる。
自分の足音を、聞いてみる。
朝の景色が、ちょっとだけ、自分のものに、戻ってきます。
