長編小説[第6話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン
止まった時間
曇天の空。うるさく響くカラス達の声。
シャッターの閉められた店の数々、その街はまだ、当たり前のように寝静まっていた。
飲み屋街に面した廃墟ビルの屋上。ここは相変わらず荒れていた。柵はとうの昔に錆びつき、吹き溜まりは埃と砂とゴミが、当たり前のように溜まっている。
エアコンの室外機だったもの、ガスの装置だったものの残骸達の間を抜けると、鍵の掛けられた小屋のようなスペースの裏手にたどり着く。その壁に面した地面には、つい最近置かれたような、瑞々しい花束が立て掛けられていた。
百合の花束を握りしめた渚(なぎさ)は、小屋の裏手の壁にそっと、その花束を置こうとしていた。
花束を立て掛けた渚は、ふと隣にすでに置かれていた新しい花束を見やる。誰か先客がいたのだろうか? 彼女は少しだけ、怪訝そうな顔をした。
すぐに気をとり直した彼女は、花束の前にしゃがみ込み、静かに手を合わせた。
「彩芽(あやめ)、何もしてあげられなくて、ごめん・・・。」
さっきまでうるさく泣いていたカラス達の声が止む。辺り一面は、いつまでも、どんよりとした重い静寂に包み込まれていた。
彩芽という女
ザワザワした大衆居酒屋の店内は、元気よく働くスタッフさんと、酔っ払いながら気持ちよく喋るお客さん達に包まれて、活気に溢れていた。
奥まった広い座敷席。セミナーを終えたネクプロ青葉チームの面々は、ある者は焼き鳥を、ある者はビールを煽りながら、まるで檻から解き放たれた放牧牛達のようにくつろいでいた。
端の方の席に座っていた渚(なぎさ)は、隣に座っている星光(あかり)にビールを注ぎながら、目の前に座った泉(いずみ)と話をしていた。泉はネクプロ歴が長く、青葉支部が発足された時代から組織に関わっているらしい。
「ネクプロって穏やかでチームの結束がしっかりしてる印象ですけど、昔からずっとこんな感じだったんですか?」焼き鳥をつまんでいた渚が泉に問いかける。
「うん、今振り返ってみても、そんなに荒れてた時代は無かったと思うよ。
なんせリーダーがあの抜っけぬけの導(みち)だからね。荒れようがないと思う。」
泉はレモンサワーを片手に、少し呆れながら話していた。
「導さんがぬっけ抜けって、一体何をやらかされたんですか?」星光が興味深々の眼差しで泉に問う。
「聞きたい?」食い気味で話を続けようとする泉。
「やめろやめろ!余計な事はいいから。」泉の後ろから割って入ってきた導が、今にも話し出そうとする泉を制した。
場が笑いに包まれて、それからほんの少し、静寂が生まれた。
「唐突なんですが、昨年までこのチームでお世話になっていた、彩芽(あやめ)って子、ご存知ですか?」ビールを一口飲み込んだ渚が、泉と導に問いかけた。
驚いた2人は顔を見合わせる。少しの沈黙。口を開いたのは導だった。
「よく知ってるよ。素直で気立てがいい子でね・・・。」
「本当に。若すぎたと思う。」グラスの水面を眺めながら泉が話を続けた。
泉が明るく話し始める。
「手先が器用な子でね。ネクプロ青葉でフォーマルなパーティーをやった時だったかな、みんなのヘアメを率先してやってくれたんだけど、すごく綺麗な仕上がりだったんだ。そうだ、あの時私のドレス貸してあげたんだったっけ。」
「そうそう。僕のところに、泉さんから借りたんです!って言いながら見せびらかしにきてたんだよ。」続けて導が語る。
「懐かしいね・・・。」
そう言って2人は、物思いにふけっていた。
無表情で焼き鳥をつつく渚と、この空気をどう処理したらいいか悩む星光。ザワザワとした店内の騒ぎ声が、4人のしんみりした時間を上塗りしていった。
