未来からきた相方

2025年、とあるインタビューにて。

「武内を仕事のパートナーにすることは、高校の時から決めていました。」


さかのぼること、2009年、15歳。

高校に入学して間もない昼休み、今と全く変わらないシンプルな服装に、スライド式の携帯をガムテープでぐるぐる巻きにした“擬似iPhone”を片手に、藍ちゃんが現れた。

「一緒に昼メシ食おうぜ。」

記憶の中で、藍ちゃんとの最初の会話はこのときだったと思う。

放課後になればすぐ地元に帰っていた僕とは対照的に、休み時間にはいつも机のまわりに人が集まる人気者。そんな彼が、突然話しかけてきたもんだから、正直、かなり驚いた。

けれど、なんとなく同じ周波数を感じていたから、そこに特別な理由は必要じゃなかった。気がつけば毎日昼ご飯を一緒に食べるようになっていて、意気投合。常識よりも面白さを優先して動く藍ちゃんの姿は、いま振り返ると高校生の枠を軽々と超えていた。周りがテストや進路の話をしている最中でも、「伝説を残そう」と口にしながら、次々と新しいアイデアを淡々と語っていた。

まだ誰も見たことのない未来の話を、あたかも日常のことのように語る様子は、まるで僕をタイムマシンに乗せてくれるようだった。


2012年、18歳。

高校を卒業して、藍ちゃんとは別々の大学に進んだ。
それでも懲りずによく遊んでいた。

渋谷の鳥貴族、新宿バルト9の映画館、入間のアウトレット、どこへ行っても新しいものを見つけては「これ、流行るね」とか「もっとこうしたら良さそう」と藍ちゃんはモノに宿る時間の流れを読んでいた。

それからまもなく、僕は大学のプロダクトデザインの課題に取り組むことが増え、藍ちゃんと会う機会は少しずつ減っていった。

それでも作品をつくり続ける日々の中で、「自分の生み出した芸術を共有したい」という想いは減らず、毎回すぐに写真を撮っては、その熱が冷める間もなく送信。


その度、決まって返ってくる言葉があった。

「コンセプトは?」

ただの挨拶みたいに軽めのトーン。でもその一言で、僕の頭の中に詰め込んでいたコンセプトが一気に解凍されていった。

面白いのは、藍ちゃんはほとんど口を挟まないこと。僕の説明が途切れるたびに「続きは?」とだけ促す。解凍されたコンセプトが脳から溶け、僕の外へ流れていくような感覚を今でも覚えている。


2017年、23歳。

社会人一年目を終えたあたり。いつものように東京・恵比寿にある小さな喫茶店で藍ちゃんと過ごしていた。

そしてふと、藍ちゃんがつぶやいた。

いままでお互いがやってきたことを仕事に置き変えるだけでいい

その言葉が、不思議なくらい腑に落ち、そこから一気にブランドの話が加速した。そしてまもなくgoyemonが生まれた。

藍ちゃんは「これからの時代、ストーリー性のある商品がうけるから、コンセプトは任せた。」とはっきり役割分担を示した。僕は日本文化や工芸の背景、そしてgoyemonが目指すべき世界観をかき集めて、これから生まれるであろうプロダクトのコンセプトを編み上げた。

藍ちゃんは商品のロット数、物流コスト、発売時期を瞬間的に計算し、まるで時間を巻き戻すようにして、うまくいった未来を先取りする。
僕がその未来に至る理由を歴史やコンセプトで裏打ちし、二人の役割が噛み合った瞬間、プロダクトは世の中へ一直線に走り出した。


2018年、24歳。

雪駄とスニーカーを掛けわせた「unda-雲駄-」というプロダクトは、僕たち二人以外、誰も想像していなかった。

「2回目の生産ではピスネームの色味を少し変えよう。いずれundaをコレクションしてくれる人たちが、その色で製造年を判別できるようにね。」と、まだ生産すらしていないのに藍ちゃんは話す。

クラウドファンディングは数時間で目標を超え、わずか1週間で2000万円を超える支援金額に。初回分が即完売し、すぐ次の生産に取り掛かった。

藍ちゃんの話す、“タイムスリップ”のとおり、目の前の事が進んでいく。


2019年、25歳。

第二弾としてgoyemonが用意したのは、切子の繊細さと耐熱ガラスの機能性を掛け合わせたダブルウォールグラス「Fuwan-浮碗-」。

ある朝、藍ちゃんはデザイン案を持ってきて、こう言った。

「undaの延長線だけじゃ、goyemonは単なる“アパレルブランド”で終わる。goyemonのコンセプト『日本の伝統×最新技術』を掲げるなら、フットウェアとまったく別の軸に商品を作ろう。」

ターゲットはundaと真逆の層。しかもサンダルが夏場にピークを迎えるのとは対照的に、春夏秋冬いつでもギフトに選べるキッチンウェアを狙った。藍ちゃんは、まるで“undaだけに依存して失速するgoyemonの未来”をタイムスリップして見届けてきたかのように、ブランドの進路を静かに修正してみせた。


2024年、30歳。

設立から6年目、この年にクラウドファンディング累計支援額は1億円を超え、コラボや取扱実績は国内外で30社以上に増えた。それでも藍ちゃんは「まだまだ通過点。もっと超えていかないと」と言い、彼が辿ってきた未来を超えていくかのように、道筋を立てる。

高校の教室で「伝説を残そう」と言われてから15年。未来を先取るアイデアに、共感を呼ぶコンセプトを重ね続ける、その高校時代から変わらないシンプルな習慣こそが、未来のgoyemonの再現性を支えている。

思い返せば、「コンセプトは?」と藍ちゃんが問い続けたのは、僕が共感を生む切り口と言葉を編むのが得意だと未来で見てきたのだろう。


2025年、現在。

あの問いが伏線となり、いま僕はgoyemon Inc.のCOO兼コンセプターとして、こうしてnoteに物語を綴っている。

そしてiPhoneを片手に藍ちゃんは言う。

「一緒に昼メシ食おうぜ。」



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