色にまつわる色々
1. 例によって長いプロローグ
テレビではNHKニュース、BSのドキュメンタリー(新日本風土記、海外系)、及びEテレの語学番組を観ており、ドラマで観ているのは面白いときのBSの大河ドラマ(最近では「鎌倉殿の13人」「光る君へ」「蔦重栄華の夢」)、その後続の面白い時の時代劇(最近では「雲霧仁左衛門」「商い世傳 金と銀」)である。
「商い世傳」は『みをつくし料理帖』で有名になった高田郁さんの同名作品をドラマ化したもの。『みをつくし料理帖』は本を読んだのでTVドラマ化はは観ていない。『商い世傳』はテレビを観てから本を現在追いかけて読んでいる。テレビで主演している小柴風花さんは本の主人公に正にぴったりだと納得。ドラマで着ている和服も風花さんと共に美しい。

この本は江戸時代の(大阪・江戸の)色々な文化や慣習が描かれていて中々勉強になる。特に商慣習はそうである。一方、舞台は呉服屋・太物屋なので多くの織の種類、着物や帯の多様な色の種類が出てくる。織は兎も角、色は着物に詳しい方なら情景が目に浮かぶのだろうが門外感には想像がつかないものが少なくない。という訳で、今回は呉服に特に関係なく色について雑多に述べる。色は沢山あるので、代表的なものを対象とする。染料については19世紀に発明された合成染料は対象外。
2.あお・・あおと青と藍
(1)多様な色だった古の「あお」
古の人は馬のことを「あお」と呼んでいたことはよく知られていると思う。ギャンブルに全く無縁であるものの競走馬に詳しいため、自身は青毛のことかと嘗て思っていた。
<サラブレッドの毛色・・明るい方から>
以下の4つが基本:
○葦毛・・若いは時白と黒の斑のようだが年を経て白馬になる
○栗毛・・黄土色、明るい栗の色
○鹿毛・・茶色~焦げ茶色(鹿の色がそうなのか疑問があるが・・)
○青毛・・黒光りする黒。光線の加減で少し青みがかることも
これに中間的な
○青鹿毛
○黒鹿毛
がある。2026年の桜花賞、皐月賞の出走馬をみるとこれら6色の毛色の馬が全て出ていた。中央競馬会ではこの六色の外に、稀少な栃栗毛と白毛を入れ8色としている。
何れにしても青い馬などいるはずもなく、この理由は次のように説明されることが多い。今流行のAIに聞いても似たような回答が返ってくるだろう。
昔の日本ではあか・くろ・しろ・あおの4色の区別しかなかった。下に一字「い」をつけるとあかい・くろい・しろい・あおいという形容詞になる色はこれだけ。
あか:明るい色で、赤だけでなく黄色やオレンジも含む
くろ:濃い色で、黒だけでなく濃紫、濃茶、濃グレーなども含む
しろ:「白」と「素」。白はホワイト、素はオフホワイト
あお:あか・くろ・しろ以外の色
中国の五行思想は日本の古代国家に入っていたので、ひらがなと色と漢字の色をどう区別していたのかよく分らない。因みに、古事記に出てくる因幡の白ウサギは「素兎」なのでオフホワイトなのだろう。

寺院の五色幕は五行思想(・道教)の影響を受けた中国仏教由来とされる。見ればわかるよう青ではなく緑、黒ではなく紫となっていることが多い。

(2)長い間知らなかった青丹の色・・やはり曖昧な青
小学生の時に習った、また、現在の小学生でも恐らく知っているであろう「青丹よし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」(万葉集)の青丹は長い間、青い瓦(甍)のことだったと思っていた(青丹=青い土)。しかし、説明ではくすんだ黄緑色とされている。残念ながら奈良時代の瓦/甍が当時の色のままで残っていないと思われるので実際にどうだったか知るすべがない。神社や寺院の屋根の緑青色に近いのだろうか。何れにせよ青丹の色は緑と言った方が近いことなる。緑の信号を青信号というのも似たようなものか。
<参考:青丹・・以下の二つも色味が違う>
(3)「出藍の誉れ」の「青」とはなんだろうか
現在、「出藍の誉れ」という言葉は殆ど使われていないはず。しかし、意味は殆どの人が知っていると思う。
原文:青取之於藍而青於藍
読み下し:青はこれを藍より取りて藍より青し
出典は「性悪説」で知られる荀子(BC3-4世紀の人)の書
意味はいいとして、この青はどのような青だと古代の日本人が思っていたのであろうか。この場合の藍は、植物・・因みに、藍ができる植物は世界中に多々あり。日本は蓼藍・・の葉のことではなく、染液として加工したものであろう。この液体は通常藍色よりかなり黒っぽく見える。藍:インディゴの染液色、青:染め上がった藍色、と考えるのが妥当に思える。

http://www.japanblue-ai.jp/post_column/317/
<補足>
藍染めは生染めと建染めがある(説明は省略する)。通常=綿を染める場合は建染めで、葉を乾燥させた(=すくもを作る)のち、各種の技を使い染液を作る。綿は絹と違い染めるのが難しく色落ちもしやすい。その一方、藍は木綿と最も合性がいい。日本人一般が木綿の服=太物を着るようになったのは江戸時代からなので、藍染めは江戸期の象徴でもある。
ところで、大抵の「出藍の誉れ」の説明では「藍草から作る染料で染めたものは藍草より青い」とされている。藍草は自体は緑色だし、水やお湯につけても青くならない(葉の中にインディゴの前駆体を持っている段階)ので、おかしな説明という気がする。藍を知らない日本人学者の解釈だったのか?

https://iroai.jp/tadeai/
<補足>
藍を作ることができる植物(含藍植物という)の葉を加工(現代でいう工業化工ではない)することにより初めて、藍色に染め上げることができる染液のベースとなるインディゴ(有機化合物)ができる。名前で想像がつくようインド藍が語源である。高校化学でインディゴ・ブル-と並びプルシャン・ブルーを習う。北斎などの浮世絵にある藍色はベロ藍と言われプルシャン・ブルーのことである。ベロ藍はベルリンから来た藍という意味、プルシャンは「プロイセン/プロシアの」という意味。ベロ藍は偶然に出来たもので、興味のある方は誕生譚を検索されたし。

含藍植物は多数あると書いたよう、藍染めは古代より世界中で同時多発的に発生しているので、どこかが藍染めルーツということはない。旧大陸の古代文明と無縁とされるの新大陸、南アメリカのペルーの古代文明跡から、紀元前約4,200年の藍染めが見つかっていることからも明らかである。
3.あかと赤・・明るいのがあか
現在の日本で赤と言えば、多くの人が連想する色に大きな違いはないと思われる。日の丸の赤を思い起こせばよいと思う。しかし、古の「あか」は赤を含む多様な色を表していたのは間違い無い。
九州に有名な「阿蘇のあか牛」or「肥後のあか牛」がいる。また、万葉集には赤駒という用語がよく出る(例:「赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ」)。これらは馬でいう栗毛~褐色に近いものである。あか牛は正確には褐毛和種という。赤駒は間違いなく栗毛であろう。即ち、「あか」は明るい色全般を表すことがあるということだ。外に赤土も然り。紹介した万葉集の歌に出てくる横山とは、自宅の近くの防人も通った多摩の古道で「よこやまの道」という。

https://www.umanokura.com/%E3%81%82%E3%81%8B%E7%89%9B%E3%81%A8%E3%81%AF-what-aka-ushi/
もう一つ例をあげれば朱色である。漆器は多様な塗技法・加飾技法があれどメインの色は朱と黒であろう。朱は赤と呼ぶこともある。古より「赤は邪を払う」と言われてきたが、実際使われるのは朱が多いのは神社の朱塗りなどをみてもよく分ると思う。朱も「あか」ということができる。因みに、日本最古の縄文時代の漆器遺物も朱色である。本当の赤だとビビッド過ぎて穢れに通じると推察している。「朱に染まれば赤くなる」という中国の諺/箴言がある。趣旨はわかるが色としてどういうことかよく分らない。
日本での嘗ての赤の染料と言えば紅花であろう。20代の頃、仙山線で仙台→山寺(立石寺)→山形にいった際、紅花が同県の特産であることを知った。藍同様、紅花も多様の染色がある。えんじ色(臙脂色)の臙脂の語源は諸説あり確定していないものの中国から渡ってきた紅花(中国では紅藍花)由来であると思われている。紅花の原産地はエジプト~中東あたり。サラダ油のサフラワーでお馴染みのよう英語ではSafflowerで黄色の花という意味(Safはアラビア語由来)。紅花は「くれない」と読むことがある。
「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは」 在原業平
からくれなゐ=韓紅花

https://maitokomuro.com/naturaldye/safflower-dye/
4.よく使われていた黄色・・黄檗
『あきない世傳 金と銀』を読むまで、黄檗(きはだ)色というものを知らなかった。一方、黄檗という漢字自体は以前から知っていた。日本禅宗3派の曹洞宗・臨済宗・黄檗宗とされる黄檗(おうばく)宗のそれである。黄檗宗はインゲン豆の語源としても知られる中国から日本に来た隠元禅師が開祖である。
何となく黄色い僧衣を着た集団だからと思っていたが、そうではなく、元を辿れば中国の黄檗山に由来の宗派であることを知った。黄檗(キハダ)とはミカン科の植物で樹皮のコルク質をとると黄色い肌があり、染料として使われた。延喜式によれば緑色は藍と黄蘗の色を重ねて出すことなっていたとのこと。染料だけではくなく薬として古代より使われ(薬は黄柏(オウバク)という)、江戸期に陀羅尼助という薬が万能薬として流行した模様。

https://www.543life.com/content/nipponcolor/post20240711.html?srsltid=AfmBOooT7Eo660KaT6qNtzwZ3OMlxxAmaSmhEAyeLvoqyBF8cjztKa6f
延喜式に黄色の染料として黄蘗以外に梔(クチナシ)、櫨(ハゼ)、刈安が出てくる。梔は今も食品の色付けに使われる。櫨をつかった黄櫨染は現在でも天皇の袍色である。刈安は『あきない世傳』を読んで初めて存在を知った次第である。色が黄色いからキハダ(キハダマグロ)という名前がついた魚は黄蘗と関係がなさそうだ。

5.雑学+終わりに
(1)ブラジルの国名と蘇芳
着物(和服)の色によく蘇芳が出てくる『あきない世傳』でも然りである。この蘇芳は赤く染まる染料の一つとして欧州で大変重宝されていた。蘇芳はインド原産とされインドと東南アジアの熱帯地方でしか成育しないので遠方から調達する必要があった。その植物=樹木の名をポルトガル・スペインではパウ・ブラジル=pau-brasilと読んだ。pau が「木」、brasil が「炭火・残り火のような赤」を意味する。
大航海時代になり、ポルトガル人ペドロ・アルヴァレス・カブラルがインドに行くつもりが南米に漂着した際、パウ・ブラジルと同じ染料ができる樹木が沢山茂っているのを発見したことから、その土地の名をBrasilと名付けたのがブラジルの国名の由来である。世界史の教科書にはカルブルがブラジルの「発見者」と書いてある。ブラジルの木は、今はブラジルウッドという。この木は弦楽器楽器の弓材として非常に貴重である(弓材として使う場合
フェルナンブコ、ペルナンブコと呼ぶ)。蘇芳と同じ豆科であるが近縁種。日本では古代より(インド→)中国経由で蘇芳が入っていた。

(2)白と黒
相撲の勝敗、碁石が白と黒であるのは陰陽道、五行思想か来ているという話がある。オセロが白黒なのは碁石から来ている。ルーツはさておき現在の
オセロは日本人が作ったもので登録商標がある。但し、嘗ての中国では碁石
は黒と白でないものがあったようだ。

白と黒と言えば、中国・韓国(朝鮮)・日本では、葬儀の服は白か素=オフ
ホワイトだったが、現在の日本では黒が標準である。こうなった経緯は色々あるようだ。何れにせよ黒が定着したのはそう遠い昔ではない(明治以降で戦後以降?)。中国や韓国は今でも白のはずだ。
会計で黒字と赤字がある。英語では文字どおりin blackとin redながら日本では黒字は数字の前に△、赤字は▲が通常使われる。
(3)終わりに
以下はクレヨン/クレパスと水彩絵具共通のJIS標準規格の色彩である。2で書いたよう青と緑が最も色幅が広い、多様な色があると思われる方が多いと思う。この基準で言えば、青とはコバルトブルーのように思える一方、色の三原色の青はシアンであるので少しややこしい。藍色はインディゴ・ブルーではなくプルシャ・ンブル-なので同様。
JIS規格のクレヨン・パスの色見本@夏貸文庫文房具
【参考】
1. 光の三原色
RGBと言う用語が周知されているようRed、Green、Blueである。人の目の視覚細胞がこの3色の光の波長に強くするからである、イヌやネコなど他の哺乳類は2色識別が普通。
色を混ぜるとか明るい色になるので加色混色ともいう。全部を混ぜると白になる。太陽光が白色光と言われる由縁である。

2. 色の三原色
青・赤・黄色ではなくCyan、Magenta、Yellowである。色を混ぜる暗くなるので減色混色といい全部混ぜると黒になる。プリンターのインク液をみれば分るよう、これに黒=blacKを加えたCMYKという用語を通常使う。黒を加えるのは、色の三原色で綺麗な黒を作るのは難しく、また、インクの節約のためである。

光の3原色と色の3原色は「補色」を介して繋がっている。今回はその説明は省略する。
