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1人TOUR DE EURO97 その11 エスプレッソの似合う女

1997年の夏。
24歳の僕は、たった一人でヨーロッパを90日間かけて一周する旅に出た。

旅の名前は「一人ツール・ド・ユーロ」

フランスには「ツール・ド・フランス」という有名な自転車レースがあり、それにちなんで、人生のレースという意味を込めて名づけました。もちろん僕の旅はレースではない。誰かと競うわけでもないけれど過酷さだけは負けていなかった。

会社に人間関係に疲弊した3年間を過ごし。僕はもう死にたいでも死ぬ勇気はない。最後にせめて世界を見てみたい。そう思って会社を辞めて全財産をバックパッカーに詰め込んで日本を出ました。

たった90日間の旅がその後の人生を確実に変えました。
この旅で、僕はたくさん迷って、たくさん考えることになります。
「自分の人生って」
「自分は何を求めているのか」
「なぜ、こんなにも遠くまで来たのか」

今になって思う。あの頃の自分に伝えたい言葉がある。

世界は、広いようで意外と狭い。
これは、24歳の僕が見た世界の記録。

旅のルートを知りたい方はこちらです。

11)1997年7月25日-リスボン(ポルトガル)

朝9時、ゆっくりと起きてチェックアウト。
次の目的地はスペインのコルドバだ。サンタ・アポローニャ駅に向かい、コルドバ行きのチケットを買おうとしたが、直通はなく、結局マドリッド経由で行くことに。せっかく西の果てまで来たのに、また同じルートを戻るのはなんだかもったいない気分だった。

出発まで時間があるので、駅のコインロッカーに荷物を預けようとした。ところが450エスクードもして高い上に、手持ちは440エスクードしかない。おまけに使い方も分からず途方に暮れていると、隣にいたおじさんが助けてくれた。使い方を教えてくれ、足りない10エスクードまで出してくれたのだ。

ありがとう、見知らぬおじさん。おかげで身軽になれた。

荷物を預けた後は、駅構内のバーで休憩することにした。ヨーロッパを旅してからというもの、駅で過ごす時間が増えた気がする。

新聞を読みふける老人、1日中座っている人、そしてカウンターでエスプレッソを飲む人々。駅は単なる通過点ではなく、生活の一部なのだと感じる。

僕も真似をしてエスプレッソを頼んだ。
日本では飲んだこともなかったが、これが意外に美味しい。苦くて量も少ないのに、クセになる。

今ではエスプレッソを飲む旅人になってしまった。
少し時間があれば、1杯のエスプレッソ。
これがヨーロッパらしい習慣だ。

日本なら駅のホームで缶コーヒーを飲むような感覚だろう。

ふと顔を上げると、若いブロンドの女性が向かいに座った。
彼女もエスプレッソを頼み、分厚い本を取り出して読み始める。時々ノートに何かを書き込んでいる。知的で、落ち着いていて、エスプレッソがよく似合う。僕はつい見とれてしまった。目が合っては慌ててそらす、そんなことを何度か繰り返す。

彼女はスペイン人だろうか、ポルトガル人だろうか。
旅の途中なのか、仕事なのか。どんな人生を歩んでいるのだろう。

見知らぬ異国のカフェで、そんな想像をしてしまう。
――どんなに離れた場所でも、みんな懸命に生きている。

そう思うと、自分も頑張らなきゃと不思議に背中を押された。

リスボンの街はどこかゆったりしている。
パンの香ばしい匂いが風に乗り、カモメの鳴き声が響く。

ワインを片手に坂道を登り、途中で立ち止まって本を開く。
時間を忘れて過ごす、そんな暮らしがこの街にはよく似合う。

夜行列車は22時発。
まだ時間があるので、ロッシオ広場で昼食をとり、丘の上のサン・ジョルジュ城へ向かった。
ここからは街と海が一望できる。ベンチに座って本を読んでいると、いつの間にか眠ってしまっていた。

夕焼けが見たかったが、パリで味わった「陽の長さ」を思い出して諦めることにした。オレンジ色の屋根と西陽の光。きっと美しかっただろう。

公園で長く過ごした後、夜8時に駅へ戻る。
列車の表示は出ておらず、ホームも違う。アナウンスは聞き取れず、不安が募る。出発予定の10時を過ぎても列車は来ない。
ようやく10分遅れで別ホームに入ってきたときは、心底ホッとした。

周りの人は誰も焦っていない。
「少しの遅れなんて気にしない」
これがこの国の流儀なのだろう。
焦る自分と、動じない人々。その差が少し羨ましくもあった。

夜のリスボンをゆっくりと列車が離れていく。
ポルトガルという国は、どこか雑で、どこか優しい。華やかではないが、懐かしい。ここが“ヨーロッパの果て”なのだと思うと、胸の奥に静かな感慨が残った。

海の向こうには新大陸。かつてコロンブスもこの川を下って旅立ったのだろう。

フランスのような速さはここにはない。
誰も急がない。仕事も、生活も、人生さえも。
ワインをゆっくり注ぎ、ゆっくり回し、ゆっくり味わう。
彼らは、時間を楽しむ達人だ。

寝台ベッドは6000エスクード。
クーラー付き、洗面台付きで快適そのもの。
ぐっすり眠れた。

さて、スペイン再入国。今度は南へ向かう。


この旅の教訓

  1. たまには公園で本を読みながら昼寝をしよう。

  2. 列車が違うホームに来ても慌てるな。

  3. 休むことと、サボることは違う。

次回は、その11 情熱と灼熱のスペインの話です。

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けんいち【kindle作家】 娘が留学をすることになり、何か僕も父として背中を見せて、一人でもがんばって負けないように生きていけるように挑戦を始めました。娘との思い出もここに沢山残そうと思い記事を書いています。少しでも応援してもらえたらウレシイです。いただいたチップは活動費に使わせていただきます。