「自走」する組織をつくるには?社員76名の工務店代表が伝えたいブランドスローガンの生かし方
企業理念、社訓、ビジョン、ブランドスローガン。多くの企業が、目指す姿を社内外に向けて言葉にしている。
しかし、全社員がそれに基づいて思考・行動し、企業成長を生む状態をつくるのは簡単ではない。理念はいつの間にか形骸化し、日々の業務において思い出す機会すらないというケースも珍しくないだろう。
僕が代表を務める東北の工務店、株式会社あいホームでは、2022年にブランドスローガン「最高のホームをつくろう。」が誕生。期間が経った今でもスローガンは鮮度を失うことなく、それを軸に社員一人ひとりが自走できる状態となった。今では、僕が細かく指示をしなくても社員から「あいホームらしい」企画がどんどん生まれ、実行されている。
2024年に実施した企画をベースに、成功事例とその背景にある考えをシェアしたい。
はじめに:ブランドスローガンは何のためのものか?
本題に入る前に伝えたいのは、ブランドスローガンや企業理念、社訓と呼ばれるものは、社員をコントロールするための道具ではないということだ。
社長や幹部メンバーだけでブランドスローガンを決めて、それを他の社員に「浸透させる」というやり方は少なくとも中小企業では厳しいだろう。
僕たちのブランドスローガン「最高のホームをつくろう。」は、2022年、社員全員で話し合って決めたものだ。だから、スローガンを「浸透させる」というよりは、みんながやりたくて決めたことを全員で実践に移しているという感覚に近い。
社員をコントロールするのではなく、どうしたら社員一人ひとりが動きやすくなるか、力を発揮できるかという視点で考えると結果的にブランドスローガンは浸透するだろう。
インナーブランディングの土台は「学び合える関係性」
ブランドスローガンを軸に社員が自走する状態をつくるには、意見を言っても否定されないという安心感が重要だ。
フラットに意見交換をし合える関係性をつくるため、あいホームでは「カレーの会」や運動会などの社内イベントを実施している。
いやいや、それならうちの会社でも飲み会をやっている、という声が聞こえてきそうだが、我が社のイベントは「仲良くなること」を目的とした飲み会とは少し趣旨が異なり、その本質は「学びの共有」にある。
例えば「カレーの会」では、複数人のメンバーで一緒にカレーを料理し、一緒に会場をセッティングし、一緒に企画した余興を披露する。誰か一人に幹事を任せたことは一度もない。
一緒にイベントコンテンツをつくる過程で、立場を越えて「学び」を共有してほしいという思いがあるからだ。カレーの味付けや野菜の切り方について、全員が全員詳しいわけではない。わかる人や得意な人がノウハウをシェアすることで、メンバー間で学びが生まれる。
そこに、業務上の立場は関係ない。仕事だと、どうしても先輩が後輩に教えるという構図が生まれがちだが、カレー作りに関する経験値や知識量は社歴に依存しない。
業務外で上下関係なく学び合うことが、結果的に業務上でのフラットな意見交換につながるのではないだろうか。
社長の指示ゼロで「らしい」企画が次々に誕生
ここからは、具体的に意思決定のシーンでブランドスローガンが役立った事例を紹介する。
事例①:水族館前店のリブランディング
2024年11月8日に、水族館前店がリニューアルオープンした。その約2か月前、水族館前店のメンバーから突然一通のLINEが届いた。
ショールームの正面玄関を改装したい、と。
これまで正面玄関の壁には、あいホーム社員の顔写真が並んでいた。それを一新し、建築端材を使った温かみのあるデザインにしたいというのだ。

ひと目見た瞬間、どの店舗よりも「あいホームらしい」と感じた。そのデザインをプロのデザイナーやアートディレクターではなく、店舗のメンバーが生み出したのだから驚きだ。
リニューアルオープン後に店舗を訪れたお客様も口々に「あいホームらしい」と言い、心が動いている様子だった。
このアイデアは水族館前店のリニューアルだけにとどまらず、本社の玄関も同じように刷新しようという流れにまで発展した。これは、ブランドスローガンを通じて水族館前店のメンバーと本社メンバーの間で「あいホームらしさ」が共有されていたからにほかならない。

あいホームらしく生まれ変わったのは、正面玄関だけではない。ショールーム=コミュニケーションスペースと位置付けた店舗メンバーは、建材の展示をやめ、建材の陰に隠れていたキッズスペースを部屋の中心に据えた。このレイアウトなら、お子さん連れのお客様は目の届く場所で我が子を見守りながら安心して会話に集中できる。
これらは全て店舗メンバーが考えたアイデアで、僕は一切指示を出していない。まさにブランディングの効果を感じた出来事だった。
事例②:愛犬家向けの商品ブランディング
当社では、住宅の性能にこだわっている一方で、性能だけでは家は売れないという考えから「ハード(住宅)からソフト(暮らし)」へと提案のスタイルを切り替えた。
その一環として、仙台若林店では愛犬家向けに「ワンちゃんとの暮らし」を積極的に提案している。『ペットマガジンARCHE!(アルシュ)』とコラボレーションし、裏表紙に1年間あいホームの広告を掲載したことに加え、ペット撮影会や座談会を通じて約200人の愛犬家と出会うことができた。
そのうち、あいホームの住宅を建てたお客様は1人で、定量面での大きな販促効果があったかというとそうではない。しかし、住宅の購入を検討していない、いわゆる”潜在顧客”に出会えたと考えたらどうだろう。
もちろん、お互いに”潜在顧客”という意識はなく純粋に交流を楽しむ関係性だが、結果的に愛犬家の間で当社の名前が挙がり、口コミで広まっていけば、将来的に効果が出ることは大いに期待できる。
実際に、その兆しは年明けのイベントでも感じることができた。1月12日、仙台若林店で「6周年感謝祭」を開催した。
通常、週末に訪れる愛犬家は1〜2組だが、その日は約40組が来場してくれた。そのうち当社の住宅を建てたお客様が3組、住宅の購入を検討しているお客様が2組いて、着実に効果が見え始めている。

実は、大盛況に終わった「6周年感謝祭」についても、僕はほとんど指示を出していない。僕が「6周年に絡めて何か企画したら面白いね」とLINEを一通送ったところ、仙台若林店のメンバーがイベントの企画から集客、その後の社内展開までを全て主体的に行った。
企画内容にも「あいホームらしさ」がつまっている。その一例が、地域の飲食店とのコラボレーションだ。
ブランドスローガン「最高のホームをつくろう。」の「ホーム」には3つの意味が込められている。「住宅」「ホームタウン」「アットホーム」だ。
僕たちは東北地域を最高のホームタウン=ふるさとにすることを目指しており、その一環として地元企業を応援したいという思いで積極的にコラボレーションを行っている。
「6周年感謝祭」ではキッチンカーを呼び、参加者は地元の飲食店が提供する料理やコーヒー、おやつをワンちゃんと一緒に楽しんだ。
僕が介在しなくても、店舗メンバーが主体的に地域と連携し、輪を広げていっている。こうした動きが起こっているのは仙台若林店に限らない。
事例③:地域コミュニティ施設を利用した勉強会
僕は、昨年から地域の「食」に関わる人と積極的にコラボレーションしている。その拠点が、地域のビルオーナーが運営する「KAMOSUBA」だ。
地域の「食」を応援したいという思いでイベントを企画し、住宅の世界にこもっていては出会えなかった多くの人と交流を重ねている。
次第に「食」を通じたコミュニケーションの価値が社内にも浸透していき、昨年末には営業本部長を中心に店長と取引先を交えた勉強会が社長不在のなか行われた。勉強会の後には「KAMOSUBA」のキッチンを使って参加者自ら料理をし、食事を楽しんだ。


このように、各々が「ブランドスローガン」を軸に企画を立ち上げ、企業成長につながる種を育てている。
「自走する組織」で社長がやるべき2つのこと
社員一人ひとりが「最高のホームをつくろう。」の実現に向けて主体的に走り続けるなかで、社長がやるべきことは何だろうか。
それは、きっかけづくりと軌道修正だ。仙台若林店の「6周年感謝祭」の例でいうと、僕は「何かやったらいいのでは」とは伝えたが「何をやったらいいか」までは何一つ指示をしていない。ブランドスローガンが機能している組織では、少しのきっかけさえつくればメンバーは自走できるのだ。
ただし、ときには進む方向が横道に逸れることもある。地域住民との交流の機会が増えれば増えるほど、メンバーはさまざまな声を聞くことになる。その分、迷いが生じることがあってもおかしくはない。
そういうときには「やろうとしていることは間違ってはいないけれど、〇〇という方向性で進めた方が『あいホームらしい』」という表現で軌道修正していく。社長がブランドマネージャーのような役割を担うイメージだ。
そのために大切なのは、社長自身が誰よりもブランドを体現すること。これは、僕が5冊も集めるほどの愛読書、ジェームズ・ワット著『ビジネス・フォー・パンクス』から教わった考えだ。
この本について書き始めると長くなるので、またの機会に紹介したい。
最後に:自走する組織の次なる挑戦は「海外」
ブランドスローガンをきっかけに僕たちあいホームはより強い組織へと生まれ変わった。しかし、ここで満足して終わるはずはない。
最後に、2025年から僕たちが始める新たな挑戦について触れておきたい。
それは、インバウンドをメインターゲットとした離島での宿泊事業だ。
一見、やることはガラリと変わるようだが、僕たちが向かう方向は変わらない。むしろ「最高のホームタウン」を目指すうえで、ど真ん中のプロジェクトといっても過言ではない。
地域を発展させるには、地域の外にも目を向ける必要がある。大好きな地元に世界中から人を呼び、地元の魅力を届けたい。その魅力の中には、もちろん「食」も含まれる。
宿泊施設は、地元の人に利用してもらうことも視野に入れている。住宅の購入を考えていない地元住民の間でも、離島での思い出を通してあいホームの存在が広まったら嬉しい。
仮に僕が一から十まで指示をする経営スタイルだったら、このような挑戦に踏み出せただろうか。社員が自走できる土台が固まったからこそ挑めることなのではないだろうか。
企業理念が浸透しない。ブランドスローガンなんて本当は無意味なのではないか。
この記事が、ブランドに悩みを抱えている経営者にとって現状を変えるきっかけになったら嬉しい。
編集/三代知香
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