「ひのきとひなげし」と聖ジョバンニの日
6月最初のおはなしは、「ひのきとひなげし」をとり上げようと決めていました。
この作品は、1921年すなわち大正10年ごろに書き始められたと考えられています。
1921年と言えば、宮澤賢治が家出をして上京し、国柱会を訪ねて高知尾智耀に「法華文学の執筆」を勧められ、菊坂町の下宿で猛然と童話執筆にとり組んだとされる年です。
当然のように、当初の内容は仏教色の濃いものになっていました。
ところが賢治は、死の数か月前にこの童話を書き直します。
具体的にはあとで述べますが、仏教色はとり払われ、「聖ジョバンニ」という言葉が登場しているのです。
「ジョバンニ」と言えば、言わずと知れた「銀河鉄道の夜」の主人公の名前です。
「銀河鉄道の夜」もまた、亡くなるまで推敲が行われたと推定されている作品です。
亡くなる前の賢治の心に、「ジョバンニ」という言葉が消し難く刻まれていたことは確かでしょう。
賢治の命日は9月21日です。
したがって「ひのきとひなげし」の書き直しを思案していたのは、ちょうどいまごろのことと思われます。
わたしが宮澤賢治の作品を読み解くひとつの動機は、賢治が執筆の際に何を考えてこのような表現を選んだのか、同じ岩手に生まれ育ち、自然を見つめながら言葉を紡いでいる者として、できるだけ理解したいという思いがあります。
おそらくは本人しか分かり得ないことなのでしょうが、それでも、その心の一端に触れられたときは、大きな喜びを感じます。
それが、6月に「ひのきとひなげし」を読む、最大の理由です。

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