勝ちに不思議の勝ちあり - 2025 F1シンガポールGPレビュー
今回はやはりこの話題から始めないわけにはいかないでしょう。はい、マクラーレンのチームメイトにしてドライバーズ選手権争いのライバル、ノリスとピアストリの間でオープニングラップに起きた「事件」です。
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まず最初に、これだけは申し上げておきます。この件では、「チームが表彰台に上がったとき、その中にピアストリがいなかった」とか、「ザック・ブラウンが無線でチームタイトルの話をしていたのに、途中で無線の接続を外した」といった記事や動画が、ネットメディアを中心に上がっています。
これらの記事では、いずれも観察された事象をピアストリの怒りの表現としているのですが、マクラーレンはそうした解釈を否定するコメントを出しています。
表彰台の件に関しては、ピアストリはドライバーに義務付けられたメディア対応の最中だったそうです。また、無線については、ブラウンが話し始めたときには、彼はすでにクルマの電源を落としていて、そもそも最初からブラウンの声は耳に届いていなかったとのこと。どちらも無理のある言い訳とは思えません。
この件に食いついて、「いよいよ内戦勃発か!」といった論調で、アクセス数を稼ごうとしているメディアが数多く見受けられます。あくまで個人的意見ですが、そういう類いのメディアは、あまり相手にしないのが吉かと思います。
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1)いったい何が起きたのか:ジョリオン・パーマーが解説している次のF1公式動画をご覧ください。音声は英語ですが、前半部分でノリス、ピアストリ、そして背後にいたルクレールのオンボード映像をまとめて見られますので、文字で説明するよりずっとわかりやすいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=nrXx6hRoEI8
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2)ピアストリの視点:彼はターン1でアウトからマックスに並びかけようとしましたが届かず、そのために空いたインサイドに入ってきたノリスには、ちゃんとスペースを与えています。それだけに、ターン3でチームメイトにヒットされてカチンと来たのでしょう。
その後、彼は数周にわたって「チームとして、ランドが僕にぶつかってきたことを良しとするわけ?」などなどと不満をこぼし続けました。要するに、あれはフェアな抜き方じゃないから、順位を戻せと言いたいわけですね。
もちろん、その伏線として、モンツァで彼がノリスに順位を譲らされたことがあって、「その貸しをここで返せ」というピアストリのアピールではなかったかと思います。チームが順位操作みたいなことをしちゃうと、あとあとこういう影響が出てくるわけですよ。
ピアストリもレース後のメディア対応では、「まだリプレイを見ていないので、なんとも言えない」と冷静に答え、「今後はノリスとの戦い方を変えるか?」という煽りっぽい質問も「ノー」と一蹴しています。
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3)ノリスの視点:今回は偶数グリッドのクルマの蹴り出しが鈍く、予選5番手だったノリスはすぐに4位のアントネッリの前に出ました。次のターゲットは2番手のフェルスタッペンです。
オーバーテイクが難しいこのコースで、スタート直後にポジションアップのチャンスがあれば、それを取りに行かないわけにはいきません。彼はターン1でマックスの背後に詰め寄りました。そこがちょっとアグレッシブだったのは確かです。
ところが、路面がまだ湿っていたこともあり、ちょっと詰めすぎたノリスはフェルスタッペンのリアを軽くヒットして、左側のフロントウイング翼端板を傷めてしまいます。そして、姿勢を乱しかけたのを修正しようとして、右側にいたピアストリの左前輪に右前輪を当ててしまったんですね。
先ほど紹介したオンボード映像を見ても、ノリスがピアストリを押し出そうとしたわけではないことは明らかです。パパイヤ色のクルマが2台とも無傷で済んだのは、幸運もあったでしょうし、ドライバーの技量の高さもあったと思います。
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4)チームの視点:「パパイヤルール」と公平性の維持について、チームはこれからも、というか、今後ますます苦労することになりそうです。そのへんもいろいろと書きたいことはありますが、今回は長くなりすぎるので次の機会に譲ります。
ともあれ、二人ともさほどカッカしている様子ではありませんでしたよね。そもそも、そういうキャラでもありませんし。チームの首脳陣も、彼らとビデオを何度も見直しながら、誤解を解くように努めたはずです。
ですから、一部メディアのみなさんは残念でしょうが、これをきっかけにセナ対プロストを彷彿させる熾烈なチーム内バトルが始まるわけではない、というのが私の予想です。
もしもピアストリがノリスを上回るペースで追い上げて、接近戦にでもなっていれば、また違うストーリーになったかもしれないとは思います。彼にはそれができなかったのか、あるいはいろいろなリスクを嫌って4位を確保しにいったのか。まあ、どっちも考えられますね。
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それはさておき、ノリスのフロントウイング翼端板はフェルスタッペンとの接触で破損して、ずっと傾いだままでした。しかし、パフォーマンスへの影響はほとんどなかったようで、最後までフェルスタッペンに楽をさせませんでした。
あれを見て、今季初めの中国GPで、ルクレールがやはりフロントの翼端板を壊しながら、なぜか僚友ハミルトンより速かったこと(実はハミルトンが遅かったのですが)を思い出しました。
この「翼端板、ホントはない方が速いんじゃね問題」については、ぜひ以下の過去記事もご覧ください。ノリスの場合も、翼端板が壊れていなければ、もっと速かったというだけのことかもしれませんけど。
https://note.com/kenjimizugaki/n/n7a4af6eacc60
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マクラーレンの二人にすっかり話題をさらわれた感がありますが、このレースのヒーローは、言うまでもなくポール・トゥ・ウィンを飾ったメルセデスのラッセルでした。
僚友のアントネッリも、予選4位からノリスに抜かれてひとつ順位を下げたものの、5位でフィニッシュしています。
しかし、気温が高いので不得意と思われていたシンガポールでのこのパフォーマンスには、ほかならぬ彼ら自身が驚いていたようです。
ラッセルは、「今年勝てそうなレースのリストを作るとすれば、ここは間違いなく最下位の方だった。なぜこんなにパフォーマンスが良かったのか、週明けの月曜、火曜でじっくり考える必要がある」と言っています。
トト・ウォルフにいたっては、なぜここで好調だったのかという報道陣からの問いに、「むしろ教えてほしいくらいだ」と答えたほどです。
ナイトレースで路面温度は低く、高速コーナーがないのでタイヤの温度が上がりにくかったのは確かです。しかし、それでもなお予想外の速さと、メルセデス陣営は感じていたわけですね。
ラッセルは最終的には5.4秒差で勝ちました。ただ、フェルスタッペンがソフトタイヤでスタートしてマネージメントを強いられたこと、そしてレース後半はノリスを抑えてくれたことに助けられた部分もあるかと思います。実際、このふたつの要素がなければ、フェルスタッペンやマクラーレン勢に追いつかれていたかもしれません。
ともあれ、今後もコースとコンディションによってはメルセデス勢が上位に来て、特にラッセルがドライバーズタイトル争いの展開をややこしくする可能性は十分にありそうに思えます。
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フェルスタッペンも、レッドブルがずっと苦手としてきたシンガポールで予選2位、決勝2位。この結果から見ても、上り調子であることは間違いなさそうです。
ヘルムート・マルコさんの話では、「路面がバンピーなコースでは、以前はドライバーたちからクルマがカンガルーみたいに跳ねると文句が出ていた。だが、どうやらそれはなくなったようだ。アンダーも軽くなっている」とのこと。
マックスによると、モンツァで入れた新型フロアが効いているのは確かだけれども、実際には現場でのセットアップ作業のアプローチが変わったことの効果が大きいとか。
だとすれば、RB21というクルマは実はそれほど悪くはなく、ただこれまではポテンシャルを引き出せていないだけだった?という話にもなってきますね。ああ、もったいない。
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角田くんは、予選Q2のアタックラップが良くなかったのが響きましたね。そのため、1周目にゴチャゴチャしやすい位置からのスタートになり、彼自身の表現によれば「生まれてこの方、最悪のスタートとオープニングラップ」で17位まで後退してしまいました。
ただ、これも本人が言っているように、コラピントを抜いてからのペースは良かったんですよ。それだけになおさら、予選さえ決まっていればと思わざるをえないのですが……。
終盤はエンジンに問題を抱えたハジャーとの差を詰めていて、この勢いなら間違いなく抜けると思って見ていました。あの時点では、ハジャーの前に出ればポイント圏内の10位だったんですよね。
ところが、トップグループにラップされたあと、ハジャーとのギャップが急に大きく開いてしまいます。さらには、ソフトタイヤで追い上げてきたサインツに抜かれて、最後は12位ということになりました。
レース後の無線交信で、エンジニアのリチャード・ウッドが「マックスの2位を助けてくれてありがとう」と言っていたので、ラップされるときに何らかの「チームプレイ」があったのかな。それでハジャーとの差が一気に開いたということならわかります。
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ハミルトンはイイ感じで6番手を走っていながら、あと数周というところでブレーキが終わってしまいました。そして、ルクレールに先を譲ったあと、どうにかこうにかアロンソの前でフィニッシュしましたが、トラックリミット違反で5秒のタイムペナルティを科され、結果は8位となりました。
ブレーキがないF1マシンで走っていたわけですから、そりゃあもう、あっちゃこっちゃでコースからはみ出しますよ。ウォールに突っ込まずに帰って来ただけでも、もうけものです。
ハミルトンは途中で後方に大きなギャップができたため、2度めのストップをしてソフトに履き替え、このレースのファステストラップ(1分33秒808)を記録していました。そして、終盤にはブレーキが効かない状態で、2分超の「最遅ラップ」(2分08秒668)も叩き出しています。
レース後のコメントによると、ルクレールも序盤からブレーキのマネージメントを余儀なくされていたそうです。だとすれば、これは完全にチームの責任ですね。
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アロンソ先輩は、2008年の第1回シンガポールGPのウィナーです。このレースに出ていたドライバーで、いまも現役なのはアロンソとハミルトンのみ。そして、この年にはピアストリのマネージャー、マーク・ウェバーがまだ現役でレッドブルに乗っていました。
アロンソは金曜のFP1で1位、FP2で4位につけ、今回はいいところを見せてくれそうな雰囲気をムンムン発していました。クルマ的にも、ハイダウンフォースのコースでは上位に上がってくることは、ハンガリーで証明済みですから。
土曜になると、さすがに上位チームのドライバーたちが調子を上げてきて、予選はQ3まで進んだものの10位に終わります。
しかし、日曜はタイヤ交換でのタイムロスがありながら、抜きにくいコースでのペースコントロールとポジション維持という得意技を発揮し、ハミルトンのペナルティもあって7位に入りました。
無線芸の冴えも相変わらずで、今回一番笑ったのは、やはりこれですね。
エンジニア:「残りは34周」
アロンソ「そんなふうに毎周、毎周話しかけるなら、もう無線を切るからな!」
残り周回数という、さほど重要ではない情報だったことに加えて、時間がかかりすぎたピットストップの直後でしたから、アロンソ先輩がブチキレるのも無理はありません。
ただ、今回は僚友のストロールも、無線で笑いを取ることにかけてはフェルナンド師匠に負けていませんでした。
エンジニア:「前のボルトレートは、40周オールドのハードタイヤだ」
ストロール:「こっちのミディアムは、もう100周オールドくらいの感じなんだけど」
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ウィリアムズ勢は、予選後の車検で不合格になり、最後尾からのスタートになりました。DRSを開いたときにできるギャップの大きさが、規定をわずかに超えていたようです。
それでもなお、サインツは18番手グリッドから10位でフィニッシュを迎え、見事にポイントをゲットしました。スタートタイヤのミディアムを50周目まで引っぱり、残り12周をソフトでカッ飛ばすという戦略が大当たりだったんですね。
カルロスくん、レース後にはこんな話をしています。「僕が終盤に4〜5台抜いてきたシーンや、アロンソのハミルトンへの追撃がテレビで取り上げられず、ドライバーのガールフレンドやセレブばかり映されていた。あれはどうかと思うね」。
まったくもって、彼の言うとおりです。テレビクルーのスイッチャーさんの趣味なんでしょうか。
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表彰式では、コンストラクターズタイトルを決めたマクラーレンのチームスタッフがポディウムに上がりました。ああいうのは初めて見たように思いますが、なかなかいいものですね。
実は当初は予定になくて、FOMがアドリブでやったそうです。だから、あのタイミングではピアストリが参加できないことに気づかなかったのかな。
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次はCOTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)で開かれるアメリカGPです。以前にも書いたように、レッドブルの復活がホンモノかどうかが、この一戦ではっきりと見えてくるような気がしています。
そんなわけでとても楽しみなんですけど、アメリカ大陸でのレースは、日本でテレビ観戦するには時差が大きくてツラいんですよね。今回も決勝スタートは日本時間で午前4時です……。
2025年10月8日
