サーキュレーションとコンビ芸 - 2025 F1イタリアGPレビュー
近年のF1カレンダーでは、イタリアGPはヨーロッパラウンドの最終戦です。日本ではまだ最高気温が30℃を超えるような日が続いていますが、F1ファンにとっては、このイタリアGPが「立秋」(二十四節気のひとつで、暦の上での秋の始まり)なのではないでしょうか。
ちなみに次戦のアゼルバイジャンGPは、2016年の初開催時には「ヨーロッパGP」を名乗っていました。しかし、「さすがにヨーロッパというのは無理がある」というのが、当時の大方の意見でした。
アゼルバイジャンという国がどこにあるのか、はっきりイメージできない方は、この際ですからググってみてください。東欧諸国の東の果てにあるのが黒海で、その北岸はウクライナ、南岸はトルコです。そして、黒海東岸のジョージアのさらに東側にあって、カスピ海の方に面しているのがアゼルバイジャン共和国です。
さらに言えば、北で国境を接するのはロシア、南はもうイランですからね。「ここもヨーロッパ」と言い張るのは、いくらなんでも欲張りすぎです。
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まあ、それにしても、予選でフェルスタッペンがポールポジションを獲ったのには驚きました。前戦オランダから調子が上向いている感じがあったとはいえ、昨年苦戦したモンツァだけに、ポールとまでは思いませんでした。金曜日にメカニックがガレージで加工して作ったという、リアウイングの急造ローダウンフォース・フラップがうまくハマったようです。
マクラーレン勢は、ストレートでイマイチ速くないという弱点を露呈するかたちになりました。それでもしっかり2番手、3番手にはつけてくるのですから、やはり総合力では最強です。
フェラーリはストレートが速く、しかもFP1でワンツーだったりして、一時は「あれ、今回はイケるのか、イケちゃうのか」と思わせました。でも、まだマクラーレンやマックスとの間には、明確な差がありましたね。
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角田くんは、予選のQ2まではすごくいい感じで来ていました。こっちも「おおっ、ついに来たか?!」とワクワクドキドキで見ていたのですが、Q3でタイムを伸ばすことができず、予選10位に終わりました。
次戦こそは、この最後の一歩をキッチリ詰められることを祈念します。みなさんも一緒に、カスピ海の西岸に向けて長距離射程の念を送りましょう。
予選後のインタビューでは、Q3でのアタックについて「サーキュレーションもトウもなかった」と言っていたようです。この「サーキュレーション」というのは、たぶん何台ものクルマが高速で同じ方向にグルグル走ることで生じる風、というか空気の流れのことでしょう。
バケツにためた水を手で同じ方向にグルグル回すと、手を抜いてもしばらくは水が回っていますよね。インディカーのオーバルコースでは、あれと同じことがコース上の空気に起きるらしいんですよ。
角田くんがそれに言及するということは、チームがそのサーキュレーションを、モンツァでもタイムに影響するファクターのひとつと考えているのだと思います。
インディ500の決勝日には、コースで起きる空気の流れがインディアナポリス市の天気に微妙に影響を及ぼしたりする、なんて話も聞いたことがあります。ホントかどうかはわかりませんけど。
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決勝レースはちょっと退屈というか、見どころが限られていましたね。タイヤのデグラデーションが小さかったので、戦略はワンストップ一択で、セーフティーカーが出たりするような波乱も起きませんでしたから。
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第一の見どころは、スタートから最初のコーナーまでのフェルスタッペンとノリスの競り合いでした。なんか、すごい既視感がありましたよね。マックスがランドにスペースを与えないように動き、ノリスが土埃を上げながら「あのバカ、押し出しやがった!」って無線で言うやつ。
今年は鈴鹿のピットレーン出口と、マイアミのどこかのコーナーで同じような場面があって、これが3度目です。もはやこれは、マックスとランドが阿吽の呼吸でやっているコンビ芸とさえ言えるんじゃないでしょうか。
実際、どちらかがダメージを負うような接触は起きていませんしね。ひょっとすると、ふたりの間の暗黙の了解で、観客のウケを狙ったパフォーマンスとしてやっていたりするのかも。グイグイ押すのはフェルスタッペン、押し出されて無線で愚痴るのはノリスと、配役もそれぞれのキャラにぴったりです。
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その後、ノリスはターン1のブレーキングでインサイドを守りましたが、がんばりすぎてコンビの相方にスペースを残せず、フェルスタッペンは接触を避けるためにターン2をカットしました。そして、ノリスが「ヤツはコーナーをカットした! ポジションを戻すべきだ!」と言うところまでが、お約束のパターンでした。
マックスが今回はやけに素直にポジションを元に戻したのは、すぐに抜き返せるという自信があったからでしょうね。でも、そこはやはり無線でひとしきり四文字言葉と嫌味を言ってから、しぶしぶ指示に従う体でノリスを前に出してほしかったな。
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もうひとつの見どころは、序盤のピアストリとルクレールの攻防です。こう言っては語弊があるかもしれませんけど、フェルスタッペンとノリスの競り合いにはどことなくプロレス感がありました。それに対して、こちらは双方の精密なドライビングが光る、美しいオーバーテイクの応酬だったと思います。
特にピアストリがレズモで、アウトからルクレールを抜いた場面はアンビリーバボーでした。彼のオンボード映像を見ると、レズモへのアプローチが本当にギリギリで、左側のタイヤの一部ダートに出ているほどでしたからね。
ピアストリとしては、自分の右前輪がルクレールの左後輪とオーバーラップしているので、もう引くに引けない状況だったんですね。そして、ルクレールがちゃんとアウトサイドにスペースを残したのもフェアで良かった。これぞホンモノのプロ同士のバトルです。見応えがありました。
彼らは序盤の数周の間に、何度か順位を入れ替えているのですが、どのオーバーテイクもクリーンで見事だったと思います。ピアストリが抜かれたのには、前にいたノリスやフェルスタッペンにつっかえたという理由もありました。しかし、ルクレールもそこを見逃さずに突いて、スパッと抜いていきました。
ルクレールもよくがんばったんですけどね。レース後のインタビューによると、序盤にプッシュしたので、10周目あたりからタイヤがオーバーヒートし始めて、付いていけなくなったそうです。
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レース中には、角田くんとローソン、オコンとストロール、サインツとベアマンといったあたりでもタイトなバトルが見られました。ただ、彼らの場合は、最終的に相手をヒットしたり、完全に押し出しちゃったりするんですよね。
白熱した争いはいいんですけど、どちらかがクルマにダメージを負ったり、パンクやスピンで脱落するようでは、見ている方は興ざめです。
その点で、彼らはピアストリとルクレールを見習わないといけません。結局のところ、たぶんそこがフツーの一流ドライバーと超一流ドライバーの違いなんですよ。
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レース後に、ヘルムート・マルコさんの発言をまとめた記事を読んだところ、レッドブルは夏休み明けからクルマのセットアップに関する考え方を変えたそうです。
具体的には、シミュレーターで出た結果だけにこだわらず、ドライバーの経験あるいはエンジニアの経験を加味しながら、セットアップを決めていくことにしたとか。そして、エンジニアとドライバーで意見が合わない場合には、ドライバーの考えを尊重することになったようです。
モンツァでリアのダウンフォースを削ったことについても、チーム内では反対するエンジニアもいたそうです。けれども、最後は「ドライブするのはマックスだから」という理由で、あの仕様で行こうと決まったとのこと。
これも「メキース効果」のひとつでしょうか。少なくとも、メキースさんとエンジニアやドライバーの間で交わされる、技術的な会話のレベルが上ったのは間違いないようです。
クリスチャン・ホーナーは、90年代後半にF3やF3000のドライバーだった人ですから、技術的な面でも決してシロウトではありません。ただ、それだけにチームのエンジニアにとっては、逆に厄介だった可能性も考えられますね。
参照した記事はこちらです(英文)。https://www.autosport.com/f1/news/the-new-red-bull-philosophy-behind-verstappens-surprise-f1-italian-gp-win/10757785/
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終盤にマクラーレンが行ったポジションスワップに関しては、立場によって2つの見方があると思います。
観客や他のチームから見れば、あれはまったく必要のない順位の操作です。タイヤ交換でのメカニックのミスも、コース上でのアクシデントと同じで、レースの一部ですから。まさにピアストリが無線でスワップを指示されたときに言っていたとおりです。
ただ、マクラーレンの立場からすると、ピットストップのミスでノリスとピアストリの順位が変わってしまうのは、いろいろと具合が良くありません。ですから、ポジションを入れ替えて、ミスを帳消しにした方が公平であろうと考えたのでしょう。実際、「そのあとは自由にレースをしていい」と言っていますし。
でも、それはチームの論理であって、観ている方としてはやはり「ポジションを譲らされたピアストリはかわいそう」と思うのが普通ですよね。現地の観客の一部が、表彰式でノリスにブーイングを浴びせたのは、そういう感情があったからに違いありません。
まとめると、観客の感情がどうあれ、チームとしてはタイトルを争っているドライバー同士の公平性を優先したと。しかし、本来なら2位ピアストリ、3位ノリスであったはずのレースリザルトを、マクラーレンが操作したのも事実、というところでしょうか。
それにしても、チクリと不満を示しながらも、あまり抵抗せずにチームの指示に従ったピアストリは、フジテレビ解説の浜島さんも言っていたように「オトナでしたね」。
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次戦アゼルバイジャンで注目すべきは、やはりフェルスタッペンのモンツァでの好調が続くかどうかですね。というか、そうなってもらわないと、選手権争いが面白くなりません。
ルクレールは2021年から2024年まで、バクーでは4年連続でポールポジションを獲っています。でも、レースでは一度も勝ってないんですよ。昨年は途中まで勝てそうだったのに、ピアストリにしてやられています。ルクレールとフェラーリとしては、なんとかここで一矢を報いたいところでしょう。
もちろん、角田くんのパフォーマンスも引き続きウォッチしていきたいと思います。
2025年9月15日
