【F1茶話】オニが笑う4つの課題 - 2026年F1新規定

 来年の話をします。鬼が笑うかもしれませんが放っておきましょう。F1では、もう5年前からこの話をしていますから。

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 みなさんご存知のように、2026年にはF1のテクニカルレギュレーションが全面的に刷新されます。

 めちゃくちゃ大雑把に言うと、クルマが現行より少し小さく、かつ軽くなります。グラウンドエフェクトを利用する点は変わりません。しかし、フロアが発生するダウンフォースへの依存度を下げ、アクティブエアロによってストレートでのドラッグを減らします。アクティブエアロというのは、いわば前後のウイングにDRSを備えたようなものですが、先行車から1秒以内のときだけという条件はなくなります。

 パワーユニットも変わります。ターボとモーター/ジェネレーターを連結したMGU-Hが廃止され、運動エネルギーを回生するMGU-Kのみになります。また、それ以上に大きな変化として、エンジンとモーターの出力比率が現行の8対2から5対5になります。総出力の半分は電気の力になるわけですね。

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 昨年、レッドブルを離れてアストンマーティンに移籍したエイドリアン・ニューウェイさんは、先日チームが公開したインタビュー動画で、2026年のレギュレーションについてこんな話をしていました。

「現行規定のときと同様に、最初は制限が厳しくて、デザイナーが創意工夫をする余地はほとんどないように思えた。だが、詳しく見ていくうちに、イノベーションや複数の異なるアプローチの可能性があることがわかってきた」

「2022年シーズンの初めには、チームによってずいぶん異なる方向性が見られた。それから4シーズンを経て、ほぼひとつの方向に収束したが、最初はそうではなかったんだ」

「2026年もそうなる可能性が高いと思う。このレギュレーションには充分なフレキシビリティがあり、違ったソリューションがいくつか出てくると思う。そして、2〜3年のうちには、それらもコンバージ(収束)し始めるだろう」

「シャシーとパワーユニットのレギュレーションが一度に大きく変わるのは、私の記憶にある限りでは初めてのことだ。これは興味深いと同時に、ちょっと怖いところでもある」

「チームによって様々な空力ソリューションが見られる一方で、パワーユニットの性能にも差が生じるかもしれない。実際、ハイブリッドのレギュレーションが初めて導入された2014年には、それが起きたからね」

 ニューウェイさんがデザインした2026年型アストンマーティンは、はたしてどんなクルマになるのか。ちょっと楽しみになるようなコメントではありませんか。

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 しかし、この新テクニカルレギュレーションについては、来季の開幕戦まであとたった9カ月となった現時点でも、なお「これで大丈夫なのか」とか「ホントにこれでイケるのか」といった疑問がいくつか残っています。ここではそういった意味での課題の論考を、主にイギリスのメディアの記事から拾い集めてみました。

 取り上げるのは、1)車重、2)電気の出力比率、3)燃料のコスト、4)PUの救済措置の4つの点です。


■車重
 新規定の最低車重は、現行の800kgより32kg軽い768kgとなる予定です。車体のホイールベースが200mm短い最長3400mm、車幅も2000mmから1900mmと全体に少しコンパクトになり、タイヤの幅も狭くなるので、それだけでもクルマはある程度は軽くなるでしょう。

 ただ、新規定では電気の出力比率が高まるため、より大容量で、それゆえに重いバッテリーが必要になります。それを含めて考えると、この最低重量はかなり”野心的”な数字と受け止められています。

 つまり、ぶっちゃけて言えば、これを下回る車重を実現するのは、現実的にはかなり難しいだろうということですね。いかにして車重を規定の最低値に近づけるか。特に2026年シーズンの序盤では、これが各チームの競争力の差を左右する要因のひとつになりそうです。

 一般的には、車重が10kg重いと、1周のラップタイムは0.3秒遅くなると言われています。レッドブルのポール・モナハンは、各チームがクルマを軽く作れるかどうかによって、グリッドの勢力図が変わってくる可能性はあるかという質問に、こう答えています。

「それは来年の3月になってみないとわからない。すべてのチームが最低重量よりはるかに重いクルマを持ってくる可能性もある。そうなると相対的にどこが軽いかという話でね。こちらが何キロかオーバーウエイトでも、他のチームがすべてそれ以上のオーバーウエイトなら問題ないわけだから」

 うーん、モナハンさん、楽観的なのか悲観的なのかよくわかりませんが、まあ確かにそのとおりです。


■電気の出力比率
 電気の出力比率を5対5(正確には55対45)に高めると、長いストレートの終盤で電気エネルギーが途絶える「クリッピング」が起きる可能性が指摘されています。ターン1のブレーキングゾーンのずっと手間で、パワーユニットの出力がいきなり半分になってガクンと失速するわけですから、観ているファンにとっても興醒めでしょう。

 ざっくりと言えば、電気モーターに350kW(現行規定は120kW)を常時発生させようとすると、どうしても電気の収支が赤字になりがちなのです。

 特にエネルギーを回生するハードブレーキングゾーンが少ないモンツァやバクーなどのサーキットでは、それが顕著になる可能性があり、ストレートエンドでリフト&コーストをせざるをえなくなるだろうとも言われています。スロットルを戻せば、電気エネルギーの消費は止まって充電モードになりますからね。でも、それもやはりエキサイティングとは言いがたい。

 こうした懸念を背景に、レッドブルのクリスチャン・ホーナーは、そういったサーキット限定でレースでは電気の出力を200kWに抑え、余裕分の出力はプッシュ・トゥ・パス(オーバーテイクボタンのように、一時的にパワーアップする仕組み)に使ってはどうかという提案をしているそうです。アクティブエアロによりDRSがなくなるので、その代替にもなるだろうということで。

 これに対してメルセデスのトト・ウォルフは、モンツァやバクーでハーベスティング不足になるかどうか、やってみなければわからない、ひとまず様子を見るべきと反対しています。大きな問題になるようなら、MGU-Kのソフトウェア改修で対応できるし、アウディとホンダは電気の出力比率5対5の新規定を前提に参戦を決めたのだから、それをいまさら変えるべきではないという意見です。

 ただ、フォードとレッドブルが技術提携して作るパワーユニットは、電気の部分がやや遅れ気味と言われています。そんな状況でホーナーが先回り的にこういう提案をすると、「それ、我田引水ってやつ?」と取られがちになりますよね。フタを開けたら、他社は何の問題もなく対応できていた、という可能性だってあるわけですから。


■燃料コスト
 新規定に関して、チームにとってありがたくない要素のひとつが新しいサステナブル燃料のコストです。まず、できるだけカーボンニュートラルな方法で作る合成炭化水素にはかなりの費用がかかり、さらに燃料としての性能を確保するための添加剤の開発にも、多大な投資が必要だそうです。

 ネット上の記事では、1リットルあたり300ドル(4万5千円!)なんて説も見かけます。まあ、できるだけ刺激的なタイトルを付けたいという事情とかもあるでしょうから、そういう数字はあまり真に受けない方がいいかもしれません。

 実際、ホーナーはレッドブルとエクソンモービルにとって、燃料のコストは大きな問題ではないとしています。ただ、ウォルフによれば、サステナブル燃料の1リットルあたりのコストは当初の見積りを大幅に上回っていて、コストダウンのため製造に用いる原料に関するルールを変更する必要があるかもしれないとのこと。

 イギリスのautosportのサイトで、この件に関する記事を書いたJake Boxall-Leggeさんは、こう言っています。「少なくとも理屈の上では、それは燃料メーカーが負担すべきもの。メーカーの技術開発投資とみなされるからだ。この種の燃料が広く普及し、一般に市販されることになれば、メーカーはその投資を回収できる」

 タイヤにしてもそうですが、有償とはいっても、開発費まで含めて完全にペイする値段でチームに供給するわけではありませんからね。

 さらに言えば、燃料の生産、開発、供給にまつわるコストは、2026年の改訂版コストキャップの対象から除外されています。ですから、少なくとも燃料の開発に関与しないカスタマーチームの場合は、それほど心配しなくてもよいと言えそうです。


■PUの救済措置
 ニューウェイさんも言っているように、誰もが恐れているのが、どこか1社の新規定パワーユニットが性能的に他を圧倒してしまうことです。そう、2014年のメルセデスのようにですね。

 そのため、2026年規定が最初に承認されたときから、競争力に劣るPU製造者を救済するための条項をレギュレーションに含めることが決まっていました。ただ、そもそも「競争力に劣る」の定義が簡単ではないこともあって、どういった方法で一強時代の再来を防ぐかは、まだ正式には決まっていません。コストキャップ制との兼ね合いもありますし。

 以下はFIAのシングルシーターディレクター、ニコラス・トンバジスさんがイギリスのautosportに語った内容の要約です。

「過去には確かに性能の不均衡があった。そして、概してそうした不均衡は、追いつくべき立場の人々による開発費の追加支出と、汗と涙と多大な努力によって克服された」

「だが、コストキャップのもとでは、それが以前より難しくなる。この問題への対処として具体的にどんな規定を設けるべきか、現在PUマニュファクチャラー各社との話し合いを進めている」

「念のため明言しておくと、私たちが話し合っているのは、競争力に劣る製造者が追加の開発をできるようにするための規定だ。競争力のないPUの性能を上げる人工的な仕掛けのようなものは、検討の対象になっていない」

 つまり、キャッチアップする(追いつく)チャンスは提供するけれども、性能調整のような策は採らないということですね。

「既存のPU製造者には10年以上にわたるノウハウの蓄積がある。新規参入の製造者にはそれがないのだから、道義的にも、また公平さの観点からも、彼らが先行者に追いつき、同じレベルで戦えるようにする仕組みが必要と考えている」

「私たちとしては、誰かが悲惨な状況に陥り、屈辱にまみれ続けることは望まない」

 そうです、F1としてもFIAとしても、自動車メーカーのお偉方が「F1なんて、やるもんじゃねぇな……」と懲りてしまうことだけは避けなければなりません。

 サウジアラビアGPの翌週に開かれたF1コミッションでは、この「キャッチアップ条項」について大筋の合意が得られたそうです。詳細の詰めはこれからですが、やはり性能/信頼性の不均衡の度合いに応じて、競争力に劣るマニュファクチャーにはより多くのダイナモテスト時間と、バジェットキャップの緩和措置を与えるかたちになる可能性が高いとのこと。

 既存のチームや製造者としては、それぞれの利益を守り、これまでの投資を回収したいのはヤマヤマでしょう。しかし、ここはF1全体の利益を第一に考えて、ぜひとも新規参入者にやさしい仕組みを作ってほしいものです。

 このあたりについては、過去記事の「【F1茶話】コンバージェンスとフェアネス」でも、また少し違った切り口から書いております。併せてお読みいただければ幸いです。

 なんとなく漂う雰囲気から察するに、救済措置の対象として「想定」されているのは、どうやら新規参入のアウディかと。その一方で、フタを開けたらまたメルセデス、あるいはホンダが他を圧倒するかもと予想する人も少なくないようです。

 フェラーリについては、どっちの意味でもあまり心配していない、と言ったら失礼かな。ただ、数年前に赤いクルマがやけに速かったときは、あとでチートがバレていますから、わりとコンサバで来るのではないかと思っています。


2025年6月10日

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