紅組の凱歌とイヤな汗 - 2026 F1バルセロナ・カタロニアGPレビュー

このところワンストップのレースが多かったので、ツーストップとスリーストップの戦略が混在する決勝は久しぶりで、なかなかスリリングでした。

また、タイヤのデグラデーションが大きかったおかげで、抜きにくいと言われてきたカタロニア・サーキットで、ターン1以外の場所でもオーバーテイクが何度か見られました。これは例年より一段階ソフトなコンパウンドを用意したピレリさんのグッドジョブでしたね。

《このレビューは、いわばファン目線のF1感想戦です。リザルトは掲載せず、レースの展開を詳しく追うこともいたしません。では、いったい何を書いているかというと、そのイベントでの重要な見どころや、逆に重箱の隅をつつくような話題にフォーカスしています。気軽に面白がっていただければ幸いです。》


■紅組、久々の優勝!


今回の主役はなんといってもハミルトンとフェラーリでした。本当に久しぶりにスクーデリアの勝利の凱歌としてイタリア国歌が聞けました。

世界の国々の国歌には、たとえば君が代のような「厳粛タイプ」と、イタリアやフランスの国歌に代表される「勇猛タイプ」があるじゃないですか。どっちもそれぞれに良いのですが、個人的にはグランプリの週末が「勇猛タイプ」で締めくくられると、スッキリ気持ち良く終われる感じがして好きなんですよね。

そして、ポディウムに立ったドライバーの国旗は、ユニオンジャックがきれいに3つ並びました。2位に入ったラッセル、アントネッリのリタイアで3位が転がり込んできたノリスも、母国の先輩ハミルトンには脱帽でしたね。

トップ3が全員イギリス人というポディウムは、なんと1968年のアメリカGP(ワトキンズグレンで開催)以来、58年ぶりだとか。優勝はマトラ・フォードのジャッキー・スチュワート、2位はロータス・フォードのグラハム・ヒル(デイモン・ヒルのお父さん)、そして3位のジョン・サーティースさんの乗機は、3リットルV12エンジン搭載のホンダRA301でした(遠い目)。

■苦節15カ月のハミルトン


ハミルトンとフェルスタッペンがソフトタイヤでスタートするのを見た時には、イチかバチかのギャンブルかと思いましたが、ハミルトンは3ストップで堂々と勝ちました。ソフト、ハード、ミディアム、ハードと履き替えて、特にミディアムでのスティントがめっちゃ速かったのが効きましたね。

VSC(バーチャル・セーフティカー)中にタイヤを交換できて、コース上で抜かなくてもラッセルの前に出られたのは確かに幸運でした。しかし、最後のスティントでもラッセルをどんどん引き離していましたから、おそらくあのVSCがなくても勝てたと思います。抜きにくいコースとは言っても、終盤のハミルトンには他の上位陣よりフレッシュなタイヤという武器がありました。

今回、フェラーリは大規模なアップデートパッケージを持ち込みました。「クルマの真の実力が見える」とされるこのサーキットで勝てたのですから、アップデートはしっかり機能したと見てよいでしょう。

実際、ハミルトンもその点でチームに感謝していました。また、新しいレースエンジニアのカルロ・サンティさんとの相性も良さそうで、ルイスはサンティさんを「イタリアン・ボノ(イタリアのピーター・ボニントン)」と呼んでいたほどです。

サンティさん、ポディウムにも上がっていました。フジテレビ解説の浜島さん(元フェラーリ)によると、長くテストチームで仕事をしていた苦労人だそうです。ご本人はもちろん、ご家族も誇らしく思われることでしょう。

そして、クールダウンラップでの無線メッセージ、And to the fans, thank you continuing to remind me who I am もまた印象的でした。「それからファンのみんなへ、ぼくが何者であるかを思い出させ続けてくれて、ありがとう」みたいな感じでしょうか。

■メルセデスに向かい風


ともあれ、VSCはラッセルにとっては不運でした。しかも、フロントフラップのセットアップ変更ミスで、途中からペースが上がらなかったとか。いっぺんどこかでお祓いを受けてきた方が良さそうです。

アントネッリはかわいそうでしたね。ペースはラッセルより速かったし、終盤にはクリーンに抜いてみせたのに。クルマさえ壊れなければ、選手権ポイントでも最大のライバルでもあるチームメイトをさらに引き離せたはずでした。

でもね、カナダGPのレビューにも書いたように、ラッセルがマシントラブルに見舞われるとすれば、アントネッリも同じ目に遭う可能性はつねにあるわけです。そして、今回ノーポイントだったために、ハミルトンとの得点差は一気に25点も縮まりました。

昨年までとは違って、今年は上位陣でもリタイアで0点ということがしばしばありそうで、激動の選手権シーズンになるかもしれません。それに加えて、ハミルトンとフェラーリの速さを見てしまうと、メルセデスとしては50点や60点のポイントリードでは楽観できないでしょう。

ちなみに、F1公式チャンネルで解説をしているジョリオン・パーマーさんは、「メルセデスにとっての不幸は、遅い方のドライバーが予選でポールを獲り、レースでも前に立ってしまったこと」と指摘していました。

なるほど、アントネッリが最初から先行して自分のペースで走っていれば、そしてクルマが壊れなければ、ハミルトンは勝てなかった可能性もありますね。

■10年前のバッドメモリー


アントネッリは終盤にターン1でチームメイトを抜き、2台は接近した状態でターン3からターン4へと向かいました。F1公式のレースハイライトでは、その場面でアナウンサーが「ここはメルセデス因縁のコーナー!」と叫んでいました。

そう、2016年にタイトルを争っていたニコ・ロズベルグとハミルトンが1周目に同士討ちを演じて、ともにリタイアを喫したあの場所ですね。今回はちょっと状況も違いましたし、カナダでの一件もあったあとなので、ふたりとも熱くなりすぎることはありませんでした。ただ、トト・ウォルフさんの額には、イヤな汗がにじんだに違いありません。

アントネッリがターン1でインをうかがったときにも、ラッセルは厳しくインのスペースを消しに行きました。でも、ギリギリ1台分のスペースは残していましたね。さすがジェントルマンのラッセルさん、そこはエラいと思いました。

もしあれがM.V.くん(仮名)で、さらに相手がL.Nくん(仮名)だったりしたら、きっと0.3台分くらいしか残さないでしょう。

■3番手は赤牛かパパイヤか


クルマの素性がはっきり見えてしまうこのサーキットで、レッドブルはチームとしては4番手、あるいはマクラーレンと3番手を争うポジションでした。とはいえ、鈴鹿あたりでは「中団グループのトップですらない」と言われていたことを考えると、だいぶトップとの差を詰めてきたように思います。

予選ではポールのラッセルから0.3~0.4秒の差で、フェルスタッペンが5番手、ハジャーが6番手でしたし、レースもそれぞれ4位と6位でした。ただ、マックスは3位のノリスには17秒近く引き離されてのフィニッシュで、ハミルトンと同じソフトスタートでスリーストップの戦略も機能しませんでした。

ハジャーはスタートがヒドかった。オンボード映像を見ると、ターン1に到達するまでにコラピントとサインツにも抜かれています。それでも最終的には6位まで戻したのですから、なおさらスタートが悔やまれるところ。スタートに関してはパワーユニットの技術的な課題もありそうです。

でも、ポジションを取り戻していく途中での、ターン3のアウトからのオーバーテイクはカッコ良かったな。相手とのペース差があったとはいえね。

逆にマクラーレンはちょっと失速気味でした。序盤に大きくつまずいたものの、その後はメルセデスとフェラーリに食らいついていくかと思われたのに、今回はレッドブルと3番手を争うポジションに後退していました。

まあ、これはある程度まで予想されていたことではあるんですよ。コンストラクターズタイトルを獲った翌年は、空力テストの制限がどのチームよりも厳しくなります。彼ら自身も、オフの間にあまり多くのアイデアを試せないので、ひとまずマイアミあたりまでは周囲の様子を見て、良さそうなものをコピーすると公言していました。

それにしても、チャンピオンチームにはもうちょっとがんばってもらわないと、シーズンが盛り上がりません。ただ、メルセデスのPUのトラブルで失ったポイントも少なくないので、そこは情状酌量の余地がありそうです。

■ルクレールだって人間だ


マクラーレン勢がいまひとつピリッとしないなか、予選はハミルトンのおかげで最後の最後までエキサイティングでした。アントネッリがアタックラップを決めきれなかった感はあるものの、最終的にポールを獲ったラッセルとハミルトンの差はわずか0.064秒でした。

その一方で紅組の相方、ルクレールはQ3でクラッシュを喫し、結果は予選10番手。モナコでウォールに突っ込んだのは「ブレーキのせい」と言っていましたが、今回はブレーキとは関係なさそうです。ターン4でラインがワイドになり、路面のグリップが低いところでコントロールを失って、グラベルに飛び出していますからね。

邪推かもしれませんけど、それまで自分が事実上のナンバーワンだと思っていたドライバーが、急にチームメイトに負け始めるとやはり焦りが生まれるのかも。ドライバーだって人間だもの、と相田みつをも言っています。

そして、レースではアントネッリが止まったのとほぼ同じタイミングでパワステが壊れ、ピットに戻ってリタイア。まるで焦燥感が良くないバイブになって、クルマにも伝わっているかのようです。

ラッセルにも同じことが言えるかもしれません。今季は速いクルマを手に入れ、開幕戦で勝って、これならタイトルを狙えるぞと思っていたら、2戦目からはまだ2年目の若いチームメイトが5連勝ですからね。

ルクレールもラッセルも、メンタルが試される状況に直面しています。でも、そこをこらえて立て直せるかどうかが、ただ速いだけのドライバーに終わるか、本当に強いドライバーになれるどうかの分岐点なのだろうと思います。

■急所を突かれたヒュルケンベルグ


今回のレースで、信じられない不運に見舞われたのがヒュルケンベルグでした。前を走っていたローソンがわずかにグラベルにはみ出たときに、彼が飛ばした小石がボディ側面のキルスイッチを直撃して、電源が落ちてしまったらしいんですよ。

キルスイッチとは、アクシデントなどの際にマーシャルが外部からクルマの電源を切るためのスイッチで、全車に装備が義務付けられています。そのトリガーはマーシャルがフックの付いた棒で操作することを前提としていて、形状は針金でできた直径数センチの半円を想像してもらえばいいと思います。そんなサイズのものですから、プロ野球の選手が近くから狙って小石を投げたって、まず一発では当たりませんよ。

よりにもよってそこを跳ね石でやられて、クルマはどこも壊れていないのにリタイアなんて、気の毒すぎます。

それがたまたまピット入口のすぐ手前で起きて、ピットレーンにかけては下り勾配でしたから、ヒュルケンベルグは惰性でピットに戻ることができました。でも、電源が落ちているので無線も使えず、アウディのピットクルーはいったい何が起きたのか、まったくわかっていなかったそうです。

ヒュルケンベルグは予選では今季初めてQ2を突破して、9番手グリッドからのスタートでした。あのままローソンに続いてフィニッシュすれば、ポイントゲットだったのにね……。

■木を見て森を見ず


最後に「ガスリーのペナルティ問題」に触れたいと思います。まずはおさらいをしましょう。モナコでは、やけに多くドライバーがピットレーン速度違反を取られて、物議を醸しました。

そして、速度違反で5秒のタイムペナルティを科されたドライバーのうち、ガスリーを除いた全員はレース中にそれを消化しました。しかし、ペナルティの通告後にタイヤ交換のピットストップをしなかったガスリーは、アントネッリとハミルトンに次いで3番目にフィニッシュしたあと、10秒(5秒ペナルティの2回分)を加算されて最初の正式結果では7位とされました。

ここまでは、前戦モナコGPのレビューに記したとおりです。

アルピーヌはこの裁定に対して、再審を請求しました。自分たちでピットレーンの計時セクターの距離を測り直したり、一度も制限速度の60km/hを超えていないことを示すテレメトリーデータを提出したりしたそうです。

そして、あらためて調査をした結果、速度の算出に用いていた距離の値が実際の距離より77cm短かったことが判明しました。審査委員会は速度違反の判定が間違いだったことを認め、ガスリーに対するタイムペナルティを取り消す裁定を下しました。

これにより、モナコの正式結果は改定され、ガスリーが3位になったというわけです。

     *   *   *

誤りを認めて正すのは良いことです。ただ、この件に関しては、ガスリーとアルピーヌに「間違ってました。ごめんね。ペナルティは取り消します」と謝れば、それで済むという問題ではありません。

だって、ガスリーと同じペナルティを受けながら、レース中に消化してしまったドライバーたち(ハミルトン、ラッセル、ピアストリ)には、その分のタイムを返してあげることができないのですから。

(コラピントもペナルティを科されましたが、ポイント圏外でフィニッシュしていて、しかもガスリーの僚友でもありますから、まあ文句は言わないでしょう。)

特にラッセルの場合、スピード違反のペナルティを取り消せるなら、その未消化に対して科されたドライブスルーも取り消さないとおかしなことになります。また、もしピアストリとラッセルがペナルティを消化せずに走り続けていたら、おそらくガスリーが3位でフィニッシュラインを通過することもなかったわけですよ。

マクラーレンとレッドブルは、この取り消し裁定に対して抗議をしました。メルセデスもラッセルのペナルティへの再審を求めましたが、その後「F1全体の利益を考えて」との理由で取り下げました。

いまさらラッセルのペナルティをなかったことにするのは、現実問題として不可能なので、最初からそのつもりでのアピールでしょう。ガスリーのペナルティ取り消しが撤回されても、ラッセルがポイントをもらえるわけではありませんし。

レッドブルのメキースさんはこう言ったそうです。「私たちとしては、スピード違反のペナルティは抗議できないものと考えて、他のチームが受けたペナルティを考慮しながらレースをしている」

そうなんですよ。ピットレーン速度違反のペナルティは、いったん出されたら覆せないのが通例で、チームは黙ってレース中に消化するしかないんです。これは計測が正しいかどうかとはまた別の問題です。だから他のチームの人たちは、ガスリーへの裁定が覆ったことに驚愕したんですね。

     *   *   *

個人の意見としては、ガスリーへのペナルティ取り消しを取り消すのが、最も公平で公正な措置ではないかと思います。ペナルティを与えるのに用いた基準は間違っていたとしても、それはすべてのドライバーに「公平」に適用されていたのですから。

この原稿を書いている時点で、マクラーレンとレッドブルの抗議の結果はまだ出ていません。いずれにせよ、ガスリーのタイムペナルティを取り消したのは、「木を見て森を見ず」の典型だったように思います。

なお、この裁定の文書に書かれていたのですが、アルピーヌはガスリーに「ピット入口での速度違反に気をつけろ」とリマインドをしていたそうです。その点については、このレビューも訂正とお詫びをしないといけません。エンストンのチームのみなさん、たいへん失礼いたしました。


2026年6月24日

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