「何を売るか」ではなく、「誰から買うか」の時代
2022年11月7日。
ようやく熱が下がったこどもたちを保育園へ送り届けました。
帰りみち、妻は冷たい風のなかをゆっくりと歩きながら、カサカサと鳴る落ち葉を踏みしめていました。
昨日おこなわれた駅前のマルシェは、大盛況のうちに幕を閉じました。
しかし、夕方からの急激な冷え込みのせいで、妻は少し喉を痛めたようで、声がかすれていました。
今週末からは、いよいよ金蛇水神社での個展が始まります。
アトリエには、まだ届かない展示用の荷物の伝票が並んでおり、準備はこれからが本番でした。
昨日のマルシェでは、ステージでのライブパフォーマンスが会場を盛り上げていました。
イベントの終盤、地元で活動するシンガーソングライターがギターを手に歌い始めました。
プロとして磨き上げられた歌声と、軽妙なトーク。
会場に集まった人たちが、楽しそうに手拍子を合わせていました。
妻は、演奏のあとに彼と言葉を交わしました。
非常にきさくで、温かいひとがらを感じたそうです。
「なにを歌うかより、だれが歌うかなんだよね」
アトリエの机で、個展の案内ハガキを整理しながら、妻は言いました。
世の中には、歌がうまい人や、絵がうまい人は山ほどいます。
かつてのように、大手事務所の後ろ盾やプロモーションがあって売れる時代から、個人が直接発信する時代へと移り変わっています。
そんななかで最後に選ばれるのは、その人の情熱や、ひとがらに共感できるかどうかだ、と妻は言います。
プロとして腕を磨くことは、最低限の前提条件です。
けれど、それ以上に「人間力」を磨かなければ、だれからも見つけてもらえなくなってしまう。
「わたしも、絵のうでを磨くだけじゃ足りないと思う」
妻は、個展用のキャンバスのホコリを静かに払いました。
何を表現するかではなく、だれが表現するか。
看板のないアーティストとして立つ責任の重さを、妻はシンガーソングライターの優しい笑顔の裏に見出していました。
窓の外では、冬の気配を含んだ雲が、灰色の空をゆっくりと流れていました。
凡人夫の備忘録。アーティスト妻の歩み
地方の無名アーティストの妻が、東京に挑戦するまでの話。
シーズン1から、全部読めます。
独立して、迷って、それでも描く。
正解のない日々を歩くシーズン2はこちら。
生活と、創作。
泥臭い日々の記録、最新のシーズン3はこちら。
初めての個展を経て、外の世界と繋がり、
泥臭く価値を証明していくシーズン4(共鳴編)はこちら。
自己表現を確立し、他者と深く繋がっていく、
最新のシーズン5(対話と確立編)はこちら。
アーティストHannaの現在
妻の作品はコチラで見れます。
https://www.instagram.com/hanna.iwanuma
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