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他人の目は変えられない。自分の手の中にあるものに集中する

2022年10月26日。

朝から、部屋の中が冷えこんでいました。

子どもたちの布団を冬用の毛布にとりかえ、ストーブの用意を始める季節です。

アトリエからは、シャッ、シャッ、と木を削る音が聞こえていました。

つまが週末のイベントにむけて、キーホルダー用の木材にヤスリをかけているのです。


3センチかける2センチほどの、ちいさな木の板。

その角をひとつずつ削り、丸みをもたせていきます。

これまでのワークショップでは、切り出したままの生の木を配っていました。

しかし、子どもたちが絵の具を厚くぬりすぎて乾かなかったり、待たせてしまったりする失敗がありました。


「今回は、あらかじめ色を塗っておくの」

つまは、カラフルに彩られた20色の木片を見せてくれました。

今回は絵の具ではなく、新しく導入したアクリルペンで絵を描いてもらう仕組みに変えたそうです。

ちいさな子どもでも、簡単にかけるようにするための工夫でした。


夜、子どもたちを寝かしつけたあと、つまはベッドのなかで一冊の本を読んでいました。

『人生の授業 奴隷の哲学者エピクテトス』という本です。

「おもしろい言葉が書いてあるよ」

翌朝、つまがコーヒーを淹れながら言いました。

「自由になるための唯一の方法は、じぶんではどうにもできないことを、軽く見ることなんだって」


数日前、妻はオーダーメイドの絵を納品しました。

あるお店の開店祝いとして、プレゼント用に依頼された作品です。

妻は相手の好みを丁寧にききとり、120パーセントの気持ちで描き上げました。

しかし納品したあと、依頼主さんから聴きとった情報に、すこし食い違いがあったことが分かりました。


「せっかくの贈り物なのに、わるいことをしてしまったかもしれない」

妻はアトリエの机で、しばらくモヤモヤと悩んでいました。

のちに、お祝いを受け取った人が絵をかかえて嬉しそうに笑っている写真が届き、胸をなでおろしました。


「相手がよろこぶかどうかは、わたしの領域じゃないんだよね」

妻は、削り終えた木片に絵の具を塗りながら言いました。

じぶんができる限りのベストを尽くすこと。

それは、じぶんでコントロールできる領域です。

けれど、受け取った相手がどう感じるかは、相手の領域であり、じぶんにはコントロールできません。


じぶんにできることだけに集中し、できないことは手放す。

二千年前の奴隷だった哲学者の言葉が、妻のモヤモヤを静かに溶かしたようでした。

アトリエの窓の外では、冷たい秋の風が木々の葉を揺らしていました。


凡人夫の備忘録。アーティスト妻の歩み

地方の無名アーティストの妻が、東京に挑戦するまでの話。
シーズン1から、全部読めます。

独立して、迷って、それでも描く。
正解のない日々を歩くシーズン2はこちら。

生活と、創作。
泥臭い日々の記録、最新のシーズン3はこちら。

初めての個展を経て、外の世界と繋がり、
泥臭く価値を証明していくシーズン4(共鳴編)はこちら。

自己表現を確立し、他者と深く繋がっていく、
最新のシーズン5(対話と確立編)はこちら。



アーティストHannaの現在

妻の作品はコチラで見れます。
https://www.instagram.com/hanna.iwanuma


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