「調べる」という行為の奥にある、仮説を立てる知性
2022年10月19日。
保育園への送りみちで、4さいの娘がフェンスの白いシミを指さしたとき、妻のHannaは言いました。
「それ、鳥のうんちだから汚いよ」
娘の手をひきながら、妻は平然と続けました。
「鳥ってね、ぼうこうがないから、おしっことうんちをいっしょにしちゃうんだよ」
ぼくはその話を聞いておどろきました。
「なんでそんなこと知ってるの?」
「娘を送る途中にスマホでしらべたの」
妻は笑いながら言いました。
「体を軽くして飛ぶために、おしっこをためる袋がないんだって。だから我慢できないらしいよ」
アーティストで感覚派にみえる妻には、おどろくほど「しらべるクセ」があります。
わからないことがあったら、その場ですぐにしらべる。
あいまいにしない。
それは、彼女のアートワークにも深くつながっていました。
先日、オーダーメイドの絵のカウンセリングで、あるお母さんから話をききました。
「うちの息子、なぜか月に吠える狼の少年にあこがれているんです」
つまはアトリエにもどると、すぐに狼についてしらべ始めました。
オオカミの一般的なイメージは、どうもうで、一匹で行動する孤高の存在です。
しかし、しらべてみると現実はまったくちがっていました。
オオカミは、家族を中心とした数匹の群れで行動する。
一夫一婦制をつらぬき、夫婦のきずなはきわめて強い。
獲物を捕まえると、まずつまに差し出す。
パートナーが先に死ぬと、悲しみのあまり、後をおうように死んでしまうオオカミもいる。
「オオカミって、すごく家族思いなんだよ」
つまはアトリエの机にむかい、鉛筆で下絵をかきながら言いました。
「ただかっこいい狼じゃなくて、家族を静かに見守る狼をかきたい」
アジサイの色が土の酸性度でかわることも、誕生花のせいしつも、つまはいつも徹底的にしらべます。
ぼくにとっての「検索」は、ただのファクトチェックや合理的な判断の道具です。
しかし、つまにとってのそれは、描く対象の「命の輪郭」をつかむための、最初の手続きのようでした。
帰りみち、今週になってまいにちすれ違う、上品な老夫婦と目が合いました。
おじいちゃんとおばあちゃんが、娘に手をふってくれます。
「行ってらっしゃい」
振り返って二人の後ろ姿を見送るつまの背中を、ぼくは少し離れてながめていました。
凡人夫の備忘録。アーティスト妻の歩み
地方の無名アーティストの妻が、東京に挑戦するまでの話。
シーズン1から、全部読めます。
独立して、迷って、それでも描く。
正解のない日々を歩くシーズン2はこちら。
生活と、創作。
泥臭い日々の記録、最新のシーズン3はこちら。
初めての個展を経て、外の世界と繋がり、
泥臭く価値を証明していくシーズン4(共鳴編)はこちら。
自己表現を確立し、他者と深く繋がっていく、
最新のシーズン5(対話と確立編)はこちら。
アーティストHannaの現在
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