変化し続ける自分を、そのままキャンバスにうつしだす
2022年10月24日。
リビングのソファで、我が家の愛犬ボストンテリアの「ラフ」が爆睡しています。
ときおり、鼻をフガフガと鳴らしながら、まるで小さな豚のような高いいびきを立てていました。
妻のHannaはスマートフォンを持って、静かなとなりの部屋へ移動していきました。
来週にひかえたイベント出展にむけて、音声で宣伝を収録するためです。
週末、「金蛇水神社」で行われるオータムフェスタに出展します。
木製のキーホルダーづくりのワークショップや、デジタルアートの出店準備。
夫婦二人での出店にむけて、妻はアトリエでヤスリがけをしながら準備を進めていました。
再来週にも別の駅前イベントがひかえており、慌ただしい日々が始まろうとしていました。
昨日、車での移動中にFall Out Boy(フォール・アウト・ボーイ)の初期のアルバムが流れていました。
ぼくたちが知り合ったきっかけは、音楽でした。
20代のころにバンド活動をしていたぼくのライブのあと、ぼくがはたらいていた飲み屋に、友達と客として入ってきたのが妻でした。
音楽の好みが似ていたことから、CDの貸し借りや、ライブに遊びにきてくれるようになり、交際が始まりました。
カーステレオの古いメロコアをききながら、妻が言いました。
「このころの曲、すごく青臭いね」
次のアルバムにうつると、すこしセクシーな大人っぽさが増し、最近のアルバムでは極めて洗練されたサウンドにかわっています。
「良い悪いじゃなくて、そのときの等身大の感情がそのまま音楽に出ているんだね」
妻はしみじみとそう呟きました。
それは、妻のアート活動にも言えることでした。
先日、アトリエの整理をしていたとき、一年前の作品を次々とゴミ袋にいれようとしていました。
「これ、今見ると本当に恥ずかしい。なんでこんなタッチで描いてたんだろう」
昔の自分の絵を見るのが耐えられない様子でした。
「もったいないよ。これはこれでいい味があるのに」
ぼくは思わず手をのばして、ゴミ袋から絵を取り出しました。
画材も、絵の具も, タッチも、一年で大きくかわりました。
今の彼女から見れば、かつての作品は技術的にも拙く見えるのかもしれません。
それでも、そのときの作品を「これがいい」と言って購入し、大切に飾ってくれている人たちがいます。
当時の等身大の自分が生み出した表現を、自分自身が恥じてはいけない。
その積み重ねがあって、今の表現にたどり着いたのだから。
「そうだね。あのときがあったから、今があるんだよね」
妻はゴミ袋から絵を受け取り、棚の奥へと静かに戻しました。
ラフがまた、別の部屋からフゴフゴと低い鼻息を鳴らしながら歩いてきました。
窓の外の空気は、急に冬の冷たさを帯び始めていました。
凡人夫の備忘録。アーティスト妻の歩み
地方の無名アーティストの妻が、東京に挑戦するまでの話。
シーズン1から、全部読めます。
独立して、迷って、それでも描く。
正解のない日々を歩くシーズン2はこちら。
生活と、創作。
泥臭い日々の記録、最新のシーズン3はこちら。
初めての個展を経て、外の世界と繋がり、
泥臭く価値を証明していくシーズン4(共鳴編)はこちら。
自己表現を確立し、他者と深く繋がっていく、
最新のシーズン5(対話と確立編)はこちら。
アーティストHannaの現在
妻の作品はコチラで見れます。
https://www.instagram.com/hanna.iwanuma
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