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年金積立金は294兆円。それでも「余裕はない」と言われるのが、どうしても腑に落ちません

294兆円あって、なぜ「足りない」ことになるのか

手取りが増えません。物価は上がっているのに、給与明細の差引支給額はほとんど変わらない。同じことを感じている方は多いと思います。

そんな中、こんなニュースが流れてきます。年金積立金を運用するGPIFが、2025年度に41兆円の運用益を出した。運用資産額は過去最高の293兆円になった、と。

素直に思いました。

「そんなに貯まってるなら、もう少し現役世代に回してくれてもいいんじゃないの?」

ところが国の説明では、この294兆円近いお金は「まったく余裕がない」ことになっています。私はここがどうしても腑に落ちません。今回はその話をします。


「1年分を残さないといけない」というルール

なぜ余裕がないのか。国の年金財政のルールは、こうなっています。

  • おおむね100年間で財政の帳尻を合わせる

  • その100年が終わった時点で、給付費1年分の積立金を残しておく

2004年の年金改正で決められた枠組みです(厚生労働省「令和6年財政検証結果の概要」)。

年金の給付総額は、いま年間で58兆円ほど。つまり「100年後にも60兆円くらい残しておけ」というルールです。

そう言われると、なんとなく「なるほど、備えは必要だよな」と思ってしまいます。でも、少し立ち止まって考えてみてください。

100年後です。2126年です。

そのころ日本という国がどうなっているのか、人口が何人なのか、そもそも今の年金制度が存在しているのか。誰にもわかりません。誰にもわからない時点の残高を、いまの負担額の根拠にしている。私はこれを、かなり奇妙なことだと思います。


山を越えるだけなら、100年もいらないはずです

しかも、年金財政が本当に苦しくなる時期は、実はかなり正確に読めます。

団塊ジュニア世代——1971年から74年に生まれた、人口の多い世代です——が高齢者として給付を受ける時期。ここがピークです。だいたい2040年代後半から2060年代にかけて。人口の予測は、経済の予測と違って、そう大きくは外れません。もう生まれている人の数を数えるだけですから。

ということは、この山を越えることが目的なら、「30〜40年後」を目標に計算すれば足りるはずです。

そして、そう設計すれば選択肢が変わってきます。ピーク時に積立金を集中的に投入する。その代わり、いまの現役世代の負担を軽くする。積立金は「将来のために貯めるもの」であると同時に、「ピークを乗り切るために使うもの」でもあるはずです。

ところが「100年後に1年分」という条件を先に置いてしまうと、この選択肢は検討の入り口で消えます。計算する前から答えが決まっているわけです。


しかも、前提は「成長しない日本」

もうひとつ引っかかることがあります。

将来の計算をするには、経済がどうなるかを仮定しなければいけません。2024年の財政検証では4つのケースが示されましたが、実際に議論のベースとして扱われているのは「過去30年投影ケース」というものです。

これがどういう前提かというと、実質経済成長率がマイナス0.1%。つまり、この先ずっと日本経済は縮んでいく、という想定です。しかもこれが「手堅い前提」として通っている。

もちろん、慎重に見積もること自体は悪いことではありません。想定より悪くなったときに「話が違う」と責められるより、堅く見ておいたほうが行政としては安全です。それはわかります。

でも、その安全マージンには代金がかかっています。そして、その代金を払っているのは誰か。


誰がコストを払っているのか

厚生年金の保険料率は18.3%です。これは2004年の改正で「ここまで上げて、あとは固定する」と決めた水準で、2017年9月から動いていません。

つまり「上限は固定しました」というのが国の言い分です。たしかにその通りです。でも私が言いたいのはこういうことです。

その18.3%という上限は、2004年に決めた数字です。

あれから20年以上が経ち、積立金は当時の想定を大きく上回って増えました。運用も好調です。だとすれば、「上限を固定した」で話を終わらせず、その上限そのものを見直す議論があってもいいのではないか。

さらに言えば、負担は保険料だけではありません。将来の給付も削られる予定になっています。財政検証によれば、基礎年金の水準は、物価で割り戻すと月6.7万円から5.35万円まで、およそ2割減る見通しです。

高い保険料を払い続け、そのうえ受け取る額は2割減る。その一方で積立金は過去最高を更新し続けている。この構図に納得できるかというと、私はできません。


「余裕がない」は、本当に事実なのか

整理すると、こういうことです。

「100年後まで見る」という長すぎる期間と、「成長しない日本」という前提と、「1年分を残せ」というルール。この3つを重ねれば、どんなに積立金があっても「余裕なし」という答えが出ます。当たり前です。そう計算しているのですから。

問題は、その「余裕なし」が、いまの負担を正当化する根拠として使われていることです。

そしてもうひとつ怖いのは、過剰な負担が現役世代の消費を冷やせば、それ自体が経済を縮ませるということです。「成長しない日本」を前提に負担を重くして、その結果として本当に成長しない日本ができあがる。だとしたら、これは予言ではなく自己成就です。

実際、この「積立金を誰のために使うか」という話は、すでに政治の場に上がっています。2025年6月に成立した年金改革法では、厚生年金の積立金を使って基礎年金の目減りを止める案が柱として準備されながら、一度は「理解が得られない」として削除され、その後に付則という形で戻されました。私たちが知らないうちに、かなり際どいところを通っていたわけです。


みなさんはどう思いますか

私は、年金制度そのものを否定したいわけではありません。備えは必要ですし、簡単に取り崩していい財布でもないと思います。

ただ、100年後の帳尻と、いま生きている人の生活と、どちらを優先するのか。 これは計算で決まる話ではなく、価値判断です。それが「シミュレーションの結果です」という顔をして出てくることに、私は違和感があります。

294兆円という数字を見て、みなさんはどう感じましたか。「よく貯めた」でしょうか。「なぜ使わない」でしょうか。

コメント欄で聞かせていただけたら嬉しいです。


この記事で使った数字の出典

  • 積立金293兆6,437億円/2025年度の運用益41兆3,995億円 GPIF「2025年度の運用状況」 https://www.gpif.go.jp/operation/the-latest-results.html

  • 「おおむね100年」「給付費1年分」のルール/経済前提の4ケース/基礎年金の見通し 厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/001270476.pdf

  • 年金給付総額58兆3,311億円(令和6年度末) 厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」 https://www.mhlw.go.jp/content/001617995.pdf

  • 厚生年金保険料率18.3%(2017年9月以降固定) 日本年金機構 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html

  • 基礎年金が月6.7万円→5.35万円になる試算/2025年改正の経緯 東京財団政策研究所「2024年財政検証を読み解く」 https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4543 同「2025年の年金改正のポイント」 https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4622

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