蛍の飛ぶ夜に思う あの人は蛍になって毎年会いに来てくれるのだろうか
音さえも吸い込んでしまいそうな夜に、スーッと小さく灯る。
灯ったと思えば消える。
淡い光はそれをくり返しつつ、深い闇をさまよっていく。
まるでホタルが、短い命の儚さを知りながら、それでも飛ぶことで燃え尽きようとするかのように。
子供の頃、油を採るために菜種を栽培していた。
種を落とした茎を何本か集め、結わえてほうきのかたちにする。
それを長い竿の先にくくりつけて、ホタル取りに出かけた。
捕まえたホタルを、ガラスの瓶に入れる。
部屋を真っ暗にして、枕元に置いて眠る。
そこだけほのかにあかりが灯り、夢の中へと入って行ける。
蓋の隙間から逃げ出したホタルが、一匹、二匹、部屋の闇を舞っていた。
朝目が覚めると、ホタルはすべての光を放ち終えたように、息絶えていた。
子供心にも、夢が消えたような、胸のうずきを覚えた。
Yさんは、子供の頃に母親と見たきりだと言っていた。
今ではもうホタルなんて飛ばない、と。
それなら届けてあげようと、私は冗談めかしに言った。
Yさんの部屋をホタルでいっぱいにして、帰りを待っていてあげよう、と。
そしたら私もホタルになると、Yさんは笑った。
そんな子供じみた話をしていたのに、ホタルを届けてあげられないまま、
Yさんはいなくなった。
一人になってしまったと、最後にただ一言残して。
飛び疲れたホタルのように、私の中に光を放って消えていったYさん。
永遠に消えることのない光を、手に入れたのだろうか。
ホタルになって、毎年会いに来てくれるのだろうか。
Yさんのさみしい心のように、ホタルはそれでも、あかりを灯す。
ホタルの飛ぶ夜は、Yさんを思い出す。

