第3回:楽天市場、二正面から包囲される──Amazon×LINEヤフーの新戦略
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楽天市場の競争環境が大きく変化
2026年8月。楽天市場を取り巻く競争環境が、静かに、しかし確実に変わり始めている。
これまで国内ECの競争は「楽天 vs Amazon」という二項対立で語られることが多かった。
しかし2026年に入り、もう一つの巨大プレイヤーが本格的に動き始めた。
Amazon──購買直前を押さえる存在
LINEヤフー──購買前の日常接点を押さえる存在
楽天市場は今、この二方向から挟まれる構図になりつつある。
1.Amazonは「検索」から「購買完結」へ進化した
Amazonは物流とAIで“購買の入口”を奪いに来た。
7月のプライムデーでAmazonは初めてApple製品をセール対象に加え、3百万品目・4日間という過去最大規模のイベントを実施した。AIショッピングエージェント「Alexa for Shopping」との組み合わせで、「Amazonで何でも揃う」という体験はさらに強化された。
しかし、本当の脅威はセールではない。
Amazon Supply Chain Services(ASCS)──物流版AWSの誕生
2026年5月、Amazon(米)は自社EC専用に磨き上げてきた物流インフラを外部事業者にも開放した。UPSとFedExの株価が発表当日に約10%前後急落したことが示す通り、これは物流業界の構造を変える一手だ。
楽天への影響は直撃だ。
楽天スーパーロジスティクス(RSL)で出店者を囲い込んできた戦略が、根本から揺らぎかねない。
Buy for Me──購買の入口をAmazonに固定する
さらにAmazonは「Buy for Me」を本格展開。
Amazonアプリ内で検索した商品が楽天市場の出店者のものであっても、Amazonに登録した支払い情報を使い、外部サイトで自動購入できる。
ユーザーはAmazonアプリを離れない。つまり、購買の起点がAmazonに固定される。
購買がAmazonを経由すれば、広告収益もデータもAmazonに集まる。
楽天のSPUやポイント経済圏は「楽天で買う」ことで初めて成立する。
入口を奪われれば、経済圏は静かに空洞化していく。
AWSのセミナーで語られた言葉は象徴的だ。
エージェンティック・コマース──AIが人間の代わりに買い物する時代
Amazonはこの波を利用し、自社のウォールドガーデンをさらに強固にしている。
2.もう一方から迫るLINEヤフー──生活接点の巨大化
楽天市場にとって、もう一つの脅威がLINEヤフーだ。
2026年9月、Yahoo!ショッピングは出店プランを刷新し、 LINE・PayPay・Yahoo! JAPAN・AIを組み合わせた新しいEC導線を本格展開する。
ここで重要なのは、Yahoo!ショッピング単体ではなく、LINE × Yahoo! JAPAN × PayPay × AI という生活接点の組み合わせである。
LINEヤフーは「ECサイトに来てもらう」のではなく、 日常の中に商品との接点を埋め込む発想で動いている。
3.LINEヤフー:9,700万人の生活導線をECに変える
一方、LINEヤフーは「生活接点」を武器に楽天を外側から包囲している。
Agent i × ショッピングレンズ──“探す前に提案される”世界
統合AIエージェント「Agent i」は、
商品検索 -広告設定 -レポート作成 を全自動で行う。
7月にはビジュアル検索「ショッピングレンズ」を追加し、 8月には企業向け「Agent i Biz」を提供開始。 「トラフィックはあるが購入に至らない」と入力するだけで、AIが広告運用を最適化する。
LINEショッピングタブ──9,700万人の入口をEC化する
9月、LINEアプリ内に「ショッピングタブ」が正式公開される。
LINEの月間9,700万人が、アプリを開いた瞬間に3億点の商品と出会う。
LINEヤフー幹部が掲げるビジョンは明確だ。
探す前から欲しいものが提案されている状態
ECを「意識的に開くアプリ」から「生活の延長」に変える狙いだ。
Yahoo!ショッピングの有料化──中堅出店者の大移動が起きる
2026年9月、12年間続いた出店無料モデルが終了し、
月額1万円
売上ロイヤリティ2.5% が新設される。
ただし見返りとして、LINE経由の流入が開放される。
運営側によれば、LINE経由の流入の約90%が新規顧客になる。
楽天がまだリーチできていない「ECライト層」を、Yahooが先行して取り込もうとしている。
4.楽天市場の競争相手は“モール”ではなくなった
これからのEC競争は、
商品を売る場所の競争ではなく、購買行動そのものをどこまで支配できるかの競争
になる。

楽天は「経済圏」という強力な資産を持つ。
だからこそ、戦略は「Amazon対策」だけでは不十分だ。
5.楽天市場は“経済圏”から“購買OS”へ進化できるか
楽天市場が次に取り組むべきは、 楽天経済圏を購買OSへ進化させることだ。
検索 → AI提案 → 比較 → レビュー → 購入 → 配送 → ポイント → 購入後コミュニケーション → 関連商品の提案 → リピート → カード・銀行・ペイとの連携
この一連の体験を、楽天IDでつなぐ。
ここまでできれば、楽天市場は「モール」ではなくなる。
6.見るべきKPIは“売上”ではなく“顧客LTV”
競争が「顧客の囲い込み」に変わるなら、見るべき数字も変わる。
新規獲得 → F2転換 → 購買頻度 → 客単価 → クロスセル → 経済圏利用 → LTV
つまり、
今日いくら売れたかではなく、今日獲得した顧客が3年後にいくらの価値を生むか
を見る必要がある。
ここに楽天の勝機がある。
7. 著者の立場としての見解
私は楽天市場の事業管理に携わる立場として、AmazonとLINEヤフーの動きを「競合施策」ではなく、EC産業の構造転換として捉えている。
AIエージェントが購買を代行し、物流がクラウド化し、生活導線がEC化する世界では、従来の「ポイント還元」「広告運用」だけでは購買習慣を守れない。
楽天市場が向き合うべき本質は、
“楽天で買う理由を、構造として再設計できるか”
である。
購買OSとしての楽天経済圏を再構築できるかどうか。
その意思決定の質が、これからの10年を決めると私は考えている。
結論──楽天市場は「モールの王者」であり続けられるか
Amazonは、「欲しいから買う」を取りに来る。
LINEヤフーは、「欲しいと思う前から接点を持つ」方向へ進む。
楽天市場は、「買った後まで顧客をつなぎ続ける」ことができる。
この3つの競争になる。
したがって、楽天市場の最大の戦略課題は、
Amazonに勝つことでも、Yahoo!ショッピングを追い抜くことでもない。
楽天経済圏そのものを、
「顧客が商品を発見し、比較し、購入し、再購入するまでの購買OS」
へ進化させることだ。
2026年9月。
LINEヤフーのYahoo!ショッピング新プランが始まる。
そのとき、楽天市場が見るべき数字はGMVだけではない。
新規顧客数。
F2転換率。
購入頻度。
顧客LTV。
楽天経済圏利用率。
そして、AI経由の購買比率。
ECモールの競争は、「どこで買うか」から、
「誰が購買行動そのものを押さえるか」へ変わりつつある。
楽天市場にとって、これは単なる競争激化ではない。
事業モデルそのものを再設計するタイミングである。
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