意匠出身の私が「熱の伝わり方」で最初につまずいた話
設備設計に携わり始めた頃、空調の教科書を開いて最初に出てくるのが「熱伝導・対流・放射」の話だった。言葉は知っていたし、断熱材のカタログで「熱伝導率が低い=断熱性が高い」くらいの理解はあった。省エネ基準の適合判定で「U値がいくつだから断熱等級いくつ」という話もしていた。ただ、そのU値がどう計算されているかは正直ブラックボックスだった。
問題が訪れたのは、空調負荷計算書を初めて読んだとき。「熱貫流率」「熱伝達率」「熱抵抗」が並んでいて、どれがどの話をしているのかわからない。とくに「熱伝達率」と「熱伝導率」は名前が一文字違いで、何度読んでも混同した。
「壁の断面図を描いてみろ」
先輩にそう言われて、RC造外壁の断面を描いた。外気→モルタル→コンクリート→断熱材→石膏ボード→室内空気。
熱の流れを書き込むと、壁を通る熱は3段階で移動すると見えてきた。外気から壁表面への「熱伝達」、壁の内部を通過する「熱伝導」、内壁表面から室内空気への「熱伝達」。この全体が「熱貫流」だ。
ここで混乱が解けた。「熱伝導率」は壁の中身、「熱伝達率」は壁の表面と空気の境目、「熱貫流率」は全部まとめた壁全体の話。似た名前の指標が「壁のどこを見ているか」で区別されるとわかったら、計算式の意味も読めるようになった。
計算して受けた2つの衝撃
実際にU値を計算してみて衝撃を受けた。コンクリート150mmの熱抵抗は壁全体のわずか7%。断熱材たった25mmが全体の77%を占めていた。断熱性能はほぼ断熱材だけで決まっている。打放しコンクリートの建物がなぜ夏暑く冬寒いのか、数字で腑に落ちた。
さらに衝撃だったのが窓。断熱材入り外壁のU値が約0.7なのに、単板ガラスは6.0。約8倍も熱が逃げやすい。しかも窓には温度差の貫流だけでなく、日射が直接透過して入ってくる熱もある。意匠設計のときは「窓を大きく取りたい」と自然に考えていたけれど、設備側から見ると窓が大きい=空調負荷が大きい=機器もコストも膨らむ、と直結する。窓の面積と方位は、意匠設計者が空調コストを左右できる最大のレバーだと実感した瞬間だった。
放射は「特別な話」ではなかった
3つの伝熱のうち、一番腑に落ちるのが遅かったのが放射だ。「電磁波で伝わる」と言われても、建物の中での実感がなかった。
転機は、表面熱伝達率の内訳を知ったとき。室内側の表面熱伝達率は対流と放射の合算で、実は半分以上が放射の成分。壁表面の熱のやり取りは、空気の対流よりも放射の方が大きい。放射は太陽だけの話ではなく、室内の壁同士の間で常に起きている日常の現象だった。Low-Eガラスが断熱に効く理由もここにあって、ガラス表面の放射率を下げることで放射による熱移動を抑えているのだと知って、ようやく放射が自分の実務と地続きになった。
意匠設計者にこそ知ってほしい
断熱材の納まりを決めるのも、窓の大きさや方位を決めるのも意匠設計者だ。「U値が高い=熱が逃げやすい」「西面の窓が冷房負荷を左右する」——この感覚があるだけで、設備設計者との打合せの質はまったく変わる。
意匠出身で設備を学んだからこそ、両者の間にある「溝」の存在を知っている。同じような立場で設備を学び始めた人に、少しでもショートカットを提供できたらと思って書いている。
熱伝導率・熱伝達率・熱貫流率の計算方法や材料別の数値は、ブログ記事で網羅的にまとめています。
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