「10万円のマンション」を買ってはいけない。苗場リゾートマンションが教える、管理組合崩壊の末路
新潟・苗場エリアで起きていることは、日本中のマンションが数十年後に直面する問題の先行事例だ。
不動産投資の世界に「タダ同然で買える物件」がある。新潟・苗場のリゾートマンションだ。売値10万円、しかも買い手がつかない。
なぜか。
答えは単純で、安さの意味が普通の不動産とまったく違うからだ。

価格崩壊の実態——同じ「湯沢」でも、天と地ほどの差がある

まず誤解を解いておきたい。
「湯沢のマンションが暴落している」という話を聞いたことがある人は多いかもしれないが、正確ではない。暴落しているのは苗場エリアであり、越後湯沢駅周辺のマンション市場は今も正常に機能している。
越後湯沢駅周辺であれば、新幹線アクセスがあり生活インフラも整い、テレワーク移住や二拠点生活の需要もある。
一方、苗場は駅から雪道で約20km。生活利便施設はほぼなく、スキー以外の使い道が見出しにくい立地だ。「湯沢のリゾマン問題」は、実態としては「苗場の問題」である。
なぜ安くなったか——需要が消えた後に残るもの

1998年に1,800万人いたスキー人口は、2020年にはスノーボードを含めても430万人にまで落ち込んだ。需要がなくなれば価格が下がる、それだけの話ではある。問題はその後だ。
需要が消えた後も、マンションという構造物は残る。そして区分所有法という制度の下、所有者は年間固定資産税を払い続け、管理費・修繕積立金を毎月納め続けなければならない。
【具体例:苗場 107㎡・3LDKの場合】
販売価格400万円に対し、管理費48,240円+修繕積立金10,720円で月約6万円のランニングコスト。年間72万円、5年で360万円。購入価格を数年で超える負担が続く。しかも修繕積立金は㎡あたり100円と不足しており、将来の大規模修繕に耐えられない水準だ。
つまり「10万円で買える」とは「初期費用が安い」というだけで、保有コストの重さはまったく変わらない。むしろ、物件価値がゼロに近いほど「出口がない」という点で、持ち続けることのリスクが際立つ。

差し押さえで回収できるか——管理組合の努力の限界
管理費の滞納が増えると、管理組合は法的手段に訴える。差し押さえ、競売。理論上は正しい。しかしここに、費用対効果という現実の壁がある。
10万円の物件を巡る訴訟に弁護士費用と裁判費用をかけると、回収できる管理費滞納額よりコストが上回るケースが多い。競売にかけても落札されなかったり、落札価格が訴訟費用を下回ったりする。

悪循環の構造は上記の図で示した通り。
滞納の発生(高齢化・無関心・相続放棄。1棟で累積7,200万円超の事例も)
法的手段の限界(競売・差し押さえを試みるが、物件価値が弁護士費用を下回る)
費用倒れ・放置(管理組合が回収を断念。管理費が枯渇し、インフラが停止)
スラム化・廃墟化(エレベーター・水道停止。さらなる退出者を招き、悪循環が加速)
真面目に払い続けている所有者が損をする構造。
これが管理費滞納問題の本質だ。
「インバウンドで再生できる」という幻想

苗場エリアへの投資を検討する人がよく口にする論拠がある。
「外国人スキー客の増加で地価が上がるのでは」というものだ。
インバウンドのスノーリゾート需要は確かに急拡大している。
ただし、苗場はインバウンド人気スキー場ランキングで9位。上位はGALA湯沢・岩原・白馬であり、雪質ブランド(いわゆる「ジャパウ」)では北海道や白馬に劣る。
苗場プリンスホテルは外国人宿泊客の増加に成功しているが、その恩恵はホテルに留まり、周辺リゾートマンションには届いていない。
なお、湯沢エリア全58棟のうち、管理規約で民泊が許可されているのはわずか2棟。仮に許可が取れても、稼働率は冬(約90%)と夏(約20%)で大きく偏り、固定費を考慮した実質利回りは1〜3%程度に沈む。
もうひとつの楽観論
「フジロックがあるから大丈夫」という声もある。
苗場スキー場は1997年から毎年フジロック・フェスティバルの会場となっており、開催期間中は周辺の宿泊施設が軒並み満室になるほどの集客力がある。
実際、一部のリゾートマンションでは管理組合がゲストルームをフジロック期間中に貸し出したり、個人所有者がマッチングサイトで部屋の利用権を売ったりする動きもある。
ただし、これを「所有する理由」として考えると、数字が成立しない。
フジロックは年1回・3〜4日間のイベントだ。仮に部屋を貸し出せたとしても、得られる収益は数万円程度。月6万円の維持費(管理費+修繕積立金)が12ヶ月かかる年間72万円の負担には、到底届かない。
インバウンドのスキー需要と同様、フジロックの恩恵も「ホテルや民宿が受け取るもの」であり、個人の区分所有者が収支を改善できるほどの規模感ではない。「年に数日の需要」で「年間数十万円の固定費」を正当化することはできない。
解体できないのか——区分所有法という制度の壁

では、いっそ解体して更地にすればいい。そう思うのは自然だが、区分所有法がそれを阻む。建て替えには所有者の5分の4以上の賛成が、解体・区分所有権の解消には原則として全員同意が必要だ。
数百戸のマンションで全員合意は現実的でない。高齢・認知症・海外在住・所在不明の所有者が数人いるだけで計画は止まる。
【唯一の成功事例:「マンション苗場」(30戸・1975年築)】
所有者の一人が2014年に動き出し、5年間をかけて28名の所有者を追跡・説得。たまたま解体費用(3,500万円)に相当する積立金が残っていたという極めて稀な条件が揃い、解体・敷地売却を実現した。この事例が示すのは、「不可能ではないが、数百戸規模では現実的に再現不可能」という残酷な事実だ。
この問題は、苗場だけの話ではない

苗場のリゾートマンションを「特異な事例」と見るのは誤りだ。
老朽化による資産価値低下→空室増→管理費滞納→スラム化というメカニズムは、条件さえ揃えば都市部の居住用マンションでも等しく発生する構造的な欠陥だ。
2017年末時点で約73万戸だった築40年超のマンションは、2037年末には約350万戸に膨らむと予測されている。苗場は「数十年後の日本のマンションが辿る未来」の先行事例として読める。
管理組合が機能していることの、圧倒的な価値

苗場の事例が突きつけるのは、管理組合の機能不全がいかに取り返しのつかない事態を招くか、ということだ。
滞納が始まる前に手を打てるか。
修繕積立金が本当に足りているか。
所有者の当事者意識を維持できているか。
これらは「できれば取り組みたい」話ではなく、マンションの資産価値を維持するための最低条件だ。
苗場のマンションも、バブル期には億を超える価格で取引されていた。
それが10万円になるまでに、管理組合に何が起きていたか——その問いは、今まさに管理組合を運営しているすべての人に向けられている。
本コラムで取り上げた「管理費滞納の連鎖」「修繕積立金の不足」「意思決定の機能不全」は、マンション管理における透明性と情報共有の欠如から生まれる。
こうした課題を仕組みとテクノロジーの力で解決することを目指して、SOLCUBE Cloudを開発した。苗場は「放置した先の未来」として、その必要性を端的に示す事例だと思っている。
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