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古代ギリシアと英単語① ポリス以前~アテナイ誕生(前1600年頃~前700年頃)

こんにちは。森倉健斗です。
今回はいつもと少し趣向を変えて、古代ギリシア、特にポリス・アテナイの歴史の視点から関連する英単語を解説してみたいと思います。流石に一つの記事にすると長すぎるので、いくつかに分けて書いていきます。

今回はポリス以前~アテナイ誕生(1600年頃~前700年頃)です。


ポリス以前~暗黒時代(前1600年頃~前800年頃)


皆さんは「古代ギリシア」と聞いて何を思い浮かべますか?
ゼウスを最高神とするオリュンポス12神、「トロイの木馬」で有名なトロイア戦争、アキレス腱の語源であるアキレウスの物語、はたまた星座などでしょうか。

おそらく多くの人が思い浮かべるのは神話に関するものだと思います。この「ギリシア神話の世界」は想像の産物ではなく、ミケーネ時代(前16世紀~前12世紀)の社会をモデルとしています。この社会は最上位に神聖な王(ウァナックス)が君臨しつつ、世俗における政務は別のリーダー(クァシレウス)が担当し、その下に様々な人々が従属する首長制社会でありました。実はこの時期に民主政が生まれた「ポリス」は未だ存在していないんです。

この首長制社会は前1200年頃突然終焉を迎えることとなります(前1200年のカタストロフ)。ここから古代ギリシアは文字史料のない暗黒時代(あるいは初期鉄器時代、前1200年頃~前800年頃)に突入します。この時代については、文字史料がないためよくわかっていないのですが、この時代の終わりごろに東方のフェニキア人から文字を取り入れたことは重要です。フェニキア文字の1番目は「アレフ」と、2番目は「べート」という名前でした。これがギリシア語では「アルファ(α)」と「ベータ(β)」という名前で借用されました。我々が現代でも使用するa,b,c…の文字体系のことをAlphabet(アルファベット)と呼ぶのはこのような背景に由来します。

アテナイ誕生(前800年頃~前700年頃)


暗黒時代を過ぎると、ミケーネ時代とは全く違う世界が誕生しつつありました。これが本記事のテーマである「ポリス(πολις)」が歴史の主人公となる世界です。


初期ポリスのイメージ



ポリスは日本語ではしばしば「都市国家」と訳されます。「都市国家」とは「一つの都市が一つの独立した政体として機能している形態」のことです。簡単に言えば、「都市を中心に形成された国家」のことです。しかし都市は周辺の田園部も領有しており、都市に居住する農民たちは毎日朝に田園部に出かけては耕作をし、日が暮れると都市へと帰るといった生活を送っていました。古代ギリシア人にとってこの「ポリス」は最も大切なコミュニティ(共同体)であったため、積極的に行政・治安維持に貢献しようとしました。この精神は「政策・方針」を意味するPolicy、「政治」を意味するPolitics、「警察」を意味するPoliceに引き継がれています。(ちなみに他にも、「墓地」を意味するNecropolisはNecros(死者)+Polis(都市)、「大都市」を意味するMetropolisはMeter(母)+Polis(都市)の合成語だったりします。)

このポリスにおいては、現代のように「一人ひとりの個人」が社会の主役ではありませんでした。「家(ファミリー)」という一つの小さなチームが、社会を形作る最小のパーツだと考えられていたのです。この「家(家族、奴隷、財産などをすべて含めたまとまり)」のことを、古典ギリシア語で「オイコス(οικος)」と呼びます。それ故、オイコスの運営は非常に重要で、古代ギリシア人にとって関心のあるテーマでありました。この「オイコスの運営」のことを古典ギリシア語で「オイコノミア」といい、紀元前4世紀の作家クセノフォンは『オイコノミア』という作品の中で、理想の家政論を述べています。この「オイコノミア」の概念を近代の学者が拡大して生み出した英単語がEconomy(経済)です。ここでは国家が一つの「オイコス」と見なされているわけです。


さて、ポリス・アテナイの初期政体は、生まれながらにして特権を許された貴族が参政権を独占する貴族政でした。貴族政のことを古典ギリシア語では「アリストクラティア(αριστοκρατια)」といいます。これは「最も良い(生まれの)者」を意味するアリストス(αριστος)と「統治・支配」を意味するクラトス(κρατος)の合成語です。これが後に英語に流入するとAristocracyとなり、「貴族政治」を意味するようになります。

初期アテナイには、最も重要な役職として、アルコン(執政官)、バシレウス(祭祀官)、ポレマルコス(軍事令官)がありましたが、これらの任期は終身でした。しかし、時を経るとともにその任期は短くなり、最終的に1年となります。さらにここに司法官である6人のテスモテタイが追加されます。役職の任期が設けられ、また権力の分化が始まったことで、アテナイは民主政への歩みを進めていきます。この9人のことを広義のアルコンと呼びます。ちなみに、ポレマルコスはポレモス(πολεμος)「戦争」とアルコス(αρχος)「指導者」の合成語で、英単語Polemic「論争」は前者に由来します。

今回はここまで。次回は前632年にアテナイ社会を動揺させたとある事件から始めたいと思います。アテナイはどのような経緯を経て民主政にたどり着いたのか。またどんな英単語と関連があるのか。乞うご期待!
またお会いしましょう!χαῖρε!(さようなら!)


参考文献
伊藤貞夫(2004)『古代ギリシアの歴史』、講談社学術文庫(底本は1976年)。
桜井万里子編(2005)『ギリシア史』、山川出版社。
桜井万里子・本村凌二(2010)『ギリシアとローマ』、中公文庫(底本は1997年)。
周藤芳幸(1997)『ギリシアの考古学』、同成社。
橋場弦(2022)『古代ギリシアの民主政』、岩波新書。



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