掌編小説)お国言葉
『最近の若い奴は何を考えているのか意味がわからんよ。これだけ話が通じないと宇宙人と話をしているみたいだ』
課長がイライラとしながら話していた。
課長も色々と溜まってんだろうなぁって思いながら、枝豆を口に運ぶ。
御時世で酒の提供が禁止され、飲めないものだからって皆んなはご飯物を頼んでいた。
自分は好き嫌いが多くてあまり食べない事もあって、枝豆をかじりながら烏龍茶をすすっていた。
どうせ飲めないなら、居酒屋じゃなくて普通の飯屋に連れて行ってくれたらいいものを…。
課長も店を知らないのか結局、馴染みの居酒屋でって…。
親睦会なんてのは名ばかりで、いつも課長の愚痴を散々聞かされるだけのつまらない飲み会だ。
付き合いとはいえ、皆んなよく律儀に顔を出すものだ。
お年頃の陽子ちゃんなんかは、こんな所に来るより男前の彼氏の所に行った方がどれだけ楽しい事やら。まぁ彼氏がいるかどうかも知らないけど…。
『田中さん。また、枝豆を皮ごと食べてるんですかぁ?』
陽子ちゃんが笑いながら話しかけてくる。
『ウチの故郷だと皮ごと食べるんだよ。美味しいよ。陽子ちゃんも食べる?』
『えー。いらないですぅ。』
陽子ちゃんは本当に綺麗だ。
色白でスラッとしていて…。
課長が言うように新人の松尾が宇宙人なら、こんな綺麗な彼女は金星人なんじゃないかと思ってしまう。
小一時間が経過して親睦会もお開きになった。
なんちゃら宣言のせいで営業時間が短くなったのは、お店側は大変だろうけど憂鬱な付き合いから早く解放されるので自分にとってはありがたい。
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ガチャ
誰もいない家の扉を開ける。
マスクを外して着替えもせずにベッドに倒れ込むと時計の針はまだ22時を指していた。
早く帰って来てもやることがあるわけでもなく
YouTubeでも見ようかとスマホをいじっていた。
チャラララ〜♫チャラララ♪チャラララ〜♫
ピンクレディのUFOの着信音が鳴った。
故郷の伊藤からだ。
『もしもし。ひざしぶり!』
『おー。久しぶり!どうしたぁ?』
『いやぁ。元気にしてるかなぁと思ってやぁ。なんかそっちは大変なんだべ。大丈夫け?』
『おー。なんとかな。そっちこそ、どうなの?』
『こっちは、あいかわらずだぁ。飯とかちゃんと食えてんがぁ?』
『飯もなんとか食えてるよ。こっちの食べ物はなかなか合わなくて、苦労はしてるけど』
『あれだなぁ。すっかり田中もそっちの人になってまったなぁ。言葉も完全にそっちの感じだべなぁ』
『いやいや。そんな事もないよ。ちょっと気を抜くとついお国言葉がでて、職場の人に変な顔をされて困ってるよ』
『ほんとけぇ?もう、こっちの言葉を忘れてまったんでねぇか。オラが今から言う言葉がわかるけぇ?』
『※⁑⭐︎&△#□◇/◉』
『¥@&jy@#€£~%>*^+•=~|t¥』
『@&8$€€£•+*{#.6tu』
『g**€>%#£hu3』
電話を切ってベランダに行く。
久しぶりに故郷の友達と話すのは楽しかった。
最近はぜんぜん帰れていないし、少し寂しい気持ちになった。
煙草に火をつけ煙の行方を目で追うと、夜空にはたくさんの星が輝いていた。
故郷を後にしてから243年。
今日もプロキシマケンタウリは頭上で赤く輝いていた。
プロキシマケンタウリ…地球外知的生命体がいるかも知れないと言われている星
