スペックが「つよすぎて」もお祈り(除霊)される。市場とスキルの相性について。
「今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」
就職活動やフリーランスの案件応募で、
誰もが一度は受け取るこの定型文。
世に言う「お祈りメール」や。
不採用を食らえば、
普通は「自分のスキルが足りなかったのかな」
としょんぼりするもんやけど、
世の中にはごく稀に、
全く逆の理由で送られてくるお祈りメールが存在する。
あれは不採用通知ではない。
低単価の世界に迷い込んできた
特級呪物(オーバースペック人間)に対し、
発注側が恐怖のあまり全速力で塩を撒きにくる、
切実な「除霊の呪文」やったかもしれない。
今回は、
私が1文字1円未満の動画台本の世界に
ちょっと軽い気持ちでエントリーし、
自分ではかなり手応えのある成果物を提出したのに、
秒速でお祈り(除霊)された怪奇現象についてお話ししたい。
1円未満の世界に現れた「怪異」
私はWebエンジニアとして四半世紀、実に25年のキャリアを積んできた。
要件定義からアーキテクチャの設計、
バグのデバッグまで、それこそ
「どうすれば一番効率よく仕組み化できるか」を四六時中考えている、
一種の職業病を患った人間である。
そんな男が、ふとした気まぐれで「1文字1円未満」という、
主に初心者や副業ライターがひしめき合う
低単価レイヤーのテストライティングに挑んだ。
テーマは、専門的な知見と少しのユーモアが必要な台本作成。
書類選考(提案段階)はすんなり通った。
発注側(クライアント)からすれば、
「お、安価な枠になんか経験値の塊みたいなやつが釣れたぞ、ラッキー」
くらいの感覚だったのだろう。
「ぜひテストを」と案内された。
職業病の私は、指定されたマニュアルを読んだ瞬間から、
脳内で勝手に「仕様の最適化」を始めていた。
「ここに熱力学の知見や最新の事例を組み込んで……」
「台詞のキレは200%にして……」
依頼はテストライティングだったので1000文字程度だったが、
私はYouTubeアルゴリズムや読者の滞在時間、
途中離脱防止まで考慮した構成にしてしまった。
自分の持てる技術を動員して台本を執筆し、提出した。
結果として、クライアントからの修正依頼はほぼなく、
技術面や内容についても指摘は一切なかった。
私は「これなら継続できそうだ」と思った。
そう自惚れていた私の元に届いたのが、
冒頭の「お祈り(除霊)メール」だった。
なぜだ? クオリティは十分だったはずだ。
最初は、理不尽な結果にモヤモヤとした感情が湧き上がってきた。

相手が唱えた「お祈り」の本質
しかし、一晩おいて冷静になった頭にふと「例外」という言葉が浮かんだ。
「お祈り」とは運営を守るための「例外処理」だったのではないか。
もちろん、これは私の想像に過ぎない。
だが、後から客観的に振り返ってみれば、
あの時、以下のような構図が成り立っていたのかもしれない。
自分たちの想定を上回る完成度の成果物を生み出す
得体の知れない何か。
発注側からすれば、
それはもはや「指示通りに動くライター」ではない。
まるで、プロンプト以上のものを勝手に出力してくる、
自律的な超高性能AIと対峙しているような
不気味さがあったのかもしれない。
「指示を出すのが難しい」
「自分の管理キャパシティを超えている」
という心理的なコストが、
成果物のクオリティの高さゆえに
発生してしまったのではないか。
だからこそ、彼らは「例外処理」として、
「お祈り」を捧げたのだ。
「どうか、これ以上うちの領域を荒らさないで、
元の高い世界へ帰ってください」と、
必死に塩を撒いて結界を張ったのである。
相手の器のサイズを無視して、
自分のやり方を押し付け、
「どうだ、これで文句ないだろう」と
傲慢になっていたのは、
他ならぬ私の方だったのだ。
相手への文句は、
すべて自分の傲慢さが化けた邪気(生霊)だったのだ。
生存戦略のパラドックス
じゃあ、やっぱり相手の身の丈に合わせて、
ネットの情報を右から左に流したような
『無難な量産型テキスト』を書けばよかったのか?
いや、話はそう単純ではない。
ここに現代の動画プラットフォームが抱える死の罠がある。
実は、私はかつて関わっていたチャンネルが、
まさにその「無難な量産型」と
アルゴリズムに判定され、
一瞬でアカウントごと全ての案件が吹き飛んだ
地獄をこの目で見てきている。
今の時代、コピペベースの量産型コンテンツを作ることは、
チャンネルの死を意味するのだ。
だからこそ、私は彼らのチャンネルが死なないための
「生存戦略の盾」として、
誰にも真似できないガチの個性とロジックを台本に込めた。
彼らの未来を守るために、
あえて「強いコンテンツ」を作ったのだ。
なのに、結果は「除霊」。
私が命綱だと思っていたものは、
相手にとっては余計なお世話だったのかもしれない。
自分を清める、もう一つの「お祈り」
彼らには彼らの選んだ道があり、
彼らのサイズに合った因果がある。
私のスキルの安売りで引き止める義理はない。
伝わらない声を呪うのは、私の傲慢であり、
過去の遺産にしがみついた老害の妄執だ。
そう気づいた瞬間、
私の中で「もう一つの、お祈り」が始まった。
お祈りとは、自身の心を鎮め、聖なる存在と繋がり、
内省を深めて自分の思いを整理する行為でもある。
祓え給い、清め給え
私は静かに目を閉じ、自分自身の内面と対話した。
安い土俵で生霊になって徘徊し、
愚痴をこぼしていた醜い我執を
洗い流していく。
ここで私が得た最大の学びは、
スキルには「高い」「低い」という評価だけでなく、
「市場との相性(マッチング)」の要素がある、ということだ。
私は今回、能力が足りなかったのではない。
完全に「市場選び」を間違えただけだったのだ。
自分の培ってきた本物の技術は、
ちゃんと崖の全貌が見えていて、
命綱の価値を正当に評価してくれる、
もっと高いレイヤーの世界へ持っていけばいい。
そう考えると納得できた。
これはエンジニアの転職でも、
営業の現場でも、
すべてのビジネスにおいて全く同じことが言えるのではないだろうか。
もしあなたが、理不尽に「お祈り」されて悩んでいるなら、
それはあなたの価値が低いからではない。
ただ、その市場の需要と合わなかっただけだ。
だったらどうするか?
ちょうどいいレベルの案件を探すには、
「今の自分なら60〜80%の力で、
少し背伸びすれば完了できる案件」
を基準に探すと見つけやすい。
報酬も「自分の相場」にあったものを選ぶ。
具体的なサービスを挙げると、
「クラウドリンクス」とか「シュウマツワーカー」
とかの副業系エージェントが
おっさんエンジニアには相性が良さそう。
さっさと自分を清めて、自分の武器が最大価値に変わる、
ふさわしい市場へステップアップ(成仏)しよう。
追伸。
それでも今振り返ると、
あのクライアントの立場もよく分かる。
1円未満の募集に、
頼んでもいない生存戦略まで盛り込んだ台本が届いたら、
そりゃこう言いたくもなる。
「そんなん出されたら、うちの運営が往生しまっせ……!」
(ちっちきちー。)
※なお、本記事は筆者のほろ苦い実体験をベースにしつつも、
特定の個人や団体を攻撃・特定することを避けるため、
設定の大部分を大幅にデコレーション・抽象化した
「事実を元にした創作(フィクション)」としてお届けしております。
生霊の徘徊および除霊の儀式は、あくまで筆者の脳内イメージです。
