マイケル・ジャクソンに学ぶ身体操作24:「Shamone」と子音 /k/ の発声にみる、体軸リズムを遮らない脱力の美学
第4回の記事で、「Man in the Mirror」におけるマイケル・ジャクソンの発声が、「テクニック」ではなく、体軸リズムの副産物として生まれていることを見てきました。
その中で、英語の発音で重要視されがちな R 音が弱く聞こえるのは、「深層筋の動き(体軸リズム)を止めないように、身体が R の本来の動作を排除した結果だ」とお伝えしました。
今回はその続きとして、母音よりもはるかに短く、一瞬で耳を通り過ぎる、子音の話です。子音は、体軸リズムがどう使われているかが顕著に現れる場所でもあります。
今回は「Man in the Mirror」に登場する3つの音に注目します。
“As I turn up the collar on ♪”(0:27)
“A willow deeply scarred ♪”(1:55)
“It's gonna feel real good, shamone”(3:58)
この3つのフレーズを追うことで、体軸リズムに応じて ”k”音がどのように変化し、なぜ ”Sh” /ʃ/ 音(シュ)になるのかを見ていきます。
本題に入る前に、今回取り上げる発音についてミニ解説です。不要な人は飛ばしてください。
アメリカ英語の /k/ と Sh /ʃ/ の発音
①子音 /k/ は、日本語のカ行とは全く異なります。物まねで “コッケコッコー” と言うときの最初の「コ」に近い感覚で発音します。英語の /k/ では、舌の奥(舌根)を口蓋に向かって引き、口腔内に圧を溜め、一気に破裂させることで、はっきりとした音を作ります。息と舌の奥の圧を意識することが大切です。
声に出してみると、喉を強く締める必要はないのですが、日本語では普段使わない筋肉を使うため、慣れるまではどうしても喉を締める感覚が生じます。実は/k/音 は、日本人にとって最も難しい発音の一つです。それは、舌根の使い方+口腔内の圧+息の解放タイミング+脱力の制御 という、日本語にはない複合スキルが必要だからです。慣れるまでは、どれだけ強く発音しても「k音が弱い」と言われるほど難しい発音なのです。
②子音 /ʃ/ は、Short(ショート、短い)や Sheep(シープ、羊) の冒頭の音で、図書館で「シーーーっ」と言う音に似ています。アメリカ人も図書館では “Sh----” と言います。しかし、その出し方は全く異なります。日本語の「し」では舌先が前歯のすぐ後ろにあり、息を軽く吐きますが、英語の /ʃ/ では 下あごをわずかに前に出し、舌の中央を口蓋に近づけ、横隔膜で勢いよく息を押し出すことで摩擦音を作ります。
喉は締めず、むしろ開いたままの状態で、息の勢いと舌の形で音がはっきりします。これは、日本語の「し」とは喉の使い方も息の通り方も音圧も全く異なることがポイントです。
1.序盤の /k/:collar で立ち上がる体軸
曲序盤、0:27 の “As I turn up the collar on ♪” では、舌根で圧を作り、息を一気に解放する /k/音 が登場します。
ここでは、スネアのフレーム音と同期して、体軸リズムを前方向に立ち上げる「起爆点」として機能しています。
舌で圧を作り、息と身体の連動で透明感ある力強さを出す
体軸の前後の揺れや縦の軸圧を止めず、呼気を流し続ける
この瞬間の /k/ は、体軸リズムを溜めて一気に発射する破裂音です。
しかし /k/ 音は同時に、深層筋の連動を一瞬止め、呼気の流れを遮断する性質があります。序盤では、この「立ち上げ」の力が必要なため、体軸リズムを崩さない範囲で、精密に圧をコントロールしています。
2.中盤の /k/:scarred で流れに溶ける
曲が進むと、1:55 の “A willow deeply scarred ♪” の /k/ は、序盤の力強い破裂音とは少し異なります。
ここでは、
曲の流れが滑らか
体軸リズムを遮らずに音を通す必要がある
ため、舌根の圧は最小限に抑えられ、/k/ は r へすぐに移行する通過点として機能します。
破裂音としての強さは抑えつつ、流れを止めない
体軸リズムを滑らかに保つための「最小限の /k/」
この中盤の /k/ は、体軸リズムを妨げないように変化した k音と考えられます。日本語の「か」に近い感覚で発音され、柔らかい音であり、曲の流れに自然に乗っています。
3.終盤の /ʃ/:shamone で脱力して流す
曲終盤、3:58 の “It's gonna feel real good, shamone” では、k音ではなく Sh/ʃ/音(シュ)が選ばれています。
このタイミングでは、前のフレーズで既に力が発散されており、前方向への立ち上がりよりも、体軸リズムを滑らかに沈める流れ が優先されています。
/ʃ/ は摩擦音で、呼気を止めずに圧を逃がせる
Sh の後の m 音で共鳴を身体内に戻し、流れを自然につなぐ
つまり、序盤の力強い /k/ → 中盤の最小限 /k/ → 終盤の /ʃ/ と、音の形が体軸リズムに合わせて変化しているのです。
4.子音の変化に共通する脱力の美学
序盤から終盤まで、k音/Sh音が変化する過程には、明確な共通点があります。
深層筋に余計な力を入れない
圧を溜めすぎない
体軸リズムの揺れに声を預ける
脱力とは、力を抜くことではなく、力を局所に集めず、流れを止めないことです。
この結果、
声は透明になり
前へ自然に飛び
聴き手の身体に直接届く
という状態が生まれます。
5.体感してみよう
理屈より、体感で理解する方が早いでしょう。
みぞおちを軽く引き込む
上体をほんの少し前に倒す
息を止めずに吐き続ける
この状態で、
序盤の /k/(collar)
中盤の /k/(scarred)
終盤の /ʃ/(shamone)
を力を入れずに歌ってみてください。
喉や肩に力を入れると音はすぐ詰まりますが、体の揺れに任せると、声は勝手に前へ抜けていきます。
おわりに|子音は、身体が選んだ音
序盤の力強い /k/、中盤の流れる /k/、終盤の脱力 /ʃ/、いずれも 意図的なテクニックではなく、体軸リズムを最優先した結果の選択です。
子音は、意味を伝えるためだけの記号ではなく、身体が安全に動き続けるために残した音でもあるのです。
次回は、この話をさらに一歩進め、マイケル特有の「ッアッ(無声破裂)」という音の秘密に迫ります。
