僕の本棚 #06|『天才の栄光と挫折』
この本を最初に読んだのは、30歳の頃でした。
北海道大学の図書館で、科学史に関する本を読み漁っていた時期です。
当時は、数学そのものだけではなく、数学者の人生や科学の歴史に強く興味を持っていました。
この本は、文庫本ではありませんでした。
もっと大きなハードカバーの本だったように記憶しています。
なぜ、この本を手に取ったのか。
今となっては、はっきりとは覚えていません。
でも、不思議なことに、本から漂う独特の雰囲気だけは覚えています。
うまく言葉にできないのですが、「覇者の空気」のようなものを感じたのです。
何かに引き寄せられるように、この本を読み始めました。
特に印象に残っているのは、最後に書かれていたアンドリュー・ワイルズの章です。
フェルマーの最終定理。
数学史に残る難問に挑み続けた数学者の物語です。
読み終えた時の感覚を、私は今でも覚えています。
まるで映画を一本見終わったような感覚でした。
目の前に映像が浮かび上がるような、不思議な読書体験でした。
大学院時代の私は、数学者の人生に強く惹かれていました。
ガロア。
アーベル。
カントール。
そして、アンドリュー・ワイルズ。
数学の定理や証明だけではありません。
その背景にある、人間の苦悩や情熱に魅力を感じていたのだと思います。
高校教師になってからは、この本を生徒に薦めることもありました。
数学が好きな生徒には、ぜひ読んでほしかったからです。
数学は、公式を覚えるだけの学問ではありません。
そこには、人間の物語があります。
最近、本棚を整理しました。
それでも、この本は手元に残しました。
30歳の頃の私が、北大の図書館で夢中になって読んでいた一冊だからです。
今でも、アンドリュー・ワイルズの章を思い出すと、映画を見終わった後のような余韻がよみがえります。
