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妹が婚約破棄されそうになった時に、兄が彼氏に送った手紙。

もう何年も前のことになる。
私は札幌在住で4人兄妹の長男、現在31歳だ。たしかこの話は私が25歳、妹が24歳の時のことだったと記憶している。

当時、4人兄妹全員はまだ札幌市内の実家で暮らしていた。ある夜、私が家に帰ると薄明かりのつくダイニングで妹がしくしく泣いていた。

母に聞く。

「あれ?なんで泣いてんの?」

「…ほら、彼氏。なんか別れたいって言われたらしいのよ」


穏やかではないね。私の妹は小さな頃、心臓の持病があり何度も手術を受けた病弱な女の子。私と年齢が1歳しか変わらない。お兄ちゃんがいつも守ってきた。その割には私を名前で呼び捨てにして、いまだに「キモ」と言ってくるんだけど、でも大切な妹だ。

彼氏の存在は知っていた。

妹と同い年で九州出身の男の子。ガタイがいいのにメガネをかけていて、性格はマジメ。妹は彼氏をすぐに実家に呼ぶから、家族6人で彼を何度かもてなしたことがあった。「さ、さすが北海道!ご飯がぜんぶウマイっす!ウマイっす!」と言ってお酒をガブガブ飲む。さすが九州男児。北海道民はふるさとを褒められると調子に乗るから、彼のおもてなしにますます拍車がかかる。私なんて彼と肩を組んでお酒を飲むほどだった。

彼氏はいわゆる転勤族だった。たまたま北海道が勤務地になり、そこで私の妹と出会ったらしい。経緯は無粋だから聞いていないけど、何やら運命的であったらしい。妹と彼氏はいつしか結婚を約束した。

その妹が泣いている。

あのマジメな彼氏と別れ話をして泣いている。もう1人の妹と弟は彼女にノータッチでいた。私の出番だ。お兄ちゃんだから。

下の兄妹の悩み事が私のもとにやってくる時、なぜか最後の最後でみんな意見を求めにくる。「いよいよヤバい、どうしよう、そうだあいつに相談しよう!」といった具合で、私は家族の最後の砦としての役割を担っていた。

先日母から言われた。

「あんたは小さい時から空気の読める子だった。誰かが泣いてたら隣にいて『どうしたの?』ってニコニコしてたよ」

今なら思う。
母さんがそう育ててくれたんだよ。



「なに、フラれたの?」

「…」

「結婚は?」

「…」

「何があったの?」

「…」

妹が私を見る。

「うえええええええん!!」

「どりゃどりゃ笑。落ち着けよ」

「…しくしく」

「聞かせてごらんよ」

どうやらこういうことらしかった。

・彼氏は転勤族
・妹は家族が大好きだから、
 北海道を離れさせるのは少しためらわれる
・心から結婚はしたい
・自分よりいい人は他にいるんじゃないか


ふーむ、なるほど。どうでしょうか女性諸君。この理由はいかがか。怪しい? それともマジメ? 判断が分かれるところだ。

当時25歳の私はこう判断した。



なんてマジメな奴だ!!好き!!!




「それで、どうしたいの?」

「…別れたくない〜」

「完全に別れたわけじゃないの?」

「…今度話し合いをするの〜」

「次いつ会うの?」

「…来週くらい〜うえええええん!!」

「笑」

「…なんで笑うの〜」

「要は迷ってるんでしょ?」

「多分そう〜マジメだから〜うえええん!!」

「じゃあ、ちょっと待ってなよ」

「なに〜しくしく」


こういう時はお節介をはたらいてもいいはずだ。彼氏にどう思われようと気にしない。私たちは家族で生きている。なんせ私はお兄ちゃんだ。いつもこうやってきた。

何をするか。

手紙を書くことにした。

(私なら嫌だなぁ笑)



ささっと、手紙を書いて妹に渡した。

「なにこれ〜」

「これ開けないで、彼と一緒に見てみ」

「…見ちゃダメなの〜?」

「2人で読むやつだから開けちゃダメ」

「分かった、しくしく」





数日経って、妹が夜、家に帰ってきた。
顔が晴れやかでニコニコしている。

「どうだった?」

「結婚するわ、ありがと!」

「ウケる。よかったじゃん」

「〇〇君が言ってたよ。『いかにもお兄さんが書きそうだし、なにより字がキレイだ』って」

「当たり前じゃん」






それから時が経って現在。

妹は2人の子宝に恵まれ、全国各地を転々とした後、旦那さんと北海道に帰ってきた。彼は札幌に家を購入し、私の両親と二世帯住宅で暮らしている。彼に会うと「あ!お兄やん!ささ!どうぞどうぞ!」とニコニコしてくれる。妹は相変わらず「ほんとキモい」と言って、姪っ子と甥っ子はいつも私にチョップしてくる。





あの時、手紙にはこう書いた。






迷った時はコインを投げてごらん。

表が出たら結婚、裏が出たら別れる。
投げたコインが空中で回転している時に、
本当はどっちを望んでいるかが分かるよ。

頭に浮かんだ方を選んでごらん。






この前、妹とそんな思い出話をしたけれど「そんなことあったっけ?」とあっけらかんとしていた。でも、彼はニコニコうなずいていた。妹が私に感謝することは多分ない。それでもいい。それがお兄ちゃんだから。


〈追記2023.02.09 この続きを描きました〉



〈あとがき〉
18歳〜25歳のとき「名言ノート」を作って1人で世界の名言をメモしていました。手紙に書いたことは、その名言ノートの中から引用してニュアンスを変えたものです。妹は天然ですがすっかり母の顔になり、彼ともいまだに仲良くやっているようです。最後までありがとうございました。

▶︎お兄ちゃんがnoteを書く理由



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