この世で1番強い酒。
「えーと、じゃあ、
この世で1番強いお酒をひとつくださーい」
気づいたら私はすすきの交番にいた。
深夜2時すぎ。
後ろにはすっぴんの妻がいる。
なんで?
昨夜、私は友人と3人で居酒屋にいた。
半年ぶりに会う友人。
なんか、仕事の話をした気がする。
あと、それぞれに恋人ができたらしい。そんな報告をうんうんニコニコ聞いていた気がする。
一軒目の居酒屋のラストオーダーが終わって、友人が言った。
「二軒目、行こう」
様式美である。
一軒行ったらもう一軒。
二軒目のお店に行った。店員さんが「ご注文はお決まりですか?」と尋ねてくれたので、言ったのが冒頭のセリフである。
「えーと、じゃあ、
この世で1番強いお酒をひとつくださーい」
渾身のジョークが炸裂。
たしか笑ってくれてた気がする。
お酒が出てくる。
なんか透明のお酒。
目の前でトクトクとコップにお酒がつがれていく。それをニヤニヤして見ていた気がする。
「これがこの世で1番強いお酒ですか?」
聞いた気がする。
この世で1番強いお酒。
よくあるお酒。名前がわからない。
別に、本当にこの世で1番ではない。
無色透明で臭みもない。飲んでみると飲みやすい。スッと入ってくる。特に酔っ払う感じもない。
そのお酒を2杯飲んだはず。
で、記憶がない。
地平の彼方に記憶を置いてきた。
家に帰ってマンションの前に立つ。
鍵がない気がする。
おかしい。
ピンポンを押した気がする。
で、気づいたらすすきの交番にいた。
後ろにはすっぴんの妻。
なんでか分からないけど、私の顔と手の甲にはたくさんのすり傷がある。たぶん転びまくったんだ。
マジで迷惑。ほんとごめん、妻。
なぜすすきの交番にいたかというと、カバンがなかったからだ。幸い、スマホや携帯はダウンの中に入れていたから大丈夫。カバンの中には機密情報も入っていない。最悪見つからなくても困らない。いや、困る。
どうやって家に帰ったのか思い出せない。
けど寝た。
で、朝、起きた。
カバンはない。
記憶も、ない。
スーツに着替えて外に出る。
カバンを探しに。
札幌は、しんしんと雪が降っている。
雪が積もってる。足首まで埋まるくらい。
昨日の夜にたくさん降ったみたいだ。
探した。カバンを。
で、見つけた。
道端に落ちてた。雪をかぶって。
着ているダウンの中に手を入れる。
AirPodsがない。
AirPodsが、ない。
あの、革命的イヤフォンがない。
夜中に落としたんだ。
困る。
また探す。
iPhoneに入っている「探す」というアプリで。
でも見つからない。
いや、場所は特定できてる。アプリで。
だけど雪が積もりすぎてて見つからない。
白に白だし。
音を出す、という機能を使ってもダメ。
ああ、困るなぁ。
で、分かったことがある。
この世で1番強いお酒は、飲んじゃダメ。
〈追記2023.1.15 一生お酒飲みません〉

〈あとがき〉
絶対飲んではいけません。マジで反省です。反省が文章に出てそうです。年が明けてもう何回転んだのでしょう。リレーエッセイ読みました。ぜんぶクソおもしろいです。ニコニコして読みました。ぜんぶ鳥肌たちました。その記憶はあるんです。この世で1番強いお酒って、なんなんだろう、と思いながらすり傷を触ります。妻にもう一回謝ろう。いつもありがとう、ごめんね、って。今日もありがとうございました。
◾️お酒の失敗談はコチラもオススメ
