夕日の思い出。
北海道の田舎で育った。
夏の夜は家の裏にある田んぼでカエルがガーガー鳴いていた。家の中にカエルが入ってくることもあった。
暑い夏の夜は、父と母が庭でお肉を焼く準備をしてくれて、兄妹4人と近所の子どもたちと一緒にお肉を焼いた。
夏の夜、私は花火をやるよりも、星をみている方が好きだった。じーっと星をみていると、ゆっくりと動くきらめきがいくつかみえる。
「あれはUFOなの?」と父に聞くと「あれは人工衛星か宇宙ステーションだな」と教えてくれた。
…
冬になると家の裏の田んぼは、
一面が大雪原になる。
白鳥たちが飛来するから、これまたガーガーという鳴き声が家の中まで聴こえてくる。私が育った町は、白鳥の通り道だったから。
だから、朝起きては雪の田んぼへみに行った。
「白鳥だけど、泥かなにかで茶色くなってるな」
と、ひとり思った。
冬もまた夜の星が好きだった。
オリオン座がみえるからだ。
オリオン座は冬しかみることができない。
オリオンのベルトには大きな星が3つ綺麗にならんでいて、小さな私はそれをずっとみていられた。マイナスの世界でもお構いなし。
学校のノートにはオリオン座を何個も描いた。
3つならんだオリオンのベルトを取り囲む4つの星。英雄オリオンの腕まで描いて、顔も描いた。
小学6年生くらいまで、ノートにオリオン座を描いては誰に見せるでもなくひとりニコニコしていた。それくらいオリオン座が好きだった。
もっと好きだったのは、夕日。
夏、近所の公園のブランコに乗ると、真正面に夕陽が沈んでいった。遠くには山があって、沈む夕日は山に吸い込まれていく。
普段生きていると、太陽が動いていることを認識することはないけれど、山の端に太陽が近づくにつれて、太陽の動きが目でみてわかるようになる。
あれをじーっとみている時間が好きだった。
小さく一人でブランコに乗って。
太陽が沈んで真っ暗になる前の時間。
虫がぶんぶん飛んで、車がまったく通らない道路の上にはオケラたちが集まる。
その中でオケラを踏まないようにサッカーボールを蹴っていた。これまた一人で。もっとサッカーが上手になりたかったから、ずっとリフティングをしていた。
やがて真っ暗になると、周りの家々からは味噌汁やらカレーの匂いがしてくる。あの匂いも好きだった。
ず〜っと家の近くでサッカーボールを蹴っていると、やがてお母さんが外に出てくる。
そして言われる。
「ダーキ、帰っておいで、ごはんだよ」
…
私はもう、その田舎には住んでいないし、
実家もそこにはない。
結婚してから、妻にどうしてもあの夕日をみせてあげたくて、私が育った町に一緒に夕日をみに行ったことがある。小さなころに遊んでいた公園にはもう誰もいなくて、私と妻の2人だけ。
「ほら、ブランコに座ろう。みてて。夕日が動いて、山に吸い込まれていくから」
いま、札幌に生きている私は、夕日をみることがない。周りをビルに囲まれているからだ。
もしも私に子どもが生まれたなら、
毎日あの夕日をみせてあげたい。
だから、両親に思う。
あの田舎で私を育ててくれて、
どうもありがとう。

<あとがき>
札幌のとなり町で育った私は、地平の向こうに広がる札幌の景色を毎日みては、「いつか札幌にいくんだ」と思って少年時代を過ごしました。人は考えた通りの人間になるのです。アメリカや東京で暮らしたいと思ったことがないから、いまもこうして札幌にいるわけです。今日も最後までありがとうございました。
【関連】家族の思い出ならこちらもオススメ!
