血道 エピローグ②
わたしが久しぶりに、香菜子先輩と樹音さんと会ったのは、あの事件のふた月ほどあとのことだ。
まだ樹音さんは折れた骨をギプスで固定していた。痛くはないと言っていたが、香菜子先輩は「こんな調子で動き回るから、一向に骨がくっつかない」とため息をついていたのを覚えている。
彼らは、わたしに光里の最後を教えてくれた。
彼は、血道の親族とともに、崩壊した屋敷の中に取り残されたのだと。
何を言っているんだろう。
おかしな話だ。
遺体も見つかっていないのに、死んだなんて。全焼した邸宅跡から、骨の一本も見つからないなんて、不自然なことがあるだろうか。
そう言うと、樹音さんはおかしそうに笑った。
あのあと、わたしは元の生活に戻っている。
大学に行って、講義を受け、図書館に行って、アパートに帰る。
「ただいま」
「おかえり」
わたしが家に帰ると、彼は暖かく迎え入れてくれた。
わたしは真っすぐと彼に向かった。
彼はいつも通り、ソファに座ってわたしを待っていた。
「みんな、変なことを言うの。光里は死んじゃったんだって」
彼は首を傾げて、わたしの話を聞いている。
「いっしょにいるのにね」
美しい男。
わたしの男。
死んだとしたら、わたしが自宅に帰ったその晩、わたしの家のドアをたたいた男は誰だったのだろう。
入れてくれと言ったあの男は。
わたしが『招き入れた』この男は、一体光里でなければ誰だというのだ。
わたしを選んで、わたしが選んだこの男。
彼を見ると、わたしの心臓が脈打つのを感じる。この血が、快哉を叫ぶ。この感情が愛でないのならば、一体何なのだろう。
わたしは、彼を愛している。
彼は、わたしに「入れてくれ。新苗」と言った。体をつなげだ夜以来、わたしをそう呼んではくれなかったのに、わたしを新苗と呼んでくれた。
わたしは、選ばれたのだ。
彼に。
この男が、大山光里でなければ、誰だというのだ。
彼はゆっくりと瞬きをした。相変わらず、蝶の羽ばたきのような音がする。
こんなに幸せで、いいのだろうか。こんなに満ち足りていて、いいのだろうか。
微かな不安も、彼を見るだけでいっぺんに消えてしまう。
「光里が死んだなんて、あるわけないのにね」
「うん」
「一緒にいてくれるものね」
「うん」
「置いていかないよね……?」
彼はわたしの問いを聞いて、にっこりと微笑んだ。
「もちろん」
正しきものを招きいれよ。
「もうおいていかないよ」
彼は、ここにいる。わたしのそばに。ずっといてくれる。
──たとえ、触れられないとしても、この家から一歩も出ないとしても。ならば、わたしがともにこの家にいればいいのだ。
だから、だからきっと。
この人は、わたしの愛した大山光里に違いない。
