愛の実体

遠い過去の日。
愛がわかるふりをしなくちゃいけない! と思って。
見栄を張った。
「愛している」って、キャラクターに言わせてしまった。
カラッポな心のままで。
そのセリフは宙に浮いて、空々しい嘘くさいものになってしまった。
私はそれを、どこかで知っていた。
けど、誰かがそれを本当だと勘違いしてくれたらいいなー。と虫のよい望みを抱いていた。

相方の評は、きびしかった。
その苦さに、息を呑んだ。
声にならない悲鳴をあげた。
あまりに痛くて呑みこみたくない…それは不変の真実だった。
その瞬間に、すべてが明らかになってしまった。
私は親に、存在を喜ばれたことがない。
一度も抱きしめられたことがない。撫でられたこともない。
いつも邪魔にされ、そのくせ親を養うことを十歳にもならないうちから確定的な精度で決められていた。
私には、両親を含む家族全員から吸血されるルートしか設定されていなかったのだ。

愛なんか知らない。
食べたことも触ったこともない。
書けるはずがない。
それなのに、みんなができることを「できる」と言いたくて見栄を張ってしまった。
失墜した。
くだらない見栄で、愛を汚してしまった。
私は「愛」を禁止ワードにした。
わからないものに、気安く触れてはいけない。
いつしかほんとうに腹の底で愛が感じられるときが来たら、封印が解かれることがあるかもしれない。
でも、そんな奇跡は一生おこらないかもしれない。悲しいことだけど。
私はカラッポの「愛」を戒め、厳重に封をした。気安く浮かんでこないように、重しをつけて海の底に沈めた。

愛としか、言いようのないできごとがある。
見栄っ張りで、しょーもない面をもつ私だけど。
私に関わったら、猛毒実父から殴られそうになったりして、迷惑をかけられるデメリットしかないんだけど。
なぜか、相方はそばにいた。
いてくれた。
なんでやねん。
苦いこと言うたやん。
ねえ。
言いにくいほんとのこと、遠慮なく言ってくれるわー。
相方は、果たして私に愛がわかる日がくると思っていたのだろうか。
さて。
それはわからない。
私たちは、なんとなく一緒にいた。
なんとなく支えあって、なんとなく生きてきた。
創作をやめたけど、なんとなく再開した。
そして、のほほんと元気になっていたりする。
なんでやねん。
わからんわ。なんとなくや。

愛は……。
ずっとわからなかったはずの愛は、体の底のほうから湧きあがってきた。
たまたま親に愛されなかったからといって、私自身が自分や周囲を愛してはいけないという決まりはない。
私は愛の失格者のように感じていたけれど、実際にはそうではなかった。
愛されないほどダメな人間だから、捨てられたわけではない。
両親は、自分たちが子どもを愛さなかった事実を、子どもに原因があることにしたかったのだ。
そうしないと、自分たちが自ら望んで生み出したはずの命を、粗末にするダメな人間だということになってしまうからだ。

私は…
彼らに愛されはしなかったけど…
もしもほんとうに、愛の失格者だったら…
相方に見捨てられていると思うし、
いつも行ってるお店のマスターと奥さんに、ほんとうのお父さんお母さんみたいに優しくされることもなくて。
一度も会ったことのない、ネット上でしかお互いを知らないハイソサエティなおぢさまに、よくしていただくこともなくて。
おぢさまが、私が体調を崩したことを知って、元気になるよう願いながら文章を書いてくださることもないはずで。

愛は…
失われていたのじゃなくて。
私の中に欠けていたんじゃなくて。
子どもは生まれつき愛を持っているので。
ほんとうは、持っていたのだけれど。
ただ…両親にあげた愛を跳ね返されて、叩きつけられて…かなしみに沈んだ心が凍りついて、愛を呪ったので。
愛は、最初から存在していないことになった。
ただ、それだけのこと。
受け取ってくれるひとがいるなら…
愛は輝くように湧きだし、どこからともなく降ってくる。
光と同じものだから。
無限に降り注いで、心を満たす。魂を洗う。
受けとってもらえることは、恩寵に近い喜びである。
拒まれて地面に叩きつけられたから、感じることのできるありがたさなのかな。
だけど、見えないものは見えないけど、存在している。
感じることはできる。
目に見えないけど、太陽の光があたると背中が温かくなる。
風が吹けば、頬が涼しい。
それが、見えない人は…
闇に、その目がロックされている。
ということなんだと思う。
ちょっと、心配。

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